7.4  在外研究員報告
       カリフォルニア・デジタル・ライブラリー 〜 UCの新しい「電子図書館」

                            大阪大学附属図書館 大西 直樹


1. カリフォルニア大学(UC)

 ・ 9つの「キャンパス」
   キャンパスの独立性
 ・ 州立大学 − 州内の高等教育のうち主に研究機能を担う。
 ・ 高水準 − 研究,資料

2. UCの図書館改革 〜 LPAI Library Planning & Action Initiative

 ・ 1996年9月に18ヶ月間のinitiativeとして開始される。
 ・ UC全体の副学長(学術担当),UC9キャンパスの学長及び大学評議会の,図書館によ
  り入手できる情報資源を最大限にし,最新技術を最大に活用するために,全学的な図書館
  計画へのアプローチが必須であることに関する合意から発足。

3. LPAI ATF(Advisory Task Force) 最終報告(1998年3月)

<LPAIの目標>
  図書館の今後5年から10年間の改革の枠組みとして,図書館の組織,機能及び予算状況
 の改善への提言を行う。
 新規事項として,
 ・ 実施可能なモデル
 ・ 他機関との協力の実現可能な案
 ・ 電子技術の最も効果的な適用方法の考案及び評価
 ・ 行動及び戦略プロジェクト
 継続・強化事項として,
 ・ 図書館収書の研究や教育などへの効果の評価
 ・ 情報資源やサービスのUC図書館内での共有の拡大

<LPAI実行のための組織>

  UC全体の学長事務室(Office of President)内にPlanning Teamが,副学長(the Provost)
 の下にAdvisory Task Forceが設置される。ATFは,キャンパスの副学長,
 Academic Administrators,キャンパスの図書館長,ライブラリアンの代表,情報技術者,教官
 から構成 = 図書館だけの組織ではなく,大学全体が関与。

<LPAIの前提>
 ・ 「一つの大学,一つの図書館」 〜 UC全体で図書館は一体
 ・ 図書館計画を学術及び情報技術に関する計画及び意志決定と統合するための新しいビジネ
  スモデル作成の必要性(既存の図書館計画・予算のアプローチとは別のもの)
 ・ 州内の他の高等教育機関及び州全体への情報サービス提供
 ・ 計画プロセスはATF及びPlannning Teamを超えて,全ての関係者(キャンパスの学長
  などを含め)に行き渡ること
 ・ 計画プロセスは学術上及び図書館に関する全ての範囲(digitalもnon-digitalも)を含む
 ・ 近い将来にinitiativeが開始されること

<図書館環境の問題点(challenges)>
 ・ scholarly and scientific communication
 ・ 高等教育
   遠距離教育,成人教育,教育での電子情報利用,学生の多様性
 ・ 新しい技術インフラ
   図書館は技術インフラ及び電算化について設備及び運営経費を支弁されていない。
 ・ 情報の価格高騰,量の増大
 ・ 組織的慣習(organizational culture)
   図書館,技術及び学術の計画は独立してきた。各キャンパスの自律性と1大学1図書館の
  考え方の相克。共同のrisk-takingな変革よりもincrementalな変化が評価される。
 ・ 資金モデル
   大学は1989年以来物価上昇に対応した資金を図書館に配分していない。図書館の機能や責
  任の変化や学術プログラムの拡大を反映していない。
 ・ 情報市場
   電子情報の価格についての新しいビジネスモデルが確立していない。従量制への傾向があ
  る;知的所有権は出版者側に有利な方向へ動いている;内容及びアクセスの標準が未定

<UC図書館への影響>
 ・ 資料購買力の低下
 ・ 図書購買増加数及び雑誌購買数の減少
   特に科学系雑誌
 ・ 特殊で大学唯一の雑誌の購読中止
   利用頻度の高い雑誌を残す傾向→重複購読
 ・ UC内外での共同収書事業への影響
 ・ ILLの増加
   1990/91と比較して約50%増加
 ・ 図書館員の減少
   UCD,UCB,UCLAでは1990/91と比較して20%の減少

<推奨する戦略(strategies)>
  現在を移行期と考える。即ち,情報技術の急速な進歩と電子出版の不安定さのために,図書
 館計画の環境は少なくともここ10年ほどは流動的である。
  UC全体での一体性を強調

