1.6    地 域 公 開 と 大 学 図 書 館 ボ ラ ン テ ィ ア

                  筑波大学図書館部長  湯浅 冨士夫

1.はじめに

  平成10年10月大学審議会は文部大臣からの「21世紀の大学像と今後の改革方策について」の諮問に対し答申を行ったが、その中で「地域社会や産業界との連携・交流の推進」(第2章、2、(2))について記している。ここでは主として社会人に対するリフレッシュ教育の実施、共同研究の実施、企業との連携等について論じられており、大学図書館についての言及はないが、「連携・交流推進の意義」として「(a)大学と地域社会や産業界の連携・交流の強化を図ることは、大学がその知的資源をもって積極的に社会の発展に貢献するために極めて重要である。また、これにとどまらず、社会との連携・交流を通じて大学の教育研究が活性化することにもつながるものである。「(b)大学の教育研究機能に対する社会の要請の高まりに積極的に対応するためには、大学が受け身の姿勢ではなく、種々の形態による社会人の受入れをはじめとして、大学の社会貢献を強化する姿勢を積極的に地域社会や産業界に対し訴え掛けることが重要である。」などが挙げられている。大学図書館も大学を構成する組織として、「社会との連携協力」への真摯な取り組みが求められるところである。

 

2.地域公開

  一般市民の大学図書館利用についての希望は年々高まっているが、一方各大学図書館においても公開を進めてきており、平成9年度の統計によれば、国公私立大学図書館578館のうち、98.6%が学外者の利用を認めている。(文部省学術国際局学術情報課「大学図書館実態調査結果報告」。以下「実態調査結果報告」という。)

  また、他の大学や試験研究機関の構成員を除いた、いわゆる一般市民の利用者は国公私立大学図書館全体で昭和62年度(1987)に128,475 人であったが、10年後の平成9年度(1987)には279,588 人となり、約2.2倍に伸びている。(「実態調査結果報告」)

  各大学図書館とも原則的には「大学における教育研究活動に支障を生じない範囲内」で一般市民の利用を認めており、利用の範囲も手続きも一様ではない。利用者である一般市民の要望も多様であり、それに対する対応も大学の設置主体(国、公、私)、地域(都市部、非都市部)、近接の公共図書館との関係、大学構成員の意識等によって異なる。

  現在、一般市民への公開は生涯学習との関連においてもその推進が求められている。学術審議会学術情報資料分科会学術情報部会の「大学図書館機能の強化・高度化の推進について」(報告)(平成5年)では次のように述べている。

 「社会における生涯学習ニ_ズが高まる中で、大学の地域社会への協力や、生涯学習における大学の教育研究機能の活用が求められている。大学図書館においても、公共図書館では提供し得ない高度な学術情報を地域社会や市民へ積極的に公開し、生涯学習活動を支援することが期待されている。各大学図書館が大学及び地域の実情を勘案し、大学における教育研究機能に支障を来さないように配慮しつつ、こうした新たな課題に積極的に対応することが望まれる。」

  また、生涯学習審議会の答申「地域における生涯学習機会の充実方策について」(平成8年)では次のように述べている。

 「大学等の施設の開放は、図書館・博物館・資料館・体育館・グランドなどが主な対象となるが、実情に応じて、多様な施設の開放が可能な限りおこなわれるよう工夫されるべきである。これらの施設を円滑に開放するためには、大学等が地域社会の一員として地域に積極的に貢献していくことが社会から強く期待されている、との共通認識を学内で確立することが必要である。」

2.ボランティア活動と生涯学習

  さまざまなボランティア活動が新聞やテレビなどのメディアを賑わしている。ボランティア活動は社会福祉の分野では長い歴史をもつが、近年はその他の分野でのボランティア活動も活発化してきている。日本におけるボランティア活動の活発化は、日本の社会の成熟化、すなわち所得水準の上昇、自由時間の増加、教育水準の上昇、高齢化の進展等が大きな要因になっていると言われる。

  飢餓や戦争、伝染病の蔓延など生命を脅かす要因が遠ざかり、社会の安定と経済的な安定が得られてみると、人間はそれだけでは満足できない自分を発見する。

  米国の心理学者A.H.マスロ_は人間の欲求の五段階区分を示し、人間はある欲求が満たされるとより高次のものを求める性質をもっているという。

 第一段階  生理的欲求のレベル(飢え、渇き、睡眠、性)

 第二段階  安全欲求のレベル(危険の回避)

 第三段階  愛情欲求のレベル

 第四段階  尊敬欲求のレベル(尊敬、支配、名誉)

