教員著作紹介コメント(小川美登里先生)

【本の情報】

ル・アーヴルから長崎へ

パスカル・キニャール, 小川美登里著

東京 : 水声社, 2021.9【分類 954.9-Q6】

【コメント】

みなさんはパスカル・キニャールという作家をご存知だろうか。

フランス国内で最高の文学賞であるゴンクール賞に2002年に輝き、今もっとも脂の乗った現代作家である。古代ギリシア、ラテンなど西洋古典に造詣が深く、優れた音楽家であり、さらに世界各地の民話や物語の蒐集家でもある作家は、2018年に四度目の来日を果たし、東京と長崎、五島を訪れた。
もうひとりの著者である小川美登里は、本学でフランス文学を専門とする研究者で、キニャール作品の翻訳者でもある。

本書は二人がともに訪れたル・アーヴル(フランス・ノルマンディー地方の一都市で、ナチス軍からパリを解放するために行われたノルマンディー作戦では戦場となった。キニャールは廃墟と化したこの街で幼年期を過ごした)、東京、長崎、五島という四つの場所を通して、歴史、文化、文学、そして死者たちへの想いを綴った作品である。二人の書き手がひとつの声に溶け込むのでなく、あくまでもそれぞれの視点に立って、互いの声に耳を傾けながら作られたユニークな作品である。旅好き、文学好き、歴史好きの方にぜひ手に取ってもらいたい。

小川美登里