 7つの戦略を掲げる。
(1) 資源共有(Resource Sharing)のための革新的,経済的方策の策定
  UC内及び他の重要な図書館との資源(印刷体資料)の共有を拡大する。このためには全関
 係者の支持と,技術及び配送の革新的利用が必要。
(2) カリフォルニア・デジタル・ライブラリ(CDL)の設立
  9キャンパスの共同図書館(co-library)。
  州全体の電子コレクションを形成する。
  従来の形態と電子の形態を適切に統合するように,新しいサービスの提供及び既存サービス
 の拡大を行う。
  電子通信による情報アクセス及び配布; 情報保存,保管及び検索; 情報管理の相談及び
 訓練; 学術情報流通の新しい形態; 大学のknowledge networkの開発
(3) 印刷体資料コレクションの継続及び維持のためのメカニズムの開発
  印刷体資料のコレクションの重要性は予想可能な範囲の将来にわたって変わりない。これら
 のコレクションを継続するための財政的,政治的及び行政的方策の採択は最優先課題であり,
 このためにはUC学長及び各キャンパスの学長の確固たる関与が必要。
(4) 図書館,博物館,他大学及び産業界との互恵的協力
(5) 情報インフラの整備
  電子情報の配布及びアクセスのためには強力な技術的インフラが必要。
  UCはこのために投資すべきであると共に,図書館が情報管理及び技術計画に全レベルにお
 いて緊密に統合される必要がある。
(6) 学術情報流通プロセスの改変
  学術情報流通プロセスの改変に関する全国的活動においてリーダーシップの役割を果たすべ
 きである。
  紙媒体とは異なり電子情報では所有よりもアクセスが問題であり,ライセンス契約によって
 確保できる。しかし,商業提供者からのライセンス供与は短期的戦略である。新しい通信,出
 版の方法によって,研究者がその研究成果を交換し,保存するための方法が改変される。
 CDLは新しい方法の追求を支援する。
(7) 継続的計画及び改革の環境の組織
  図書館及び学術情報の環境は少なくともここ10年ほどは流動的。大学は図書館が継続して革
 新や印刷体と電子体の統合されたコレクションへと移行するために必要な組織,技術,政策及
 び財政の構造の開発に従事することを支援するような計画プロセスを作るべき。計画構造はま
 た,学術情報の電子環境での流通を拡大するための戦略を開発すべき。計画は上述の6つの戦
 略実施に直ちに着手すべき。

3. カリフォルニア・デジタル・ライブラリ(CDL)

  最初の電子コレクションは科学技術工業コレクションになる。これらは現在出版されている
 電子情報の80%以上をしめる。この分野に焦点をあてることで規模の経済効果が得られる。

プログラム
<電子通信を介した情報アクセスと配送>
 ・ 共有電子情報のライセンス契約及び取得
 ・ 電子情報の効率的,効果的配送を確保するための管理
 ・ 紙媒体資料の電子化の支援
<情報保存,保管及び検索>
 ・ DLの電子情報のarchivingのための政策及び手順の策定
 ・ 確実な電子的配送メカニズムの開発
 ・ 相互操作性を推進するための標準の作成
<情報管理の相談及び訓練>
 ・ 利用者サポート
 ・ キャンパスレベルでの情報提供者の訓練
<学門及び科学的知識のオンライン出版,知識管理>
 ・ 学術通信のための電子出版の促進
 ・ キャンパスベースの情報のうち選択したものをDLへ移転
<大学のknowledge networkへの支援>
 ・ 印刷体情報の大学内配送を容易にする技術の開発
 ・ 他の組織との協力関係発展,州内高等教育機関間でのコレクションへの共同アクセスの
  促進

 CDLの最終開発までには5〜7年間かかる。
 Phase1では電子的及び印刷体情報へのアクセス拡大のための組織的枠組の設立に集中。
 Phase2ではテキストとfacsimilesの電子化,及び学術通信を電子出版によりサポートするこ
    とによって新規に情報を作成する。
 Phase3では新技術を利用して情報資源の配送と作成を変える。

 CDLのポイント

 ・ 「電子図書館」の名称を持つが,DLIなどの研究プロジェクトとは全く異なり,現実の
  大学図書館のあり方,危機への対応策の一部として位置づけられている。
   なお,UC内では研究プロジェクトや実用を前提とした試験プロジェクトなども実施され
  ている。
 ・ 印刷体資料との共存・資源共有との補完性を強調している。
 ・ 目的の中心は情報へのアクセスの確保である。
 ・ 図書館の問題を全学的問題と認識し,全学的関与を強調している。
 ・ このための予算や組織を要求している。
 ・ 大学内で生産される学術情報の流通(出版)を電子的に大学が行うことを,現在の商業出
  版者による学術雑誌の価格高騰への対策として提言している。

4. 米国の大学における電子図書館的機能

 ・ あり方 〜 何を優先すべきなのか
   研究と実用
   予算,担当
   自製DB作成と既製(商用)DBへのアクセス,目録の遡及入力
   ユーザインターフェース 〜 WWWブラウザへの傾斜
   Z39.50など標準化
   著作権,ライセンス問題
 ・ その他