2.3  学術情報ネットワークの現状

        学術情報センター事業部ネットワーク課国際情報専門員   大山 貢


1.学術情報ネットワークの概要
 学術情報ネットワークは,学術情報センターが事業展開している目録所在情報事業,情 報検索事業の情報通信基盤であるとともに,全国の大学等の研究者の研究活動のための 情報流通基盤として,学術情報センターの創設当初から基本事業の一つとして構築・整 備されてきている。
 この学術情報ネットワークには,汎用計算機やG4Fax等をパケット交換方式によ って接続する「パケット交換網」,インターネットの基幹網である「学術情報ネットワ ーク・インターネット・バックボーン(SINET:サイネットと呼ぶ)」,そしてATM 方式による通信をサービスするための「ATM交換網」の3つのサービスが存在する。
 これらの通信サービスは,全国28か所の通信拠点に設置された通信機器等を高速ディ ジタル回線等で接続することによって運用されている。

2.学術情報ネットワークの整備
(1)第一期(パケット交換網の整備)
 学術情報ネットワークの第一期整備計画は,昭和61年度から開始された。当時,通 信回線を効率的に使用でき,且つ,当面の学術研究の応用に広く応えることができるも のとしてパケット交換方式(ITU-T勧告のX.25(76年版または80年版)に基づく)を採 用した。
 また,通信回線は,日本電信電話株式会社から提供が開始されていた高速ディジタル 専用回線を利用することとし,これに学術情報センターが購入したパケット交換機等を 接続する私設パケット交換網の構築・運用を実現することとなった。
  昭和61年度の,東京大学,名古屋大学,大阪大学,京都大学及び学術情報センター の5か所を皮切りに整備計画を進め,年次計画で順次拡大することとなった。平成3年 度に学術情報センター他全国28カ所にパケット交換機及び時分割多重化装置等の通信 機器を配置した「学術情報ネットワーク・パケット交換網」の整備が一応完了した。
 また,この間に,パソコン等の端末から加入電話網を介して学術情報ネットワークを 利用するためのアクセスポイントを学術情報センター他6カ所(北海道大学,東北大学, 名古屋大学,大阪大学,広島大学,九州大学)に配置し,現在も運用している。

(2)第二期(インターネット・バックボーン(SINET)の整備)
 1990年代初頭,国内外においてTCP/IPというプロトコル(通信手順)を採用し たインターネットが急速に進展してきた。これに,コンピュータ等のダウンサイジン グが相まって,高速・高機能のパソコンやワークステーションの利用が一般化し,大 学等の研究機関においてもキャンパス情報ネットワーク(学内LAN)等の情報通信 環境の整備が急速に進展してきた。このような動向の中で,TCP/IPにより学内LAN を接続するために,新たに専用の基幹通信網を構築・運用することが必要であると判 断された。
 この新たな基幹通信網は「学術情報ネットワーク・インターネット・バックボーン」 と呼び,SINET(サイネット)と略称することとした。平成3年12月には,既存の パケット交換網に加えて,学術情報センター他8大学(北海道,東北,筑波,東京, 名古屋,京都,大阪,九州の各大学)にSINET用ルータを配置し,128Kbpsないし 256Kbpsの高速ディジタル専用回線を使用したSINETの試行運用が行われた。平成 4年4月からは本格的な運用が開始され,以降,SINETについては,学内LANの高 速化,接続形態の多様化及び加入機関の増大に対処するため,回線速度の増強ととも に通信設備の充実を順次図っている。

(3)第三期(ATM交換網の整備)
 インターネットの普及とともに大学等における情報通信環境が一層整備され,学術 情報ネットワークへの通信需要の増大が加速されてきた。それに対応するため,緊急に 学術情報ネットワークの高度化・高速化を検討することとなり,その結果,従来の二つ の通信網(パケット交換網,SINET)を独立に高速化することは経済的ではなく,通信 網の統合化を図ることが有効と判断し,次世代通信の基盤技術として特に注目されてい るATM方式(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)を採用したネット ワークに移行することとなった。
 平成5年度に,学術研究環境の基盤整備の一環として,学術情報センター他28拠点 にATM方式を採用したマルチメディア多重化装置を導入した。さらに,平成7年度に, 既存のマルチメディア多重化装置よりも高性能・高機能なATM交換機を学術情報セン ター他28全ての拠点に導入し,大幅な増強が行われた。
 また,この年度には,全国の大学等にもATMネットワークシステムが導入され,学 術情報センターのATM交換機は,それらの接続を図り,広域ATM交換網の構築を目 指すためのものでもあった。

