4.2 学術情報センターの役割と活動

学術情報センター

小野 欽司

1.はじめに

 学術情報センターは、研究者が必要とする学術情報を収集し、電子的に蓄積し、学術情報ネットワークを通じて迅速、的確に提供するための学術情報システムを構築、運用している。
学術情報システムは、全国の大学等に対して学術研究のための情報基盤を提供し、わが国の学術の発展を支えている。 

2.学術情報センターの役割

 学術情報センターは、昭和61年に文部省の大学共同利用機関として設置され、全国的かつ総合的な学術情報システムの整備を推進する中枢的な機関の役割を担っている。
すなわち、学術情報を収集、蓄積、提供するための学術情報システムの構築、運用およびこれに係わる研究開発と教育研修活動を行っている。
学術情報センターでは、全国の大学等の学内LANや大型電子計算センター、情報処理センター、図書館を結ぶ学術情報ネットワークの提供、目録所在情報サービス、情報検索サービス、電子図書館サービス、種々のWWW(資源提供)サービスなどの事業を行っている。

3.学術情報ネットワーク

昭和61年度から全国的な学術情報ネットワークの整備に着手し、現在では高速のATM(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)によるバックボーンネットワークの上でインターネットのサービスを提供している。
このインターネットバックボーン(SINET)は、主として全国の大学等を接続する我が国最大の学術情報ネットワークであり、ATMの設置されるノード機関は平成11年3月現在32ノードとなっている。また、国内の他のインターネットと相互接続して全国規模の学術研究ネットワークを形成している。平成11年3月現在764の大学等の機関が学術情報センターの学術情報ネットワークに加入している。
日米間の回線は150Mbpsで、またヨーロッパへは米国経由で2Mbit/sec、タイのバンコックとの間にも2Mbit/secでインターネットの直接接続がなされ海外との学術情報交換に貢献している。

3.学術情報コンピュータシステム

 学術情報センターのコンピュータシステムはこれまでメインフレームのシステムとして個々のサービスに対応した運用がされてきた。
しかし、最近の情報技術の進歩に対応して、センターシステムのオープン化を推進している。オープンシステムではUnixを OSとするサーバシステムで構成され、既存のサービスに加えて、電子図書館サービスやマルチメディアサービスなどにも容易に対応できる構成としている。

4.サービスの現状

1) 目録所在情報サービス
目録システム(NACSIS-CAT)については、平成11年3月現在で目録システムにオンライン接続されている大学等は670機関、図書所蔵の登録件数も3864万件となった。
インターネットからの目録所在情報へのアクセスを容易とするWEBCATを平成9年から開始している。現在1日平均20,000件以上のアクセスがある。
英国内の日本語資料の総合目録の作成については、平成11年3月現在の所蔵登録件数は約12万件となった。
一方、ILLシステムはNACSIS‐CATによって構築された総合目録データベースを活用して図書館相互貸借業務を支援するものである。平成10年度の1日平均の依頼件数はおよそ3,800件に達している。
平成6年度から英国図書館原報提供センター(BLDSC)、平成8年度から国立国会図書館との協力体制を整備し、ゲートウエイ機能によって相互貸借業務を実施している。
国際ILLへの対応の準備も進めている。

2)情報検索サービス
情報検索サービス(NACSIS−IR)は、平成11年3月現在59種、レコード件数9000万件のデータベースの検索サービスを行っている。NACSIS−IRの利用者は大学等の研究者のみならず、日本学術会議に登録された学協会の会員に対し、その所属先を問わずに広く開放している。
さらに、日本科学技術情報センターとのゲートウエイ機能によって相互のデータベース利用が可能になり一層利用価値が高くなった。
なお、情報検索システムと目録情報システムのインターネットからのアクセスを可能としている。
さらに、学会誌を対象としたオンラインジャーナル編集・出版システムの開発を進めている。

3)電子図書館サービス
電子図書館サービスは学術雑誌のページをそのまま電子化し、書誌情報とともに検索できるもので、インターネット上で利用できる。平成9年4月より電子図書館サービスの試行を開始し、平成11年3月現在現在74学会の刊行する226誌を収録対象としている。
平成11年1月から各学会が定めた学会誌のページ毎の「著作権使用料」の課金を開始した。
他に、「研究者公募情報サービス」や学協会の情報発信を支援する「WWW資源提供サービス」を行っている。

5. 研究開発活動 

研究開発活動も強力に推進されている。超高速通信網や電子図書館サービスのさらなる高度化を目指した研究開発を進め、その成果を学術情報ネットワークや学術情報サービスの次期整備に活かしている。
現在の研究課題の主なものは
−学術情報管理、利用や図書館情報学、記号科学にかかわる研究開発
−コンテンツ構築(電子図書館やデータベース等)に係わる研究開発
−学術情報インフラ(ネットワークやコンピュータシステム等)に係わる研究開発
−マルチメディア統合利用や情報検索にかかわるアプリケーションの研究開発
−学術情報センターに蓄積された膨大なデータに基づく研究動向調査研究
などである。
また情報学の中核的研究拠点(COE)としての、情報に係わる基盤的、総合的な研究を進めている。

6. 教育研修活動

教育研修活動では、センターとの接続機関数の増大や利用者のニーズに応えるため年々充実を図ってきたが、平成7年4月に教育研修部が新設され、教育研修事業を推進するための基盤が整えられた。教育研修においては、当センターが提供する各種のサービスに係わる研修・講習会を充実させるだけでなく、各大学・研究機関等から要望の高い学術情報システムの構築・運用を担う人材養成のプログラムも開始している。また今日的課題をテーマに毎年学術情報センターシンポジウムを関西と東京で開催している。

7. むすび

我が国の学術情報基盤を支えるため、学術情報センターは創設時の理念に照らして学術情報の組織化とシステムの構築・運営、研究開発を行っているが、平成12年4月には情報学の中核的研究機関として改組・転換される予定である。