1.5  図書館の管理運営

                       中央大学総合政策学部教授  高 柳  暁


1.管理の原理
 (1) 管理の意味
  管理(Management)とは,目標の達成に向けて,人々が最善の努力を払うようにする活動のこ
 とである。この管理活動を行う者が管理者(Manager) である。
  管理者には組織の最高の地位にいる最高管理者から,中間管理者(部門管理者)および下級
 管理者(現場管理者,第一線管理者)と存在するが,これらの区分は管理する組織の範囲で区
 分されている。
  日本語の管理は,物品管理という言葉が示すように,物を保管整理しておくことにも使うが,
 経営学で言う管理は,原則として人が対象である。部下や仲間をいかにして目標に向かって効
 率的に活動させるかが管理の中心課題である。
 (2) 管理過程(Management Process)
  管理過程をどのように把握するかには,多少経営学理論で相違しているが,ここでは経営過
 程論にしたがって説明する。
  管理活動とは,組織体の目標に向かって,組織のメンバーの活動を高めかつ統合して行く活
 動であり,統合した活動とするために,計画,組織,指揮,統制という経営管理過程をへて実
 行される。目標を達成するためにはどんな活動をなすべきかの計画をつくり,その計画を実行
 するための組織を編成し,部下を集め,部下が集まったところで命令を発して仕事をさせる。
 そして,仕事中,あるいは仕事が完成したとき,最初計画したとおりに目標を達成できたか否
 かを調べ,計画した目標に到達していない場合その原因を追求し,次回の管理のさいの参考に
 するという統制活動を行って管理活動は一応完結するというものである。
  この計画,組織,指揮,統制のどの一つが不十分でも,良い管理は行われなくなる。これら
 の過程が全部合理的に行われることが,管理の必須条件と言える。

2.図書館の組織均衡
  図書館の経営管理を考察する場合,管理の一般理論を知るとともに,図書館の特質を知る必
 要がある。企業などの経営組織を,経営学の管理論は対象として発展したものであり,この経
 営管理論を図書館に適用しようとする場合には,経営組織と図書館がどのように相違するのか
 を十分に認識しなければならない。
  組織体の性質を知るのに,組織がどのような環境の下で,成立存在しているのかを考察する
 組織均衡の理論が有益である。組織均衡論は,組織体が成立しているのは,各種の組織への参
 者が,参加の決定をし,実際に参加を続けているからである。企業の場合でいえば,従業員,
 顧客,取引先(原材料の供給者),株主,金融機関などが,主要な参加集団であり,これらの
 参加集団が必ず参加していないと,企業は成立たない。顧客が参加しないという意味は,誰も
 その企業の製品を買わなければ,売上ゼロで企業は倒産してしまう。従業員も,皆やめてしま
 えば,企業は事業活動を続けられなくなる。
  参加者が組織体へ参加するか否かは,一般的に言えば,組織が参加者に提供する誘因と参加
者が組織に対して行う貢献との比較で決定される。誘因が貢献と等しいか上廻っている場合(
 誘因≧貢献),組織へ参加するが,誘因が貢献に達しない場合(誘因<貢献),参加しない。
  企業と従業員との関係で言えば,誘因は,企業が従業員に支払う給与等であり,貢献は従業
 員の職務の遂行である。従業員は,会社に提供している労働に見合うかそれ以上の価値のもの
 (給料その他)を得ていると思っていると,会社の従業員であり続ける。
  図書館の場合,参加者集団としては,図書館の職員,図書館の利用者,本などの納入業者,
 がまず考えられる。そのほか,図書館のオーナー(図書館の予算を支出している者)がいる。
  職員は,給料をもらって,図書館業務を遂行しており,また本の納入業者も,本を納入し,
 その代金を受取っている。この職員と本の納入業者は,誘因と貢献とが通常の状態で均衡して
 いる。しかし,利用者とオーナーとは,通常の意味では,誘因と貢献とが均衡していない。図
 書館の利用者は,大学の図書館にしても,公共の図書館にしても,利用者は図書についてサー
 ビスを受けるという誘因は受けるが,直接には貢献をしていない。オーナーは,図書館の運営
 予算を負担するが,図書館からはとくに誘因を受けていない。このように,図書館では利用者
 とオーナーが,それぞれ誘因と貢献が均衡していないところに,一般の企業などと相違してい
 る特徴がある。
  利用者とオーナーと組めば,図書館に対して誘因と貢献とが均衡するのであるが,しかし,
 利用者は,直接には貢献なしで,誘因のみ受取るため,誘因そのものの内容に無頓着になる傾
 向がある。オーナーの提供する貢献に見合った誘因を利用者に図書館が提供しているか,真剣
 に検討する参加者が存在しない。この状態では,図書館は存続できるが,利用者とオーナーか
 ら効率化の要請は働かないことになる。
  以上のことを,組織均衡論でなく,一般的な表現をすれば,図書館は,公共的機関によって,
 利用者に公共サービスを提供しているので,一般の民間の組織体とは,かなり異質な存在とな
 っているということになる。

