教員著作紹介コメント(吉田正人先生)

吉田正人先生(芸術系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2019/01/22)

【本の情報】
『世界遺産を問い直す』吉田正人著. 山と溪谷社, 2018.8 【分類709.1-Y86】

【コメント】
世界遺産条約は、自然と文化の両方を一つの条約で保護するというという ユニークな性格を有している。しかし、実際には、自然遺産と文化遺産は、 別々の基準に基づいて、別々の国際機関が評価を担当し、国内的にも自然 遺産は環境省、文化遺産は文化庁など、別々の機関によって管理される。 これに対して、2013年に複合遺産としては登録延期となったピマチョイン アキに住むカナダ先住民から異議が申し立てられた。これをきっかけに、 世界遺産の登録やその後の管理にあたって、自然的価値と文化的価値の関 係に着目し、その関係性を評価するような取り組みが始まっている。 本書は、世界遺産条約において、なぜ自然的価値と文化的価値の分断が 始まったのかを条約成立の歴史に遡って検証するとともに、白神山地、 屋久島、知床、小笠原諸島、奄美・琉球諸島、富士山・紀伊山地を事例 として、自然と文化の関係性をどのように保つべきかを提言している。 筑波大学世界遺産専攻でも、自然保護寄附講座と共同で、2016年から、 アジア・太平洋地域の遺産保護における自然と文化の連携に関する人材 育成ワークショップを開催し、TGSWでのシンポジウムも開催している。 読者が、この問題に関心を抱いて、シンポジウム等に参加してくれること を期待している。