3.ネットワークの運用
 学術情報ネットワークは,学術情報センター他全国の28拠点に通信機器を配置すると ともに,その拠点間を通信事業者が提供する高速ディジタル専用回線で接続し,運用し ている。設置している通信機器は,パケット交換網用の「パケット交換機」と「パケッ ト集線装置」,SINET用の「集合型IPルータ」,それらの通信をATMセル化し,通信 するための「セル組立分解装置(CLAD)」と「マルチメディア多重化装置」,さらに, それら全てを統合して高速回線で通信すると共に,各大学の学内ATM交換機を接続し広 域ATM交換網を構築するための「高性能ATM交換機」である。これらを,ネットワー ク構成および拠点の規模に合わせ適切に配置し運用を行っている。
 また,これら多くの数と種類の通信機器によって複雑に構成されている学術情報ネッ トワークの機器構成全体を統合的に管理し,ネットワークの信頼性と迅速な障害対応を 図り,運用の安定性の向上を図るため,学術情報センター千葉分館にネットワーク統合 管理装置を導入し遠隔によって運用管理を行っている。

4.学術情報ネットワークへの加入機関
 学術情報ネットワークの加入機関については,「学術情報ネットワークの加入に関す る規則」及び「学術情報ネットワークの加入に関する細則」により,下記の機関の加入 を認めてきた。

     (1)国,公,私立等の大学,短期大学,高等専門学校,(2)大学共同利用機関,(3)
  文部省及び文化庁の施設等機関,(4)国公立試験研究機関,(5)特殊法人の研究所,(6)
  学術研究法人,(7)大学に相当する教育施設,(8)研究助成法人,(9)学会,(10)学術情
  報センターの目録所在情報サービスの加入が認められた機関,(11)その他前各号に準
  ずると認められる機関,(12)所長が特に認めた機関

 さらに,通産省等が推進している100校プロジェクトをはじめ各地域で,小・中・高 校等のネットワークの共同研究が盛んになってきている。それらについても,条件付き で加入を認めることがある。
 現在の加入機関数は,平成9年3月末日で,パケット交換網:219機関,SINET:514 機関,全体で613機関が加入している。

5.ネットワークの国際展開
 ネットワークの国際展開は,昭和63年度に米国ワシントンに学術情報ネットワークの 延長が認められ,同時に米国国立科学財団(NSF)との国際共同研究が開始されたのを はじめとしている。これにより,学術情報センターが所有するデータベースを米国の研 究者に提供するための方策や,日米間での電子メールの交換を実現することが検討され, 学術情報ネットワークを米国に延長するための通信機器を米国に設置し,この二つの目 的を同時に実現することとなった。
 平成元年度には英国への延長のため,英国図書館(BL)にネットワーク機器を設置し, 情報検索サービス(NACSIS-IR)の代行検索サービスを実現するとともに,平成2年度 には,英国の代表的な研究ネットワークであるJANETとの接続を実現した。これを利 用し,平成3年からは,英国図書館と5か所の大学図書館(ケンブリッジ,オックスフ ォード,シェフィールド,スターリング,ロンドンの各大学)の間で目録所在情報サー ビス(NACSIS-CAT)のパイロットプロジェクトが開始され,これらの機関は,平成7 年から正式参加機関となっている。
 さらに,アジア地域との学術情報交流が重要との認識のもと「学術情報センター・タ イプロジェクト3年計画」を開始した。このプロジェクの推進とアジア地域との学術情 報の流通を促進するために,平成7年度にタイ王国との間に国際専用回線が新設された。
 平成8年度は,欧米への通信需要の増加に対応するため,英国への国際専用回線が増 強されている。
 これまでに,学術情報センターには,米国,英国,タイ王国への国際専用回線が設置 されており,整備増強を図ってきている。その中で,特に米国回線は通信需要が突出し ており,平成7年度,9年度と増強が図られているが,今年度も更に増強する予定である。

  6. 学術情報ネットワークの課題
(1) 通信回線の高速化とネットワークの信頼性の向上
 研究者間の情報流通のネットワーク利用の増加は勿論のこと,学術情報センターをは じめ全国規模で開始されようとしている,電子図書館サービスや既に実施されている各 図書館でのWWWホームページの開設,OPACのインターネットでの公開サービス等の 情報サービスのネットワーク化が一般的になった現在,学術情報ネットワークを流れる 情報量は増加の一途をたどると考えられる。これらの状況を踏まえ,一層の回線増強が 必要である。
 また,ネットワークの一般化と依存度の増加に伴い,信頼性があり,安定したネット ワーク運用が求められてきている,これらに対応するため最新鋭で信頼性のある通信機 器への対応を図ること,冗長度のある回線構成等を考慮することは勿論,運用体制等に ついても十分に検討する必要がある。

(1) ネットワークの相互接続性の向上
 学術情報流通のグローバル化の進展に伴い,研究者の通信要求が学術情報ネットワー クの中だけではなく,海外・国内と問わず広く他のネットワークへと進んでいる。現状は, その需要に見合うだけの接続性を確保できている訳ではない。今後は,これらの通信需要 に対応すべく,国内の他の研究ネットワーク等との相互接続性を確保すると共に,国際ネ ットワークとの接続についても一層強化し,国内・国外ともにシームレスな通信を確保す るため,強化を進める必要がある。