7.10  情報リテラシー教育への参画

                 新潟大学附属図書館情報管理課長  山下  洋一


1.はじめに
 近年の急速なディジタル化・ネットワーク化の進展は、大学図書館の利用者サービスあるいは利用者の利用形態に大きな変化を与えている。それは、従来のグーテンベルク以来脈々と続いてきた印刷媒体資料からディジタル化された電子媒体の出現に象徴的にみることができる。同時に、電子化された情報・知識のアクセス手段として、ネットワーク上によるいわゆるブラウザと称する検索ソフトが急速に普及しており、その影響は大学図書館にも押し寄せている。
 大学図書館は、自身がもつ機能の高度化を図り、そのひとつの形態として電子図書館的機能の充実が求められている。そのための機能整備も学内関係者の協力を得ながら進められており、蔵書の目録情報の電子化(いわゆる遡及入力)、一次資料(たとえば貴重資料など)の電子化が推進されつつある。併せて、各大学図書館では既存の閲覧室に検索用パソコンを数十台というスケールで整備を行い、OPAC端末、CD−ROM検索用パソコンの整備・充実が行われている。従来の印刷媒体の情報探索ツールにパソコンという検索用機器が加わったと言えよう。
 しかし、学生にはまだこれらの情報環境を十分に活用するための機器の操作法や、情報へどうアクセスするか技術的な手法を修得する機会に恵まれない状況にあるが、大学の教養教育において、従来のコンピュータ・リテラシーの教育から、さまざまな情報資源へのアクセシビリティを重点に考えた情報リテラシー教育への転換が行われようとしている。すでに欧米では、大学図書館との密接な連携をとりながら、正規のカリキュラムに組み込まれ、成果を挙げている。わが国でも、ようやく平成8年7月に学術審議会から「大学図書館における電子図書館的 機能の充実・強化について(建議)」がだされたが、そのなかの6)情報リテラシー教育への支援として、大学図書館の協力のもとに、全学的に取り組む教育体制の整備が提言されている。
 新潟大学では、この提言に先立ち、附属図書館と大学教育開発研究センターの協議のもとに平成8年度から、図書館職員が授業をサポートし、図書館が提供する各種情報提供サービスの利用説明を行い、図書館の利活用を学生に指導する授業「情報検索とその活用」を開講した。この授業は、講義と演習に多数の図書館職員が教官の補助として参加し、協力している点に特徴があり、全国の大学に先がけて行われている新しい試みである。
 ここにその授業を紹介し、併せて実施内容および評価について述べることとする。

2.新潟大学の教養教育
 新潟大学では、平成6年度に「大学設置基準の大綱化」にもとづく大学改革のなかで教養部を改組転換し、教養教育科目を学部のカリキュラムに統合し、新たに「教養教育」と「専門教育」の2つの教育体系に分け、各学部は教養教育科目と専門科目を有機的に総合して、在学期間を通じての一環教育とした。
 教養教育は全学的な協力体制の下に各学部が相互に密接に連絡をとり、それぞれの専門の特色を発揮して関連の教養教育に関する授業科目(以下「教養科目」という)を開設・担当し、提供しあういわゆる「全学協力方式」で実施している。

1)全学教養教育委員会
 全学の教養教育の実施に関する基本事項の審議や各年度の教養教育実施計画案の調整・決定、大学教育開発研究センターの管理運営等を行うために本委員会を設置した。なお、その下に企画調整・経費施設等の検討のため総務専門委員会を置いている(図1)

2)教養教育責任学部の設定
 8つの教養科目系列別に対応する責任学部を決めて教養科目の開設と担当の中心的な役割を担う(図2)

3)大学教育開発研究センターの設置
 「全学教養教育委員会」と「教養教育責任学部」との連携のもとに、教養科目担当教官相互の連絡・協議を行い、教養科目の授業実施の準備を行う。学内措置として学内共同教育研究施設に準ずる形で設置した。同センターは、「教養教育実施部門」と「研究開発部門」とに分かれ、それぞれ学部からの併任教官を充てている。前者は、担当教官を推薦して、登録する「教養科目担当専門グループ」を設置し、各専門グループ間の総括・調整を行う「総括グループ」と系列別ワーキンググループを設けている。後者は教養教育に関する点検評価と教育内容・ 方法に関する調査研究・開発を行ういわゆるファカルティ・デベロップメントを担当する。関連規則として「教養教育の実施に関する規則」があり、委員会、責任学部、大学教育開発研究 センターの三者連携で教養教育の推進体制を創った。
 情報処理系列の責任学部は、工学部と総合情報処理センターであり、情報処理系列ワーキンググループと連携して情報処理教育に関する企画・立案を行う。情報処理科目群は12の科目系からなり、その1つとして、「情報検索とその活用」の授業を設定している(図3)

