1.8  大学図書館ボランティア

                      筑波大学図書館部長  湯浅 冨士夫


1.はじめに
  この2〜3年、阪神・淡路大地震やロシア船籍のタンカーからの重油流失事故など、災害時
 におけるボランテイアの活躍ぶりが新聞やテレビを賑わすようになり、社会一般のボランティ
 アに対する認識が急速に深まったように思われる。
  わが国におけるボランティアの歴史は、欧米に比べると浅いが、近年、災害のような突発的
 な事態におけるボランティア活動のほか、特定領域における継続的なボランティア活動が急速
 に広がり、根をおろしつある。そしてこのことは、日本の社会の成熟化(所得水準の上昇、自
 由時間の増大、高齢化の進展)が大きな要因となっているといわれている。経済的な豊かさと
 と時間的なゆとりが得られれば、次に精神的な豊かさを求める人が多くなるのは当然の成り行
 きといえる。
  ボランティアは従来、社会福祉の領域の専門用語であったように、その中心は社会福祉活動
 にあったが、近年ボランティアの活動領域は極めて多様化している。また、ボランティア活動
 を行う動機も、博愛とか無私の社会奉仕といった精神主義的な動機ばかりではなく、自らも楽
 しみつつ、生きがいや充実感を得たいという動機が多くなっている。その意味で、近年のボラ
 ンティア活動は、生涯学習と密接な関わりをもつものが多くなってきているといえる。
  ボランティアの中で、公民館、美術館、博物館、図書館など社会教育関連の施設において、
 その施設の職員と連携してさまざまな活動を行う人々がおり、「施設ボランティア」とよばれ
 るが、このようなかたちでのボランティアは特に生涯学習との関わりが深い。

2.ボランティア活動と生涯学習
2.1 生きがいの条件(田中尚輝『高齢化時代のボランティア』岩波書店)
    ○人間の欲求の五段階区分(Maslow, Abraham Harold)
     第一段階  生理的欲求のレベル(飢え、渇き、睡眠、性)
     第二段階  安全欲求のレベル(危険の回避)
     第三段階  愛情欲求のレベル
     第四段階  尊敬欲求のレベル(尊敬、支配、名誉)
     第五段階  自己実現欲求のレベル(自己達成、生きがい)
    ○自己表現(アイデンティティーの確立)
      衣食住に満足するだけにとどまらず,人間として社会的に価値ある存在であること
     を具体化していくこと。そして,それが客観的評価を得るものであること。
     そのためには,何らかの社会的実践が必要。
2.2 生涯学習審議会の答申
2.2.1 『今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について』(平成4年)
    ○ボランティア活動の基本的理念
      ・自発(自由意思)性
      ・無償(無給)性
      ・公共(公益)性
      ・先駆(開発・発展)性
    ○生涯学習とボランティア活動の関連をとらえる視点
     ・ボランティア活動そのものが、自己開発、自己実現につながる生涯学習となる。
     ・ボランティア活動を行うために必要な知識・技術を習得するための学習としての
      生涯学習があり、学習の成果を生かし、深める実践としてボランティア活動があ
      る。
     ・人々の生涯学習を支援するボランティア活動によって、生涯学習の振興が一層図
      られる。
2.2.2 『地域における生涯学習機会の充実方策について』(平成8年)
    ○ボランティアの受入れ
     大学等の図書館、資料館あるいは附属病院などにおける、ボランティアの人々による
     施設運営への協力・支援−−
     ・施設の機能の充実、組織の運営の向上のために極めて重要。
     ・地域の人々の学習成果や経験を生かす機会の確保、社会における有能な人材の公共
      の場での活用、大学等が地域社会に支えられているという好ましい雰囲気の醸成な
      どの点においても有意義。
     ・充実したボランティア活動が多様な形態で進むよう、大学等においてもボランティ
      アの育成を図るとともに、受入れの仕組みを明確にし、広く社会に積極的な受入れ
      の姿勢を示すことが大切。
     ・ボランティアを対象とする研修の充実も必要。

3.大学図書館におけるボランティアの受入れ
3.1 図書館情報大学公開図書室の例
    ・期間  :昭和56年(1981)〜平成3年(1991)
    ・活動内容:公開図書室(児童室、成人室)での閲覧、貸出、ストーリーテリング、
     図書の装備
3.2 筑波大学附属図書館の例
3.2.1 経緯
    ・受入れ検討:平成4〜6年度(図書館部及び附属図書館運営委員会)
    ・受入実施要項の制定:平成7年2月
    ・公募:同年3月〜4月
    ・面接・決定:同年4月
    ・事前研修:同年4月下旬〜5月中旬
    ・活動開始:同年6月
    ・ボランティア数:平成7年 43名/8年 47名/9年 55名/10年 48名
3.2.2 活動内容
    1)図書館総合案内(ボランティア・カウンターでの案内、オリエンテーションの補助)
    2)身体障害者の図書館利用支援(対面朗読、資料探索代行、館内移動援助)
    3)外国人の図書館利用支援(外国語による図書館利用支援、筑波大学新聞のルビ振りサ
     ービス、新着雑誌のトピックス紹介、日本文化紹介等)
    4)図書館見学案内
    5)利用者向け広報誌の発行
    6)公開事業への協力
3.2.3 活動時間
     月曜日から金曜日までの5日間を午前(10時〜12時)と午後(13時〜16時)
     に分け、それぞれを1単位とし、ボランティアの都合を勘案しながら、各単位時間当
     たり4名づつに活動してもらっている。ただし、対面朗読については、利用者の希望
     による予約時間に限ってサービスしている。
3.2.4 運営
    1)運営方針の審議・策定
      附属図書館ボランティア委員会(図書館長の諮問委員会。図書館運営委員会から3
      名、図書館部から3名の6名の委員により構成)
    2)ボランティア担当係
      図書館公開係
    3)図書館部とボランティアとの連絡調整
     ・懇談会(附属図書館長主催、年2回程度)
     ・連絡会(図書館部長主催、隔月程度)
     ・打合せ会(図書館部の関係係とボランティアとの会、毎月)
     ・交流会(附属図書館の関係者とボランティアとの昼食会等、年1〜2回)
3.2.5 研修
    1)事前研修
    2)フォローアップ研修
    3)自主的勉強会
3.2.5 その他
    1)ボランティア活動保険(つくば市社会福祉協議会からの助成)
    2)図書館利用証の交付
3.2.6 課題
    1)ボランティアによるサービスの範囲・内容
    2)ボランティアと図書館職員とのコミュニケーション
    3)ボランティア間のコミュニケーション
    4)大学図書館ボランティアの定着と発展
    5)学内関係機関との連携