教員著作紹介コメント(安梅 勅江先生)

『共創ウェルビーイング:みんなでつむぐ幸せのエンパワメント科学
 Co-Creative Wellbeing for Empowering A World of Possibilities』

安梅勅江 著

日本評論社 生存科学叢書, 2024【分類 369-A49】

【コメント】

 このたび生存科学叢書として「共創ウェルビーイング:みんなでつむぐ幸せのエンパワメント科学」を上梓させていただきました。

 ウェルビーイングは安寧、幸福、健康、福祉などと訳され、長い間、個人の幸福として論じられてきました。しかし人はひとりでは決してウェルビーイングを実現し維持することはできません。人は誰かと共に、そして環境と共に在ることで初めてウェルビーイングを達成できるのです。まさに人間の生存は、他者や環境と共に存在する共創的なウェルビーイングによって支えられています。

 私たちは、さまざまな人びとが共に生きる幸せを目指す共創ウェルビーイングCo-Creative Wellbeingに注目しています。共創ウェルビーイングは、自分、他者、環境に思いを寄せる、大切にするケアCareと、互いの違いを楽しみつつ共によりよい未来を築くクリエーションCreationに基づくウェルビーイングです。

 ケアCareは世話、配慮、心配り、気配り、思いやり、手入れなどと使われますが、本来は人にとどまらず、自然を含むすべての対象に心を動かすこと、心を砕くことを意味します。ラテン語の cura を語源とし、心を対象に向けて動かすこと、思いやり、献身、心配、思い煩うなどの意味で用いられていました。

 一方でケアは、進化の原動力の一つです。生きとし生けるものは次世代を何らかの形でケアすることで存続し、また環境をケアすることで生存を可能にしてきました。

 つまりケアにより、未来の進化可能性evolvabilityが拓かれるのです。同種間のケアにとどまらず、異種間、さらには環境を含めた生態学的なケアにより、はじめて地球環境を維持できることは多くの科学的な根拠が明らかにしています。共創ウェルビーイングは、自分、他者、環境に心を寄せるケアにもとづき、持続的な未来を実現する取り組みでもあるのです。


 本書では、この新しいウェルビーイングを深堀りし、これからの時代において共に生存する幸福や繁栄をより包括的に理解するためのアプローチを模索しています。

 変化の激しい不確実な時代、共創ウェルビーイングは一人ひとりが輝き、さまざまな人びとが手を取り合い、共に築き上げる喜びをつむぐ革新的なアプローチです。一人ひとりの力の発揮に加え、異なる背景や知恵を持つ人びとが協力し合い、共に成長することで、より強力で持続可能なウェルビーイングを描きます。

 さまざまな人びとが共に生きる幸せ─それが共創ウェルビーイングの真髄です。共に生きる喜びと組織や社会の多様性を一丸となって楽しむことにより、新しい幸せを作り出すA World of Possibilitiesへの道筋をエンパワメントすることを目指しています。誰一人取り残さない、国連の持続可能な開発目標SDGsの理念にも通じるアプローチです。

 共創ウェルビーイングは、一人ひとりの可能性を最大限に引き出しつつ、集合知や共同作業により、新たな次元の幸福を築き上げるアプローチです。皆で共に幸せを作り上げる活動が、より多くの人びとに広がることを意図しています。たとえば、住民や利用者、専門職や事業者が共同でプロジェクトを進め、地域や組織全体のつながりを深めることで、新たな活力を生み出すことができます。このアプローチは、人びとが持つ知恵や経験を活かし、ともに学び合うことを重視しています。人びとがともに活動することで育まれた新たなアイディアや共感が、幸せの輪を広げ、持続可能な社会を実現します。

 共創ウェルビーイングは、さまざまな分野で効果を発揮します。企業や組織においては、組織文化やチームワークの向上に貢献します。たとえば、チームが共創ウェルビーイングの理念を取り入れ、コミットメントを高めるとともに能力や関心を活かすことで、生産性の向上やメンバーの満足度の向上が期待できます。

 また教育においては、共創ウェルビーイングの原則を組込むことで、学生たちの学習環境や自己成長にポジティブな影響を与えます。たとえば、教育者が学生たちと協力してプロジェクトを進める参画型の学習促進などがあげられます。


 本書の構成は下記の通りです。

 第1章では、ウェルビーイングの新たな側面として、共創ウェルビーイングの理念と原則、共創ウェルビーイングに向けたエンパワメント科学の効果的な活用法を示しました。第2章では共創するためのスキル、第3章では共創するためのコミュニティづくりについて、わかりやすいコツとともに整理しました。

 第4章から第7章では、私たちの40年に及ぶ研究成果の実装である4つの魅力的な事例を通して、共創ウェルビーイングの具体的な方法を概説しました。継続的な発展と持続可能性に焦点を当て、成功した共創プロジェクトの分析や、エンパワメント科学を用いた実践的な手法を示しながら、未来への展望を探りました。

 「おわりに」では、みんなで築く幸せな未来へのエッセンスについて論じました。


 共創ウェルビーイングは、さまざまな人びと、文化、環境と交わることが第一歩です。これまでの自分の世界にとどまらず、まずは一歩、境界線を越える必要があります。新しい世界は境界の先にあります。人びとに加え、自然の中にこそ様々なヒントがあります。自然の知は汲めども尽きぬ泉です。その泉から湧き出る知を汲みだすことが共創ウェルビーイングに求められます。

 共創ウェルビーイングは、人びとが協力し一緒に創り上げる新しい幸せの形です。本著が人びとや組織、地域がさらに輝き、一人ひとりが誇りを持ちながら未来に向かい共に歩む共創ウェルビーイング世界への扉を開く一助となることを願っています。


(筑波大学医学医療系 安梅勅江)