1.4 大学図書館の建築と設備

                         図書館情報大学教授 植松 貞夫


1.図書館建築はそれぞれごとに正解がある.
 建物は「図書館活動=働きとしての図書館」の器 → それぞれの役割,運営方針,利用者
 建物はある固有の場所に建設される → 特有の条件・制約(物理的・社会的環境,地盤,法律など)
 もっと多様性と個性をもった建築が追求されるべき
 一方,器が活動を制約することもあり起こる → 活動は変化するしかし建物は容易には追随できない
 将来の活動の変化の方向を予測し,それに対応できる建築を創造する.

2.大学図書館の分類
  機能からの分類……総合図書館,研究図書館,学習図書館,保存図書館
  組織上の位置づけからの分類……本館,分館,部局図書館
  設置形態からの分類……単独館,複合館(間貸し型,間借り型)

3.配置計画
  利用しやすい位置,分かりやすい位置
  ・利用者の日常的な生活動線の上に → キャンパス入口,中央広場,食堂に接して,学部棟入口
  ・学部のグルーピングとの関係 → 利用者の全体としての移動距離が少ない
  ・図書館相互の位置関係 → キャンパスプランニング上の課題

4.規模計画(延床面積と各部の面積配分)
4-1 全体規模(基準,法規,予算,その他から延床面積の上限値が設定されることがある)
  国立大学図書館協議会平成3年6月『図書館建築基準に関する報告』による「基準面積算定式改訂試案」
   S= 1.8U+3.5G+5.3(1.5R−0.21U−0.336G)+80T+500
      R=当該団地の全蔵書冊数(単位:千冊,未満切り捨て)
      U=当該団地の学部,一般教養,専攻科,別科,短大の学生定員
      G=当該団地の大学院完成定員
      T=受入雑誌タイトル数(単位:千タイトル,未満切り捨て)
       -1 ( )内が負数になる場合は0とする
       -2 図書館本館の面積については上記算式により算出した面積にさらに500m2を加算する.
         但し,加算は大学1カ所とする.
  ■現行(文部省編「国立学校建物必要面積基準書」1978)
   S= 1U+2G+5.3(1.5U−0.1U−0.16G)+300
       -1 全学で1館に限りさらに300m2加算できる
  改訂の必要性:現行算定式では考慮されていない点(同報告より)
  1.インテリジェント化,ニューメディア関連スペースの増加(OPAC,CD-ROMなど)
  2.大学の国際化と増加する留学生
  3.定員以外の学生(研究生など)並びに教官の利用
  4.「ゆとり」への対応
  5.生涯学習への対応 ← 大学図書館の一般開放
4-2 積み上げ方式:本質的には図書館の面積は,計画図書館の果たすべき役割,活動内容,サービス方針から必要な室・スペースなど(次頁表)の構成要素を決定し,それぞれごとに収容する資料数(必要となる書架数に換算して),座席数その他の設備の数と単位面積などから必要な床面積を算定して積み上げることで求めべきである.しかし,積み上げ式だけで決定できることはまれで,上記の全体面積との間でいくつもの各部面積の配分試算を行うことで適正な全体規模とその配分を決定する.

表:構成要素別スペース

目 的

構成要素

室・スペース

主要内容

利 用

入  口

入口ホール
ロビー
(軽読書スペース)
貸出カウンター

ブックポスト・傘立て・B.D.S.
展示スペースなど
一般雑誌・新聞など
貸出・返却,総合案内,入退館管理

目録・参考業務

目録検索スペース

OPAC端末スペース

参考図書閲覧室

参考図書,二次資料
参考業務デスク
情報検索用端末コーナー
複写設備

閲  覧

開架資料室
 ・一般開架資料室
 ・雑誌閲覧室
 ・新聞閲覧室
 ・指定図書閲覧室
 ・特殊資料室   
 ・貴重資料室
 ・視聴覚資料室

・主題部門別開架室制
・資料種別開架室制
 OPAC端末スペース
 資料配架スペース
 資料展示スペース
 閲覧座席スペース
 相談業務スペース
 ラウンジスペース

