７．１　　著作権に係わる問題について

７．関連講義等７．１　　著作権に係わる問題について
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　文化庁文化部著作権課指導普及係　三木　泰英
I　知的所有権（無体財産権）について

　　　　　　　　　知的所有権－－－－－著作権（著作隣接権を含む）
　　　　　　　　　　　　　　　　｜－－工業所有権－－－－特許権
　　　　　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　｜－－実用新案権
　　　　　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　｜－－意匠権
　　　　　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　－－－商標権
　　　　　　　　　　　　　　　　－－－その他－－－－－－－回路配置利用権
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｜－－植物品種保護権
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－－－不正競争防止法など

　(1) 工業所有権
　　〇　特許権（特許法）：発明（自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの）
　　〇　実用新案権（実用新案法）：考案（自然法則を利用した技術的思想の創作で物品の形状、
　　　構造又は組合せに係るもの）
　　〇　意匠権（意匠法）：意匠（物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、
　　　視覚を通じて美感を起こさせるもの）
　　〇　商標権（商標法・不正競争防止法）：商標（文字、図形若しくは記号若しくはこれらの
　　　結合又はこれらと色彩との結合であって、商品又は役務に使用されるもの）

　(2) その他
　　〇　回路配置利用権（半導体集積回路の回路配置に関する法律）
　　〇　植物品種保護権（種苗法）
　　〇　商号（商法・不正競争防止法）：商人の名称
　　〇　商品等表示、取引上の表示、営業秘密、商品の形態等（不正競争防止法）

II　著作権制度の歴史
　　明治　２年(1869年)　出版条例制定
　　明治３２年(1899年)　著作権法(旧著作権法)制定（ベルヌ条約(明治１９年<1886年>作成)に加盟）
  　  昭和３１年(1956年)　万国著作権条約(昭和２７年<1952年>作成)に加盟
　　昭和４５年(1970年)  現行著作権法公布(昭和４６年１月１日施行) 
　　昭和５３年(1978年)　レコード保護条約(昭和４６年<１９７１年>作成)に加盟
　　平成　元年(1989年)　実演家等保護条約(昭和３６年<１９６１年>作成)に加盟
　　平成　６年(1994年)　ＷＴＯ(世界貿易機関)設立協定に加盟
III　現行法施行後の主な改正の概要�
　　昭和５３年(1978年)　レコード保護条約の加入に伴う規定の整備
　　昭和５９年(1984年)　貸与権の創設等
　　昭和６０年(1985年)　コンピュータ・プログラムの著作権法上の保護の明確化等
　　昭和６１年(1986年)　データベースの著作権法上の保護の明確化
　　　　　　　　　　 　有線送信に関する規定の整備
　　　　　　　　　　 　有線放送事業者の保護等
　　昭和６３年(1988年)  海賊版所持罪の新設
　　　　　　　　　　 　著作隣接権の保護期間の延長(20年→30年)
　　平成　元年(1989年)　実演家等保護条約の加入に伴う規定の整備
　　平成　３年(1991年)　外国実演家・レコード製作者への貸与権等の付与
　　　　　　　　　　 　著作隣接権の保護期間の延長(30年→50年)
　　　　　　　　　　 　外国レコード(ﾚｺｰﾄﾞ保護条約加<昭和５３年>前のレコード)の保護強化
　　平成　４年(1992年)　私的録音・録画に係る補償金制度の創設
　　平成　６年(1994年)　ＷＴＯ(世界貿易機関)設立協定の締結に伴う規定の整備
　　平成　８年(1996年)　著作隣接権の保護対象の遡及的拡大
　　　　　　　　　　   写真の著作物の保護期間の延長
　　　　　　　　　　   罰則の強化等

IV　著作権法の概要
　１．著作権法の目的（１条）
　　　　著作物並びに実演，レコ－ド，放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する
　　　権利を定め，これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ，著作者等の権利の保護を図り，
　　　もって文化の発展に寄与することを目的とする。

　２．著作物
　　　　思想又は感情を創作的に表現したものであって，文芸，学術，美術又は音楽の範囲に属す
　　　るもの（２条１項１号）
　　○　著作物の例示（10条１項）
　　　　言語，音楽，舞踊・無言劇，美術，建築，地図・図形，映画，写真，コンピュータ・プ
　　　ログラムの著作物
　　○　編集著作物（12条１項）
　　　　編集物で，素材の選択又は配列によって創作性を有するもの
　　　　（編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(同条２項))
　　○　データベースの著作物（12条の２ １項）
　　　　データベースで，情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの
　　　　（データベースの部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない(同条２項))
　○　二次的著作物（２条１項11号）
　　　　著作物を翻訳し，編曲し，若しくは変形し，又は脚色し，映画化し，その他翻案するこ
　　　とにより創作した著作物（原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない（12条）)
　　○　共同著作物（２条１項11号）
　　　　二人以上の者が共同して創作した著作物で，各人の寄与を分離して個別的に利用するこ
　　　とができないもの
　　　　保護期間や権利の行使について，特別な規定がある。（51条２項，64条，65条）
　　○　権利の目的とならない著作物（13条）
　　　　法令，告示，判決等
　　○　著作物とならないもの（10条２項）
　　　　事実の伝達にすぎない雑報，時事の報道