3.情報検索とその活用
1)開講までの経緯
 大学あるいは図書館への情報機器の導入は、加速度的に増加している。また学内LANの高速化がますますその需要を高めている。図書館においても、総合情報処理センターの協力により、学内マルチメディアネットワークの一環としてマルチメディアパソコンを備えることができた。学生は、次第に整備される情報環境を十分に使いこなす必要性があり、これらの情報機器の操作や情報検索等の情報利用技術の修得が求められるようになった。他方大学内では進展著しい情報技術を用いた教養教育の新しい方向性が模索され、冒頭に触れたように、本学では大学教育開発研究センターと附属図書館が協議して、平成8年度から後期教養科目の一つとして、「情報検索とその活用」を開講した。具体的にはパソコンの操作から始めて、図書資料を中心とした文献の検索やインターネットについて学習しながら、情報源の調査、情報の収集、情報の蓄積と利用といった情報リテラシーの修得を図る。授業は講義と演習から構成され、図書館職員が担当教官に協力し、講師補助として組織的に参加している。

2)授業の目的とねらい   現在、図書館の現場では、伝統的な印刷資料に加えて、OPAC,CD−ROM、マルチメディア資料、映像資料、教育用ソフト、その他語学修得用に特別に用意された学習用資源など、さまざまなメディアがコンピュータを媒介してサービス提供が行われている。しかも、これらのネットワークを経由した多様な検索も可能となってきた。そこで、本授業の目的は、高度情報化に対応した情報リテラシー育成の観点から、その重要な柱の一つである情報検索の技法を修得することに置いている。また、必要とする文献の入手、整理、判断、レポート作成という情報資源をベースにした調査型の学習課程を電子メディアの利用と有機的に結合させて学生自らが修得することをねらいとしている。新しい情報化社会に対応した大学の教養教育の新たな方向性を示すもののひとつとして位置づけている。

3)授業の方法
  教養棟マルチメディア教室及び附属図書館マルチメディアコーナーを使用し、パソコンの基本的操作方法、図書資料の情報検索法やインターネット等について学習しながら情報源の調査、情報収集・整理・利用についてノウハウを修得して、学生自身が決めたテーマについて検索、資料を収集してレポートにまとめるまでを学習する。対象学生は文科系学部学生2年生以上で、定員は端末台数の関係で50名である。
  内訳  平成8年度     平成9年度
     人文学部 10名  人文学部  7名
     教育学部  2名  教育学部 10名
     法学部  33名  法学部  17名
     経済学部  5名  経済学部 16名
 実施時期は平成8〜9年度は後期授業として、10月から2月の期間で14回(1回90分)の授業を実施、講師は図書館長を含む教官4名、図書館職員8名(1コマ3名)である。評価方法は、レポート提出と出席で成績評価を行った。最終的なレポート提出者は平成8年度36名、平成9年度36名と奇しくも同じ結果であった。

4)授業の概要
平成8年度と平成9年度の授業内容を図表にした(図4)。図をみてわかるように図書と雑誌の情報検索を主体にして、インターネットからの情報探索を中心に構成している。

5)学生による授業の評価(平成9年度アンケート)
 平成9年度の授業において、最終日にアンケート調査を行った(図5)。平成8年度は他の授業科目と共通のアンケートとなったため、平成9年度は図書館独自でアンケートをおこなったが、2年間の授業を通じて概ね好評であったと考える。特に情報検索あるいは図書館の活用に関心があり、学生の意識も単にコンピュータそのものより、コンピュータを活用して情報へのアプローチをどのようにすればよいかがある面では体験できたのではないか。2年目は1年目と違い、テキストを作成するなど、よりわかりやすい説明を行うことに力を注いできたが、図書館職員の熱意が受講生の評価に現れているようである。