そ の 他

グループ研究室
グループ学習室
演習室
資料複写スペース
喫煙室

図書館資料を利用するグループ研究

図書館資料を教材とする演習

収 蔵

書  庫

一般書庫
保存書庫
貴重書庫
視聴覚資料庫

安全開架式書庫
閉架式書庫
通常型書架,集密書架,積層書架
自動書庫

業 務

総  務

館長室兼応接室
各役職員室
一般事務室
会議室      



庶務・会計

整  理

整理事務室
印刷・複写室
視聴覚資料制作・編集室
製本準備室
荷解き室,消毒室
倉庫

 

情報管理

情報管理室

コンピュータ室など

閲覧業務

閲覧事務室

 

その他

休憩室・更衣室

 

施設維持

機械室・電気室・施設管理室(延床面積の10%程度),廊下,階段,便所など


           参考資料:国立大学図書館協議会『図書館建築基準に関する報告』平成3年

 

4-3 書架スペースの面積算定

面積諸元値(冊/m2)=

段数×一段に並べられる冊数×利用率×2

書架間隔×0.9

  表:書架間隔と書架間における行為

書架間隔

適 用 箇 所

書架間における利用者・館員の行動など

1.2 m
1.35
1.5

1.65

1.8

2.1
2.4

閉架実用最小
閉架常用
利用者の入る閉架
開架実用最小
開架実用

資料数の多い
開架常用
利用者の多い開架
利用者の多い開架

最下段の資料を取り出す際には膝をつく
最下段の資料を腰を曲げて取れる
接架している人の背後を自由に通行できる

声をかければ接架している人の背後をブックトラックが通行できる
接架している人の背後をブックトラックが通行できる
人と車椅子がすれ違うことができる
車椅子同士でもすれ違うことができる
下段が突き出している書架が使用できる

 実際の算定では,柱の存在による配置上のロスや主要な通路部分の面積などを見込んで,30%程度の割り増しをしておくことが必要である.

4-4 複合・併設の図書館建築
 大学図書館が研究棟など他の機能の施設と複合・併設して「合築」で建設されることもしばしばである.
 この理由には用地難,建設費・維持費の効率化,利用の便,利用のきっかけをつくりやすいなどが挙げられる.

 

 しかし,複合化に伴うデメリットは建築面だけでも,
1.図書館としての空間構成の自由度が制約される
 入口から図書館までの明確な通路,
 各スペースの合理的な配置,
 書架配列に都合のよい柱間隔 の確保が困難
2.建物内公害
 講義室からの騒音や食堂からの臭気の問題など
3.将来の増・改築の可能性が制約される
 などがある.
 複合化は,図書館サービスに支障のない施設条件が確保されること
 (入口の独立,面積の確保,柱間隔など)が条件である

5.各部計画
5-1 資料情報を利用する
 ・さまざまな目的をもった来館者=利用目的,体調・気分,好みなどにより求める空間性状が異なる.
  →さまざまなスペース,多様な閲覧机と座席(個室,個人席,大きな机(隔て板の有無),グループ室)
  →温湿度,照度,音環境に対する「快適さ」の個人差→セルフコントロール,細かなゾーンコントロール
 ・資料・情報の取得や利用にパソコンを使うことが多くなった.
  照明:垂直面照度と水平面照度の照度格差
     グレア(=強い輝度対比,映り込みなどによる見にくさ)の問題
     TAL方式=局部(タスク)照明+全般(アンビエント)照明→省エネルギー,個人の好みへの対応
  床配線:電源線,通信線が床をはわないように→フリーアクセスフロア or 情報コンセント
  音環境:音の発生源を除く(床材の選択など),音の拡散防止(吸音,ブースで囲う),遮音(外部騒音)

 ・資料・情報のレイアウト
  メディアの多様化→メディアミックス型図書館
  書架レイアウト(書架間隔=前頁の表;X方向,Y方向,放射状など)
  書架形状(高さ(図),奥行き,材質)
  フレキシビリティ(可変性)の程度→モデュラープランニング
  書架と座席の組み合わせ方

