教員著作紹介コメント(礒田 正美先生)

礒田 正美先生(教育開発国際協力研究センター)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2011/5/24)

【本の情報】
『数学教育学研究ハンドブック』日本数学教育学会編.東洋館出版社 , 2010.12【分類375.41-N77】

【コメント】
 本書は、数学教育学の研究をはじめる際の視座を提供する目的で、既存の学術論文を整理した数学教育学研究のハンドブックである。本書を編纂した日本数学教育学会は、東京高等師範学校における研究会を基盤に1919年に日本中等数学教育会として発足した。教科教育学は、新興領域と考えられることもあるが、数学教育の場合、国際組織は1908年に発足し、学会組織の歴史は日本教育学会より古い。もっとも、世界的な潮流において、1950年代から数学教育関連諸学会が次々と組織され、学術誌が増加したのも確かな事実である。本書は、それら学術誌に掲載された論文を整理し、研究成果を整理する目的でf編纂された。執筆は、3000名の会員の中から選ばれた研究者49名による。筆者自身は「学際的研究」を分担した。学際性は、筑波大学の創設期に、東京教育大学から移転する時代に注目された話題であり、古い意味での筑波大学建学に通じる主題である。戦前・戦後のの教科教育学黎明期には、教科教育学は教科と教育学の学際領域に位置するという見方もなされた。学際領域はその創設時には学際的であったとしても、その領域が研究領域として自律すればその特質は失われる。1970年代以降、数学教育学は、数学、哲学、教育学、心理学、文化人類学など関連書領域の研究成果を積極的に活用し成立してきた。数学教育学として研究成果が蓄積すると、もとの研究領域の文献を参照せずとも論文が書かれるようになり、参照元の関連書領域からみれば異質な議論も誕生する。もとの研究領域からみればそれは方言のように聞こえる場合がある。しかし、数学教育学においては、それがむしろ母語であるとも言える。筆者自身の分担執筆目的は、関連書領域との相違という関心から、数学教育学に固有な方言の存在を指摘し、逆に、それを母語とする数学教育学の成立を確認することにある。その執筆の際のデータとなったのが、既存の学術論文である。もとより研究者及び院生向けに執筆されているが、学類生が数学教育学を志す際の、よい参考図書でもある。是非、手にしていただければ幸いである。