7.9  女性学における情報ネットワーク

                   十文字学園女子大学 社会情報学部 橋本ヒロ子


I.女性学(Women's Studies)とは何か

 
  女性学は、1960年代から1970年にかけて女性解放運動の高まりとともにアメリカで生ま
 れ、日本には1970年代中頃に紹介され移入された。1978年に国際女性学会が国立婦人教育
 会館で東京大会を開催している。

   女性学とは:
 1.女性を研究対象とする(これまでの学問では、女性は不可視であった)
 2.女性の視点から見直す(これまでの学問は男性を中心とした考えに基づいている)
   例:法女性学(法律を女性の視点で見直す)、Historyに対するHerstory 、フェミニ
   スト批評、言語学(漢字に見られる多くの女性差別語)、母体としてだけではなく女性
   の立場からみた女性のからだ。
 3.学際的・総合的である
   社会学、文学、医学、法学、政治学、経済学、開発、言語学等様々が分野に女性学の
   視点で、アップローチできる。 
 4.女性解放を目指す
 5.教育や実践活動と深い関連を持つ
  (男女の意識変革−ジェンダーに基づく考え方の打破―ジェンダートレーニング)
  
   ジェンダー研究 1:ジェンダーやジェンダーに基づく差別の実態等を研究

II.日本における女性学研究・教育の実態

 国立婦人教育会館では1983年以降、全国の大学における女性学関連科目の設置状況調査を
しており、1993年の調査では、268大学・短期大学において512科目が開設されてい
る。その外、10を超える大学2に女性学研究センター等をおかれ、国立婦人教育会館も調査
研究を行っている。また、城西国際大学では、1995年から大学院課程に女性学研究コースを
設置した。
 その外、社会教育の場でも女性学・ジェンダー研究の学習・教育が行われている。例えば、
国立婦人教育会館ジェンダー・女性学フォーラム(ネットワーキング・情報交換の場)、 や
全国各地の女性センター、女性政策窓口、教育委員会等が実施している女性学講座、ジェン
ダートレーニングが挙げられる。

III. 女性学情報システム及びネットワーク

 1.女性情報・女性学情報とは何か
 女性情報3とは女性の地位の向上を図るための情報、すなわち、女性のエンパワーメン
ト4(力をつけること)に役立つ情報である。女性学情報とは、上記の女性学を進めるために
必要な情報は結果的には女性のエンパワーメントに貢献するため、女性情報と女性学情報
はほぼ同じものだと言える。

 2.女性をエンパワーしない情報とは何か 
  1)ジェンダーバイアスに基づいた情報
  ・女性を差別する言葉(嫁、女々しい、嫌う、妬む、姦しい、父兄等)
  ・ 歴史(History)歴史は常に強者・支配者の歴史であり、女性 、庶民、少数民族、
   子ども、老人、障害者等弱者・被支配者の歴史は伝えられていない) 、文学も男
   性作家の描く女性観が主であった。
  ・ ジェンダーバイアスに基づき、女性の人権を軽視し、女性を性の対象としてしか
   見ないマスコミ情報、新聞記事、新聞広告、テレビ番組、CM、雑誌
  ・ 女性を性の対象としている実態:慰安婦、買売春(含援助交際)、ポルノ、AVビデオ
  ・ 性の2重規範:(男性と女性とでは性に関して異なる基準がある)
  ・ 教科書の挿し絵:(母親・食事の支度、男性医師、看護婦、男性技師、女性秘書)

  2)性別役割に対する固定概念 (男は仕事、女は家庭)を助長する情報

  3)女性の実態を表さない情報、統計データ(性別に分けてない、労働の概念が実際に働いてい
 る女性を配慮していない統計―無償労働の見直し)入手できないデータ−例 女性に対する暴力の
 統計)

 3.女性学情報システムおよびネットワークが必要な理由
  女性学情報はメジャーな情報ではなく、ミニコミ誌に入っていたり、NGO等が刊行していた
 り、これまでの伝統的な図書館・情報センターやシステムには、女性学に必要な情報がなかなか
 入っていない。また入っていたとしても、必要に応じて探すことが難しい。(例NDC  女性問題(女
 性の問題は非常に多様であるにもかかわらず、すべて367に分類されていることが多い、件名にし
 ても、同じ理由で「女性」しか件名が入っていない場合が多い。)