　３．保護を受ける著作物（６条）
　　1)　日本国民（我が国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法
　　　人を含む）の著作物 →国籍主義
　　2)　最初に国内において発行された著作物（最初にこの法律の施行地外において発行された
　　　が，その発行の日から30日以内に国内において発行されたものを含む）→発行地主義
　　3)　条約により我が国が保護の義務を負う著作物
　　　i　  ベルヌ条約上保護すべき著作物
　　　ii　 万国著作権条約上保護すべき著作物
　　　iii　ＷＴＯ設立協定(TRIPS協定)上保護すべき著作物

　４．保護期間
　　○　保護期間の始期 ････ 著作物の創作の時に始まる（51条１項）
　　○　保護期間の原則 ････ 著作者の死後50年（51条２項）
　　　　（無名、変名、団体名義、映画の著作物は公表（創作）後50年（52条～54条））
　　○　保護期間の計算方法 ････ 基準となる日の属する年の翌年から起算する（57条）
　　○　保護期間の特例 ････ 相互主義（58条）
　　　・　万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律（３条）
　　　・　連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律（戦時加算 3,794日）

　５．著作者
　　○　著作者（２条１項２号）
　　　　著作物を創作する者
　　○　職務上作成する著作物の著作者（15条）
　　　　次の要件の全てを満たすときは〈法人〉が著作者となる
　　　　1)　著作物が法人等の企画に基づいて作られたものであること。
　　　2)　法人等の従業者が作成したものであること
　　　　3)　従業者が職務上の義務として作成すること
　　　　4)　著作物を法人等の著作の名義の下に公表すること（プログラムを除く）
　　　　5)　契約や就業規則で従業者を著作者とする旨の定めがないこと
　　　　※〈法人〉････　法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを
　　　　　　　　　　　含む（２条６項）

　６．著作者の権利
　　○　著作者人格権と著作権（17条１項）
　　○　無方式主義（17条２項）
　　　　著作者人格権及び著作権の享有には，いかなる方式の履行をも要しない
　　　　（著作者が著作物を創作した時に著作者に自動的に発生する）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－－公表権（１８条)
　　　　　　　　　　　　－著作者人格権－－－｜－氏名表示権（１９条)
　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　－－同一性保持権（２０条)
　　　　　　　　　　　　｜
　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　－－複製権（２１条)
　　　　著作者の権利－－｜　　　　　　　　　｜－上演権，演奏権（２２条)
　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　｜－放送権，有線送信権等（２３条)
　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　　｜－口述権（２４条)
　　　　　　　　　　　　－著　作　権－－－－｜－展示権（２５条)
　　　　　　　　　　　　　　  (財産権) 　　 ｜－上映権，頒布権（２６条)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｜－貸与権（２６条の２)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｜－翻訳権，翻案権等（２７条)
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－－二次的著作物の利用に関する権利（２８条）
　７．著作権の制限（30～50条）

　　○　私的使用のための複製（３０条）
　　　　家庭内で使用するために，著作物を複製することができる。ただし，デジタル方式の録
　　　音録画機器等を用いて著作物を複製する場合には，著作権者に対し補償金の支払いが必要
　　　となる。なお，公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器（専ら
　　　文書又は図画の複製に供するものは除かれる。）を用いて複製するときは許諾が必要。
　　　　同様の目的であれば，翻訳，編曲，変形，翻案も可。

　　○　図書館等における複製（３１条）
　　　　政令で認められた図書館に限り，一定の条件の下に，利用者に提供するための複製，保
　　　存のための複製等を行うことができる。（翻訳して利用者に提供することもできる。）
　　　　1)　コピーサービス
　　　　　・利用の方法  ････　図書館等の利用者の求めに応じ，その調査研究の用に供するた
　　　　　　　　　　　　　　　め複製すること
　　　　　・複製等の主体 ････ 政令１条で定める図書館等（公共図書館，大学等の図書館など）
　　　　　・複製等の条件 ････ 営利を目的としないこと，当該図書館等の資料を用いること
　　　　　・複製等の程度 ････ 公表された著作物の一部分（発行後相当期間を経過した定期刊
　　　　　　　　　　　　　　　行物に掲載された個々の著作物にあっては，その全部）を一人
　　　　　　　　　　　　　　　につき一部提供すること
　　　　2)　保存のための複製
　　　　　i 　図書館資料の保存のため必要がある場合（２号）
　　　　　ii　他の図書館等の求めに応じ，絶版その他これに準ずる理由により一般に入手する
　　　　　  ことが困難な図書館資料の複製物を提供する場合（３号）