 第五段階  自己実現欲求のレベル(自己達成、生きがい)

  人間は衣食住に満足するだけにとどまらず、何かを実践することによって自分が社会的に価値ある存在であること、そしてそれが客観的に評価されることによって生きがいを感ずる生物だといえる。

  高齢化が進展している現在、ボランティア活動は生涯学習の観点から積極的な評価がされるようになった。

  生涯学習審議会では文部大臣に諮問に対する答申の中でボランティア活動について次のように記している。(抄出)

 ○ 「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」(平成4年)

  「ボランティア活動は、個人の自由意思に基づき、その技能や時間等を進んで提供し、社会に貢献することでありボランティア活動の基本的理念は、自発(自由意思)性、無償(無給)性、公共(公益)性、先駆(開発、発展)性にあるとする考え方が一般的である。このような生涯学習とボランティア活動との関連は、次の三つの視点からとらえることができる。第一は、ボランティア活動そのものが自己開発、自己実現につながる生涯学習となるという視点、第二は、ボランティア活動を行うために必要な知識、技術を習得するための学習として生涯学習があり、学習の成果を生かし、深める実践としてボランティア活動があるという視点、第三は、人々の生涯学習を支援するボランティア活動によって、生涯学習の振興が一層図られるという視点である。これら三つの視点は、実際の諸活動の上で相互に関連するものである。」

  「誰もが社会の一員として、自然に無理なく楽しくボランティア活動を行えるような条件を整えることにより、ボランティア層の拡大を目指すことが重要である。・・・・・・・(中略)・・・・・ そのためには、ボランティアとして活動するための基礎的な学習機会の充実や、学習の成果や能力を生かした活動の場の開発が今後の課題であり、特に公的施設・機関等の役割が期待される。」

 ○ 「地域における生涯学習機会の充実方策について」(平成8年)

  「社会人学生の受入れ以外の方法による地域社会への貢献も重要である。・・・・・(中略)・・・・今後は更に広く地域一般の住民に生涯学習の場を提供することを通じて、地域社会に貢献するという役割が期待される。」

  「大学等の図書館、資料館あるいは附属病院などにおいて、ボランティアの人々による施設運営への協力・支援が見られるようになっている。こうしたボランティアの活動は、大学等にとって、施設の機能の充実、組織の運営の向上のために極めて重要である。また、地域の人々の学習成果や経験を生かす機会の確保、社会における有能な人材の公共の場での活用、大学等が地域社会に支えられているという好ましい雰囲気の醸成などの点においても有意義である。今後、充実したボランティア活動が多様な形態で進むよう、大学等においてボランティアの育成を図るとともに、受入れの仕組みを明確にし、広く社会に積極的な受入れの姿勢を示すことが大切である。その際、ボランティアを対象とする研修の充実も必要である。」

3.大学図書館におけるボランティアの受入れ(筑波大学附属図書館の例)

  公共図書館におけるボランティアの受入れは、例も多く、実績が積まれているが、大学図書館ではまだ数も少なく、歴史も浅い。ここでは、筑波大学附属図書館におけるこれまでの取り組みについて紹介する。

 3.1 経緯

  (1)受入れの検討    平成4_6年度

  (2)受入れ開始     平成7年4月

  (3)ボランティア数   43名(平成7)、47名(平成8)、55名(平成9)

               48名(平成10)、53名(平成11)

 3.2 活動内容

   (1)図書館総合案内

   (2)身体障害者に対する図書館利用支援

   (3)外国人に対する図書館利用支援

   (4)利用環境整備(平成11年度から)

   (5)殊資料整理( 同  上   )

   (6)図書館公開事業への協力

   (7)図書館見学案内

   (8)ボランティア活動の広報

 3.3 活動時間

   平日の午前(10時_12時)及び午後(13時_16時)の間で、1週間に少な

   くとも半日以上。

 3.4 研修

   (1)事前研修

   (2)フォロ_アップ研修

   (3)自主的勉強会

 3.5 運営

   (1)運営方針の審議・策定・・・附属図書館ボランティア委員会

   (2)図書館とボランティアの連絡調整・・・懇談会、連絡会、打合せ会、交流会

   (3)事務・・・図書館公開係

 3.6 その他

   (1)ボランティア活動保険への加入(つくば市社会福祉協議会からの助成)

   (2)図書館利用証の交付

 

  ○今後の課題

   (1)ボランティア活動の範囲、内容

   (2)ボランティア・マニュアルの作成・維持

   (3)ボランティアと図書館員とのコミュニケーション

   (4)ボランティア間のコミュニケ_ション(図ボラの会)

   (5)学内関係組織との連携