 4.女性学情報シソーラス
  女性情報を処理するためのシソーラスは1980年代から開発されてきた。
  全米女性研究協会(Women's thesaurus 1985)、国立婦人教育会館(婦人教育シソーラス-1988) アセ
 アン開発と女性プログラム(開発と女性シソーラス)、スペイン 女性研究所(Mujer )  

 5.女性情報センター及びネットワーク
  1)女性情報センター
   各国の女性の地位向上のためのナショナルマシーナリー、女性学研究機関、女性センター、
  女性の地位向上を目指すNGO等に置かれている。

オンラインネットワーク
  ・ WINET(Women's Information Network国立婦人教育会館1991-)
  ・ Global faxnet  第4回世界女性会議に向けてとフォローアップ(e-mailとfax)
  ・ インターネット上の検索:Yahooなどから、「women's studies」とか「research on women」、
   「women in development」に関する情報をまとめて探すために、「women」という言葉で検索
   すると、予測もしない結果が画面に現れ呆然とする。本来必要とする情報は、全体の3分の1
   ぐらいで、女性を性の対象とした情報がよくもこんなにと思
   う位出てくる。インターネットの検索エンジンにはシソーラスは組み込んでないよう
   である。そのため、インターネット上で、女性の地位の向上に役立つ、女性のために
   なる情報だけを探すためにWomen's Online Media(WOM)http://www.suehiro.nakano.tokyo.jp /
   WOM / Japanese)やWomensnet (http://www.igc.org/igc/womensn../../index.html)などを使うと効率
   的である。WOMは慶応大学の研究プロジェクトVCOMの活動の一環として第4回世界女性会
   議(北京会議)が行われた1995年に5人の女性を中心メンバーとして発足した。
    また、http://www.un.org/News/から国連の最新情報が探せる。この場合、当然の事かも知れ
   ないが、womenで検索しても女性を性的対象にしたような情報は出てこない。
    国連の会議等のプレス速報から、「慰安婦」に関してはどのような議論が行われたかを探す
   場合、日本政府の発言以外「comfort women」という言葉はほとんど使われていない。その他
   の関係国やNGOは「sexual slavery」という言葉を使っている。「強制ではなかった」と主張
   している人たちは、国連の文書をインターネットで検索してみれば、「強制性」を主張してい
   る国がほとんどであることを認めざるを得ないのかもしれない。その外、国連組識の中に
   は、女性のために設置された機関がいくつかあり、これらの活動を見るためには、
   http://www.un.org/womenwat../../index.htmlからアクセスできる。
  
 3)オフラインネットワーク
アジア太平洋地域の女性の地位向上のための国家機構でe-mailやインターネットにアクセスできる機 関は10に満たない。それだけではなく、女性のエンパワーメントにグループで活動する事が不可 欠であり、グループの強化のためにも、オフラインによるネットーワークも必要である。 WINAP(Women's Information Network for Asia and the Pacific ESCAP 1986-) DAWN(Development Alternative for Women in New Era) Women's Women's Health Network(アジア、南アメリカ等にある) Isis International Latin America and Caribbean Network JJネット(日本における女性政治家、運動家、研究者のfaxネットワーク) 1 ジェンダー:社会的文化的に創られた性差;男らしさ、女らしさ 2 お茶の水女子大学ジェンダー研究センター、愛知淑徳大学(共学)ジェンダー研究センター、 東京女子大学女性学研究所、昭和女子大学女性文化研究所等研究所等 3 一般に流通している「情報、社会科学、歴史、そしていわゆる常識といわれていること」とは、 その時の権力者、大多数の側に立ち、彼らに都合の良い視点に立って加工され、提供されている。   例 コロンブスのアメリカ大陸発見 1492年 (アメリカ大陸の原住民は1492年以前からずっとア    メリカ大陸に住んでおり、発見など西洋人の見方であり、むしろこの年から西洋人のアメリ    カ大陸侵略が始った。)  女性、原住民、障害者、子ども、老人、病人等の視点は、これら    の情報に入っていることは少ないため、情報、社会科学、歴史等にこれらの人々の実態が反    映されていない。 4 Enpowerment−力をつける−第4回世界女性会議の合い言葉