教員著作紹介コメント(大石 和彦先生)

『アメリカ憲法の群像 裁判官編』書影

アメリカ憲法の群像, 裁判官編

山本龍彦, 大林啓吾編

東京 : 尚学社, 2020.6【分類 323.53-Y31 】

【コメント】

 少なくとも私が憲法の研究を始めた1990年当時の東北大学大学院法学研究科では、法学の研究者を目指すものは誰でも、まずは欧米諸国のうち少なくとも1か国の原語文献を読みこなせなければならないと考えられており、そのため当時私が最初に取り組んだのが、妊娠中絶の自由を合衆国最高裁としてはじめて認めた1973年の判例、Roe v. Wade(英米の判例は、一審だったら原告対被告という形で、最高裁判例の場合はこのように上告人対被上告人という形で表記します。)でした。Roe判決は、今年の同裁判所の判決により判例変更されたため、国際ニュースを通じて日本のお茶の間でも、ちょっとは有名になったかもしれません。私が上掲書で執筆したのは、このRoe v. Wade判決を執筆したブラックマン裁判官についてです。憲法問題というと、まずは9条を思い出す多くの日本国民とって、妊娠中絶の是非が国論を2分する代表的な憲法問題だというのは、ちょっと意外かもしれませんが、「価値観を共有するパートナー」とされる日米の社会の間に実は存在している大きな違い、そして日本とは異なる社会の実情を知ることが、日本社会の特殊性を実は逆照射することにもなるということを実感いただきたい、というのが、執筆者としての私の願いです。

(ビジネスサイエンス系 大石 和彦)