沖縄の歴史情報 第1巻
はじめに
重点領域研究「沖縄の歴史情報研究」(平成6-9年度)の課題は、情報科学の援用を得て、琉球・沖縄史研究の実証的文献研究に不可欠な各種歴史資料の情報化を進め、その有効利用を図ることである。
歴史研究にコンピュータを利用するには、さまざまな歴史資料を、機械可読のデータとして情報化し、インプットすることが必要である。しかし、そのためには、情報化すべき歴史資料そのものについての研究、すなわち電子化に対応した史料の構造や機能についての検討、史料そのものの文脈や文章の構造の解析、あるいは原史料の画像のイメージ情報が持つ階層的な構造や、文字や語彙の一つひとつにいたるまでのさまざまな問題に対処しなければならない。いわば歴史資料の情報化のためには、これまでの歴史研究が経験することがなかった史料研究の新たな領域があり、そのための歴史情報資源研究が不可欠である。琉球・沖縄史と環東シナ海世界の地域間交流に関する多種多様な歴史資料を、いかにして機械可読のデータとして情報化するか、そして集積された情報化資料の公開と共有に関する新しいシステムを模索し、またこのことを通じて失われた琉球・沖縄の歴史的文化遺産の復元に寄与すること、がわれわれの課題である。文部省科学研究費補助金重点領域研究「沖縄の歴史情報研究」は、平成6年度から平成9年度までの4年間を研究期間として進められた。本領域研究での研究課題は計画研究が9課題、単年度で更新される公募研究は延べにして32課題からなり、全国にわたって多くの研究者が参加した。本研究では、歴史学と情報科学との有機的結合を必要とし、また従来ともすると個別に行なわれていた日本史、東洋史、アジア史、朝鮮・韓国史などの個々の歴史研究活動の枠を越えた新たな取り組みが求められた。とりわけ歴史資料の情報化に取り組む局面では、研究班の枠を超えての共同研究が行なわれた。インターネットや画像処理にかかわる分野での技術的進歩は急速であるが、この「追い風」をうけつつ、本研究では歴史研究に有効と考えられるコンピュータ利用の幾つかの試みを行なった。本領域研究の成果である情報化資料は、筑波大学付属図書館、東京大学史料編纂所あるいは沖縄歴史情報研究会のホームページからインターネット上で公開されるが、その中から利用度の高い資料などを集めてCD-ROM版「研究成果報告書」を作成することにした。忌憚のないご批評をお願いしたい。
最後に、本領域研究の推進にあたってご支援、ご協力を賜わった関係各位に、深甚なる感謝を表する次第である。
1998年12月
文部省科学研究費補助金重点領域研究
「沖縄の歴史情報研究」領域代表者
岩崎宏之(筑波大学歴史・人類学系教授)
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