　　○　引用（３２条）
　　　1)　公正な慣行に合致すること，引用の目的上，正当な範囲内で行われることを条件とし，
　　　　自分の著作物に他人の著作物を引用して利用することができる。同様の目的であれば翻
　　　　訳も可。
　　　　（引用の注意事項）
　　　　　ア　他人の著作物を引用する必然性があること
　　　　　イ　引用部分と自分の著作物とが区別されていること
　　　　　ウ　自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること
　　　　　エ　出所の明示がなされていること
　　　　　　　　　（参照：最判昭和55年３月28日「パロディー事件」）
　　　2)　国等が行政のＰＲのために発行した資料等は，説明の材料として新聞，雑誌に転載す
　　　　ることができる。ただし，転載を禁止する旨の表示がある場合はこの限りでない。

　　○　教育機関における複製（３５条）
　　　　教育を担任する者は，授業の過程で使用するために公表された著作物を複製することが
　　　できる。ただしドリル，ワークブックの複製や，放送番組のライブラリー化など，著作権
　　　者に経済的不利益を与えるおそれがある場合にはこの規定は適用されない。複製が認めら
　　　れる範囲であれば，翻訳，編曲，変形，翻案も可。
　　　　・複製等の条件････学校その他の教育機関（営利を目的として設置されているものを除
　　　　　　　　　　　　　く）で行われる授業の過程における使用に供する目的であること
　　　　・複製等の主体････教育を担当する者
　　　　・複製等の程度････必要と認められる限度内かつ著作権者の利益を不当に害しないこと

　　○　試験問題としての複製（３６条）
　　　　入学試験や採用試験などの問題として著作物を複製できる。ただし，営利目的の模擬試
　　　験などのための複製の場合には，著作権者への補償金の支払いが必要。同様の目的であれ
　　　ば，翻訳も可。

　　○　点字による複製等（３７条）
　　　　点字によって複製することができる。また，点字図書館や盲学校の図書室など一定の施
　　　設では，もっぱら盲人向けの貸出し用として著作物を録音することができる。同様の目的
　　　であれば翻訳も可。

　　○　営利を目的としない上演等（３８条）
　　　1)　営利を目的とせず，観客から料金をとらない場合は，公表された著作物の上演・演奏・
　　　　上映・口述することができる。ただし，出演者などに報酬を支払う場合は許諾が必要と
　　　　なる。
　　　2)　営利を目的とせず，貸与を受ける者から料金をとらない場合は，公表された著作物の
　　　　複製物を貸与することができる。ただし，ビデオなど映画の著作物については，政令で
　　　　定められた視聴覚ライブラリー等に限られ，さらに，著作権者に補償金を支払わなけれ
　　　　ばならない。

　　○　裁判手続等における複製（４２条）
　　　　裁判の手続のためや，立法，行政上の内部資料として必要な場合には，著作物を複製す
　　　ることができる。同様の目的であれば，翻訳も可。

　　○　美術の著作物等の原作品の所有者による展示（４５条）
　　　　美術の著作物又は写真の著作物の原作品の所有者等は，その作品を公に展示することが
　　　できる。

　　○　公開の美術の著作物等の利用（４６条）
　　　　屋外に設置された美術の著作物や建築の著作物は，方法を問わず利用できる。
　　　　（彫刻を増製する場合や美術の著作物の販売を目的として複製する場合等を除く。）

　　○　美術の著作物等の展示に伴う複製（４７条）
　　　　美術の著作物の原作品等を展示する者は，観覧者のための解説，紹介用の小冊子などに，
　　　展示する著作物を掲載することができる。

　　○　プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等（４７条の２）
　　　　プログラムの所有者は，自ら電子計算機で利用するために必要と認められる限度でプロ
　　　グラムを複製，翻案することができる。
　　　　滅失以外の理由でプログラムの所有権を有しなくなった後は，著作権者の別段の意思表
　　　示がないかぎり，その他の複製物を保存してはならない（第２項）
　８．登　録
　　○　登録の種類
　　　　実名の登録（75条），第一発行年月日等の登録（76条），創作年月日の登録，著作権の
　　　登録（77条），著作隣接権の登録（104条），出版権の登録（88条）
　　○　指定登録機関（78条の２（プログラムの著作物の登録の特例に関する法律５条１項）
　　　　（財）ソフトウェア情報センター（ＳＯＦＴＩＣ） TEL 03-3437-3071