6)職員による授業評価
 はじめて授業に参加した平成8年度では、終了後にいくつかの指摘を行っている。それは、職員にとっても講義に参加するという貴重な体験が、職務に活かされるもであることの確信が持てたことと、問題点を以下に整理してみた。

 ・図書館利用法の修得という面では、半年かけてやるのは効率的ではない。
 ・高学年と低学年の学生の資料探索の密度が異なる。低学年を対象とした演習として広く  浅くという方向性が必要である。
 ・計算機の使用より、図書館利用のノウハウを高めることが必要。そのためには、一部の  学生に対する講義より、利用の手引書あるいはガイダンスの強化を図った方がよい。
 ・インターネット上の図書館情報の利用について、演習時間に幅を持たせるとよい。
  これらの指摘を整理して、平成9年度は授業の再構築を行った。

4.附属図書館の情報処理教育支援環境
 1)総合情報処理センターとの連携
 平成7年度末に総合情報処理センターが運用する学内マルチメディアネットワーク整備の一環として、附属図書館にマルチメディアパソコン37台(中央図書館16台、旭町分館21台)をはじめ、プリンター、液晶プロジェクタ、スクリーン、スライド作成機などを導入し、これらの機器からなるマルチメディアコーナーを設置した。さらに、平成8年度末には総合情報処理センターの協力により、中央図書館にパソコン18台が追加整備された。また学内LANのATM交換機を設置し、これを経由して学内マルチメディアネットワークを形成している。このように学内の情報処理環境を整備するうえで、総合情報処理センターとの協力関係は欠かせないものである。今後さらなる相互補完的な機能連携を図ることとしている。

2)マルチメディアコーナー
中央図書館には、CD−ROM用パソコン11台とマルチメディアパソコン28台を設置し、マルチメディアコーナーの名称で自学自習の場を提供することにより情報処理教育の側面的支援を行っている。CD−ROM用パソコンは、HIASK,J−BISK、雑誌記事索引、が利用可能であり、マルチメディアパソコンはWindows95を基本ソフトとして、インターネット・ブラウザやワープロ、表計算ソフトが利用できるパソコン12台とさらにその上にMPEG2ボードを装備したVOD(Video on Demand)端末としても利用できるパソコン16台からなる。また旭町分館ではマルチメディアパソコン21台を設置したマルチメディアコーナーを開設している。これらはいずれも利用率は高く、常に学生の利用で満員の盛況である。今後さらにその機能の強化を図る必要があると考えている。

5.おわりに
 新潟大学の教養科目としての情報処理教育のひとつに、図書館が協力して行う本講義は、新たな情報リテラシー教育としての試みであることは冒頭に述べたが、今日の情報化社会における情報技術を活用する能力は、単にコンピュータの知識あるいはソフトウエアーを修得するだけのものではなく、情報の収集と蓄積、加工と創造のプロセスを経て、自らの意志決定能力を高めることにある。学生が将来の社会人として自立していくために、真に学ぶ必要があるとすれば、それは正しい問題解決能力を持ち、収集した情報・知識により、意志決定に反映させることである。これらの能力の涵養・向上に情報リテラシー教育の必要性が認められている。その意味で新潟大学が試みに行っている情報リテラシー教育は、大学図書館という無限の情報空間ともいえる知識の宝庫の場において、コンピュータテクノロジーを利用した学習機会を提供するものである。
 平成10年度で3回目の授業を行う準備を現在検討しているところであるが、一応3年の試行という位置づけであり、4年目以降は、講義内容を引き継ぐか、あるいは図書館独自のオリエンテーションとして別途実施するか、再検討することになっている。

注記:本稿は以下の報告に基づいている。特に本稿の構成・記述は3)の済賀報告に負うところが大きい。謝して礼を申し上げたい。

1)教養科目「情報検索とその活用」の講義実践報告 「情報検索とその活用」講義担当グ ループ(代表:小林俊一)(新潟大学大学教育開発研究センター「大学教育研究年報」第 3号86−93頁 平成9年6月)
2)教養科目「情報検索とその活用」に関する二年目の報告 「情報検索とその活用」講義 協同グループ(代表:大熊 孝)(新潟大学大学教育開発研究センター「大学教育研究年 報」第4号に収載予定)
3)情報リテラシー教育への協力 済賀宣昭著 (平成9年度国立大学附属図書館事務部課 長会議発表原稿  平成9年5月27日)