5-2 資料・情報を保存する
 ・利用するために保存する→利用しやすい(探しやすい,取り出しやすい)
  OPACの普及にともない閉架資料の請求が増えている.
 ・長年月にわたって保存する→収蔵効率が高い,保存性が高い
  安全開架式で学生などを入庫させる→積層書架の場合,消防法との関係
  電動書架などの集密書架→探しにくい
 ・書庫環境:できる限り温度・湿度の変化が少ない,紫外線など有害光線の侵入・発生が少ない
  通常書庫は書庫内作業員に快適な環境を優先(暖冷房),保存・貴重書庫では保存性能優先
  地下書庫の方が外部からの影響が少なくコントロールしやすい(建築構造上も有利)
  地上の場合には,窓の向きと大きさに注意:窓ガラスは熱伝導率が高く室内温度が変化しやすい
  書庫の大規模化にともなう書庫内作業の労働量の増加(地下書庫では快適な作業ステーションが困難)
  出納業務の効率化,省エネルギー,地震時の安全性,保存性の向上などから自動書庫に可能性
  自動書庫+搬送設備で自動出納システム(図:カリフォルニア州立大学ノースリッジ校図書館)
 ・消火方法(水かガスか:スプリンクラー,ガス消火設備のいずれにしても防災設備の日常点検は必須)

・自動書庫の高さは約12m(3階分)
・収容力は図書換算で120万冊
 →通常型書架での書庫の15倍
・図書の他,雑誌,マイクロ資料
 手書き文書を収納
・返却の都度,任意のビンに収める
 フリーロケーション方式で管理
・出納時間は平均5分

5-3 資料・情報を作成する
 ・資料の媒体変換(マイクロ化,電子資料化)
 ・館独自の資料の作成(加工,編集,編纂)
  アーキビスト的な職員の研究個室

6.事務作業室のインテリジェント化
 ・事務作業でのパソコンの使用
   →ワークステーション型家具(一人当たりの面積を大きく,照明,空調,配線処理)
  個人作業化
   →セクショナリズムの発生,お互いの顔を見合うことが少なくなる,OA疲労の問題→職員談話室
    ■公共図書館では「スタッフラウンジ」の設置は常識化してきた。

7.強い地震に対する安全確保の対策
7-1 開架スペース:高書架はしょうぎ倒しになり,低書架は横に移動する.いずれからも本が転落する.
 (書架は本を振り落とすことで転倒・崩壊を免れる,人が書架間にいる場合には,本が降ってくる危険があるが,そうでないと書架が倒壊する)
 ・高書架は床固定(アンカーに固定)および頭つなぎ,低書架は床固定
  連方向の揺れに対しては,いずれの場合も書架の中心部にブレース(筋交い)を入れる.
 ・壁に沿って置いてある家具は,背面を壁に緊結する(壁には事前に受けを施しておく)
 ・雑誌架なども上記と同様の措置
 ・端末機などは家具に固定し,家具を床に固定
 ・キャスターのついた移動家具は,使用時以外然るべき場所に収納する習慣を付ける.
7-2 事務・作業室:2段重ねのキャビネットが最も危険,ロッカーなども倒れたり動き回る.
          机上に置いてあるパソコン類が落下する.
 ・2段キャビネットは上下を緊結し,壁などに固定する
 ・移動する家具は,ロックをするなどを習慣化する.
7-3 書 庫:移動式書架が連方向,横方向に強く揺られ,脱線,転倒する.
 ・耐震機構の充実を購入の判断基準とする.
 ・連方向に,各書架中心にブレースを入れる.
  →在館者がいる場合を想定しての避難・誘導訓練を定期的に実施する.
  →きちっとした施設管理(日常点検,防火シャッターの下に書架を移動してしまうなどがないように)

8.セルフサービス,省人化への装置
8-1 蔵書の不正持ち出しを防ぐ,入口でのBDS
   フルサーキュレーション方式とバイパス方式 
8-2 蔵書検索のセルフサービス
  利用者開放端末OPAC(館内のいろいろな場所に:情報コンセント,配線ルートだけは設置しておく)
8-3 貸出のセルフサービス
  場合によっては,カウンターの人にもどんな本を借り出すかを知られたくない
8-4 返却のセルフサービス
  返却本の分類まで行う.わが国ではまだ試験の段階
8-5 閉架書庫からの出納のための自動出納書庫

