教員著作紹介コメント(吉田 正人先生)

吉田正人先生(芸術系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2013/1/21)

【本の情報】
『世界自然遺産と生物多様性保全』吉田正人著.地人書館 , 2012.11【分類519.8-Y86】

【コメント】
 世界遺産は、人類にとって共通の「顕著な普遍的価値」を持つ貴重な財産であり、保全・整備し、将来の世代に伝えていかなければならない。
 しかし、世界遺産がブランドとして定着した結果、世界遺産リストに記載された遺産に観光客が集中し、持続可能な発展とは言い難い状況も生まれている。にもかかわらず、世界遺産リストへの新規登録をめざして、多くの候補地がしのぎを削り、加盟国も競って新規登録をめざしているのが現状である。その結果、本来、危険にさらされた世界遺産の救済に使われるべき世界遺産基金のほとんどが新規登録案件の調査費にまわされている。今や、世界遺産条約そのものが危機に瀕している。
 本書では、特に世界自然遺産に重点をおいて、第1章で世界遺産条約、第2章で生物多様性条約がどのようにして生まれ発展してきたのかを説明し、第3章で世界遺産リスト、第4章で危機遺産リストをはじめとする様々なしくみが生物多様性保全に果たす役割を評価した。そのうえで、第5章では、採択から40周年を迎えた世界遺産条約の現代的な課題とそれに対する提言をした。
 このような条約の危機的状況を直視し、いかにして世界遺産条約を自然環境の保全と人類の平和に貢献できるものにするかを議論すべきであろう。

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目次

序章  世界遺産条約と生物多様性保全
第1章 世界遺産条約
1-1 世界遺産条約の概要
1-2 世界遺産条約の歴史
1-3 日本における世界遺産条約
1-4 世界遺産条約による自然遺産の保護と管理
第2章 生物多様性条約
2-1 生物多様性とは
2-2 生物多様性条約
2-3 生物多様性条約の成立過程
2-4 生物多様性条約と保護地域プログラム
第3章 世界遺産リストから見た生物多様性保全
3-1 自然遺産のクライテリアから見た自然遺産・複合遺産
3-2 自然遺産のタイプから見た世界の自然遺産・複合遺産
3-3 日本の自然遺産
第4章 世界遺産条約と生物多様性の保全
4-1 世界遺産リストの代表性と信頼性
4-2 セイフティーネットとしての危機遺産リスト
4-3 開発からの保護とバッファーゾーン
4-4 国境を超えた保護地域と世界自然遺産
4-5 世界遺産条約と生物多様性保全
第5章 世界遺産条約採択40周年を迎えて
5-1 世界遺産リストと国内遺産リスト
5-2 危機遺産リストと国際協力・予防措置
5-3 世界遺産をフラッグシップとした保護地域のネットワーク化
5-4 世界遺産条約に対する持続可能な資金
5-5 世界遺産条約に対する若者の参加
5-6 世界遺産条約における「普遍性」と「多様性」の矛盾
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