3.図書館の管理の実際と問題点
 図書館の管理について,計画,組織,指揮,統制の管理過程にそって簡単に説明しよう。
 (1) 計画
  まず,第一に確定しなければならないのは,目標である。利用者によりよい図書に関するサ
 ービスの提供をすることが目的であろうが,よりよいサービスという意味では目標は必ずしも
 明確でない。図書についてはすべて揃えてあってどんな要望にも応じられることが,高いサー
 ビスとしても,これは図書館の規模の関数で,必ずしも実現できるわけではない。限られた規
 模と予算の中で,よりよいサービスと言った場合,当該の図書館の利用者の要望によりよく適
 合するよう重点的な蔵書構成を考え,あとは文献サービスの強化で補うなどするしかないこと
 になろう。なお,貸出し方法など,利用者が便利で気持よい窓口サービスを受けられることを
 目標にすることも考えられる。
  いづれにせよ,目標が具体的に定められたなら,この目標を実現するための計画を立案する
 ことになる。特定の蔵書構成を目指すなら,その構成を実現するよう,図書の注文を計画しな
 ければならない。サービス強化が目標ならば,サービス体制の整備計画をたてる必要がある。
  実際には,年度ごとの計画(予算)の中に,目標を達成するための活動が含まれていなけれ
 ばならない。
(2) 組織
  組織は,上述の計画を実行しやすいように編成運営されるべきである。一般にサービスの強
 化を計画している場合には,組織は,利用者別〔大学図書館であれば,学生向,研究者向(理
 工系と法経系,文系などにさらに分類)〕が適切と考えられるし,集権的より分権的な方がよ
 いサービスが期待されよう。
  大学の場合,学部に図書室を設置し,予算から収書,貸出等のサービスについて,その学部
 に自由に決定させるという分権化を行なう方が,各部門の実状に合った適切なサービスが提供
 できる可能性が高い。もちろんデータは統一的にし,誰でもが接近できる必要がある。
 組織構造としては,通常の職能別組織のほか,書籍の分類別,顧客(利用者)別,地域別等,
 考えられるが,どの形態をとるかは,図書館の規模,環境に依存する。もっとも管理運営が効
 率的に行なわれる組織を選ぶ必要がある。
  運営と関係するが,権限の委譲の程度を決める必要がある。これとの関連で命令の統一性を
 守る否か,マトリックス組織を導入するかどうかも検討する必要はある。
 (3) 指揮
  計画を実現するために,組織にいる人々を動かす過程であるが,大切なのは,職員が自ら喜
 んで図書館業務を目標に向かって働くようにすることである。管理者は,職員に明確な目標を
 含む計画を示し,職務の遂行をしやすい職場環境を整える必要がある。リーダーシップ能力の
 向上が期待される。
  職員が意欲をもって働くようにする手段として,大別して2種ある。1つは,業績をあげた
 者に報酬を与える方法で,いわゆる能率給,業績給などの採用である。他は,組織(この場合,
 図書館)への一体化,忠誠心の向上をはかる方法である。図書館の文化の拠点としての社会的
 役割の評価,それを行なう司書としての誇りが高まれば,図書業務への熱意は高まる。
 (4) 統制
  実行されたことが計画通りであったかをチェックし,もし相違があれば,その原因を追求し,
 再び誤りを繰り返さないようにする過程である。
  ここで必要なことは,計画どおりの実績であったかを測定する業績評価の方法を確立してお
 くことである。目標が質的な場合には,そのままでは業績評価はあいまいになりやすく,工夫
 が必要となる。
  従来は,この統制は予算統制を中心としてなされてきた。予算は,金銭表示された実施計画
 であり,予算が合理的に編成されていれば,予算を滞りなく実行することで,計画どおりの実
 施ができたことになる。
  しかし,これからは,予算を消化したかだけでなく,実施活動の内容もチェックする必要が
 生じている。