9.サイン計画
 基本:利用者の限定された大学図書館であっても,大規模化,複雑化などからサインの重要性は増して
    いる.サインを付録的なものと考えず,設計段階から一貫したシステムとして計画することが大
    切である.
9-1 サインの設置個数は少なく:誘導をサインだけと考えない.
   例えば,階ごとに基調色を決めていろいろな場所にそれを使えば,現在地の識別は容易になる.
       カウンターの近辺を明るくすれば人は寄ってくる.
9-2 サインの情報は少なく,平易な表現で:サインは見るもので読むものではないと考えるべき.
   専門用語は極力少なくする.
9-3 空間表示型のサインを充実する:利用者は迷った時点でサインを求める.
   したがって「方向指示型=矢印方式」より,どこからでも進路選択が検討できる「面的な表示=
   地図方式」の方が適している.

  [付 録]
1.建築基準法の規定
 1-1 延床面積などの規定:容積率,建蔽率の上限値が敷地ごとに定められている。いろいろな緩和規
    定あり.
   ・容積率=延床面積/敷地面積
   ・建蔽(ぺい)率=建築面積(およそ1階の床面積)/敷地面積
    ■大学キャンパスの場合は,例外的な過密キャンパスを除いて,ほとんど問題とならない。
 1-2 防災上の規定:防火区画,縦穴区画,排煙区画,耐震壁
   ・防火区画=煙や高温ガスの拡散を防ぐことを目的とし,耐火構造の壁・床で区画された空間単位
    をいう.いわば,火災が消火困難となった場合に放棄してしまう区画である。
    図書館の場合は,1,500・を超えない範囲で区画すべきと定められている,図書館は広い一体の
    空間を望むことが多いので,壁ではなく火災時に作動する防火シャッター,防火扉を設置する方
    法で区画する方法をとる例が多い.
    また,スプリンクラーを設置すれば3,000・を防火区画単位とできる.
    「壁・床で区画」から吹き抜けをもつ図書館では上下階合計で上記面積を超えないように区画す
    る.
   ・縦穴区画=階段は火災時に煙突のような働きをしてしまうので,階数などにより入口に防火扉,
    防火シャッターを設置することが必要になる場合がある。
    なお,避難のために2以上の階段を設けて,二方向の避難経路を確保することや室内からその階
    段までの避難距離なども細かく規定されている.
   ・排煙区画=天井面に沿って煙が拡散することを防ぐため防煙垂れ壁で区画し,区画された範囲内
    で排煙を行う.
   ・耐震壁=地震時に横揺れに耐える目的で設置される壁で,筋交い的な役割をもつ.間仕切り壁
    と区別される.簡単にいえば,増改築時に壊せない(取り払うことができない)壁である.
    性能上からは柱から柱まで一体であること,X方向,Y方向で均等に分散していることが望まし
    く,出入口をもつ開口壁や偏った位置だけでは逆効果のこともある.従って,図書館建築では耐
    震壁をとりにくい。設置しない場合は,柱や梁に強い強度が要求され,これらのサイズが大きく
    なることは避けられない.
 1-3 健康上の規定:居室における採光と採光面積
   ・居室=建物内で(おおむね)常時人のいる部屋→図書館では書庫,倉庫以外はすべて居室と考え
    るべき.
   ・採光=自然光を取り入れることを採光という。居室には必ず「床面積に応じた大きさ(採光面積)
    の採光のための窓または天窓を設けなければならない」.図書館では案外無窓居室が少なくない.

 2.障害者も支障なく利用できる建築のための法律:バリアフリー環境の実現
  心身に障害をもった人々とそうでない人々との間に施設や機器利用の点で,不公平や不都合がないよ
うな環境形成を目指さなければならない.つまり障害を有する人にとって支障のないバリアフリー環境で
ある.国は図書館も含まれる特定建築物においてバリアフリー環境実現のために法律(「高齢者,障害者
が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律:通称ハートビル法(平成6年)」)を定め,
とくに出入口,廊下,階段,昇降機,便所,駐車場,敷地内の通路について配慮を求めている.
  しかし,具体的な指針では「車椅子」問題にばかり焦点が置かれている。