教員著作紹介コメント(Timur Dadabaev先生)

Timur Dadabaev先生(人文社会系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2017/06/20)

【本の情報】
『Kazakhstan, Kyrgyzstan, and Uzbekistan : life and politics during the Soviet era 』Timur Dadabaev, Hisao Komatsu, editors. Palgrave Macmillan, c2017【分類229.6-D12】

【コメント】
これまでの旧ソ連中央アジア地域に関する歴史研究は、主に資料を中心に構成されており、人々の声や彼らが経験してきたことは無視されることが多かった。しかし、時代の政治的なイデオロギーを多く反映する歴史資料に、人々の経験に関する記憶を加えて検討することで、時代と様々な出来事をはじめて説明することができるようになるのではないだろうか。本書では、そのようなカザフスタン、キルギスとウズベキスタンの人々の記憶を提供することで、ソ連時代の複雑さをより客観的に理解できるようになることへの貢献を目指した。
 本研究の回答者の証言から読み取れる過去(ソ連時代に対する)ノスタルジーが興味深い現象である。国民がソ連時代にノスタルジーを抱く理由は、主に二つ挙げられる。一つは、過去に対するノスタルジーがカザフスタン、キルギス、ウズベキスタンのみならず、どこの国の人にも共通するものであることである。それは、自分がまだ若く様々なことに挑戦していた時代に戻りたい、という気持ちから生じると思われる。
 二つ目には、旧ソ連を構成していた中央アジアのウズベキスタン、カザフスタンとキルギスの人々が持つ特殊性である。すなわち、自分たちがこれまで経験してきた出来事、政治体制、社会などに関する感情に基づいた懐かしさである。間接的ではあるものの、そのような懐かしさは単に過去に対する憧れだけでなく、現在の生活に対する不満も物語っている。彼らの多くは自分たちの現時点での生活や経済・社会状況の観点から当時を思い出し、ノスタルジーを感じ、ソ連時代を非常に高く評価する。具体的には、ソビエト的な価値観、社会制度、生活の安定感、人々の仕事やお互いに対する関係に見られた規律、高水準の労働や教育、そしてソ連の一部を構成しているという誇りがその理由としてよく挙げられる。これらが人々の中に未だに残るソ連時代の魅力とこの時代に対する愛着の要因となっている。

ダダバエフ ティムールと小松久男、 Kazakhstan, Kyrgyzstan, and Uzbekistan: Life and Politics during the Soviet Era, NY: Palgrave Macmillan, 2017年1月刊行
http://www.palgrave.com/jp/book/9781137522351(学外サイト)