　９．出版権
　　○　出版権の設定（79条）
　　　　著作物の出版を引き受ける者に対し，複製権者（著作権者）が設定することができる。
　　○　出版権の内容（80条１項）
　　　　出版権者は頒布の目的をもって，著作物を原作のまま印刷等の方法により，文書又は図
　　　画として排他的・独占的に複製することができる
　　○　出版の義務（81条）
　　　　出版権者は，設定行為に別段の定めがないときは，複製のために必要な原稿等の引渡し
　　　を受けた日から６月以内に出版する義務を負う

　10．著作隣接権制度
　　○　実演家，レコード製作者，放送事業者，有線放送事業者の権利（89条～100条の４）

　　　　　　実演家の権利－－－－著作隣接権－－－－録音権，録画権
　　　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　｜－放送権，有線送信権
　　　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　－－貸与権(ﾚｺｰﾄﾞ発売後　１年間) 
　　　　　　　　　　　　　　－－放送二次使用料，報酬(貸しレコード)を受ける権利

　　　　　　レコード製作者の権利－－－－著作隣接権－－－－複製権
　　　　　　　　　　　　　　　　　　｜　　　　　　　　｜－貸与権(ﾚｺｰﾄﾞ発売後　１年間) 
　　　　　　　　　　　　　　　　　　－－放送二次使用料，報酬(貸しレコード)を受ける権利

　　　　　　放送事業者の権利－－－－著作隣接権－－－－複製権
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｜－再放送権，有線放送権
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－－テレビジョン放送の伝達権

　　　　　　有線放送事業者の権利－－－－著作隣接権－－－－複製権
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　｜－放送権，再有線放送権
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－－有線テレビジョン放送の伝達権

　　○　保護期間 ････ 実演等が行われた時から50年（101条）
　　○　著作隣接権の制限 ････ 著作権の制限規定に準じて制限される（102条）
　11．権利侵害に対する救済等
　　○　著作者人格権，著作権，出版権又は著作隣接権を侵害する行為
　　　　著作権等の侵害 ････ 他人の著作物等の使用態様が違法性を有する一切の場合
　　○　次の行為は，著作権等を侵害するものではないが，法律上それらと同視すべき行為とし
　　　て，著作権等を侵害する行為とみなされる（みなし侵害：113条）
　　　1)　国内で頒布する目的で，輸入時に国内で作成されたとしたならば著作権等の侵害とな
　　　　る行為によって作成された物を輸入する行為（１項１号）
　　　2)　著作権等を侵害する行為によって作成された物を，情を知って頒布し，又は頒布の目
　　　　的をもって所持する行為（１項２号）
　　　3)　プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を，業務上電
　　　　子計算機において使用する行為（複製物の使用権原を取得した時に，情を知っていた場
　　　　合に限る（２項）)
　　　4)　著作者の名誉，声望を害する方法によりその著作物を利用する行為（３項）
　　○　民事上の救済措置
　　　　差止請求権(112条)，損害賠償請求権(民法709条・710条)，損害額の推定等：(114条),
    　不当利得返還請求権(民法703条)，名誉回復等の措置を受ける権利(115条)など
　　○　刑事罰
　　　・著作者人格権，著作権，出版権，著作隣接権を侵害した者（119条）
　　　　　３年以下の懲役又は300万円以下の罰金････ 親告罪（123条）
　　　・６０条の規定（著作者が死亡した後の人格的利益の保護）に違反した者（120条）
　　　　　300万円以下の罰金
　　　・４８条又は１０２条２項の規定（出所の明示）に違反した者（122条）
　　　　　30万円以下の罰金

　　 12．国際条約(加盟国数は平成８年１０月現在)
　　○　ベルヌ条約 ････ 管理機関：ＷＩＰＯ（世界知的所有権機関）
　　　　1886年にスイスのベルヌで制定＝英，仏，独，日本，米など119ヶ国が加盟
　　　　内国民待遇，無方式主義，遡及効，最低保護期間＝死後50年
　　○　万国著作権条約 ････ 管理機関：ユネスコ（国際連合教育科学文化機関）
　　　　1952年にジュネーブで制定＝米，ロシア，英，仏，独，日本など95ヶ国が加盟
　　　　内国民待遇，�表示（方式主義国），不遡及効，最低保護期間＝死後25年
　　○　レコード保護条約 ････ 管理機関：ＷＩＰＯ，ユネスコ
　　　　1971年にジュネーブで制定＝米，英，仏，日本など54ヶ国が加盟
　　○　実演家等保護条約 ････ 管理機関：ＷＩＰＯ，ユネスコ，ＩＬＯ（国際労働機関）
　　　　1961年にローマで制定＝英，仏，日本など52ヶ国が加盟
　　○　ＷＴＯ設立協定 ････ 管理機関：ＷＴＯ（世界貿易機関）
　　　　1994年にマラケシュで制定＝米，英，ＥＣ，日本など125ヶ国・地域が加盟。