青柳悦子　先生（人文社会系　文芸・言語専攻）よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】

『バンド・デシネ客』
　　ジャック・フェランデズ作・絵 ; アルベール・カミュ原作 ; 青柳悦子訳
    　[東京] : 彩流社, 2018.6  【分類726.1-C14】

【コメント】

アルジェリアに生まれたフランスの作家アルベール・カミュの後期の短編「客」
（1957年発表）のマンガ版です。見渡す限り石の世界が広がる原野のなかで、ヨー
ロッパ人教師とアラブ人「原住民」との1対1の緊迫した出会いが展開します。原作で
は言葉で説明されていた物語が、このバンド・デシネ版では極端に文字を控え、まさ
に無言劇のようにして提示されています。私たちがふつう想像することもできない半
砂漠地帯の高原の情景や、そこに降る一面の雪、植民地支配体制下の辺境の小学校、
馬に乗ってやって来る憲兵やひもでつながれたアラブ人の「囚人」、電気も水道もな
い学校の宿舎の生活、そして荒野を徒歩で越えていく二人の姿などは、視覚的な衝撃
に満ちています。この翻案作品はビジュアル化の力によって、この無言の世界を描く
ことを通してカミュが何を問いかけようとしていたのかを、私たちに迫ってきます。
「他者との出会いと共存」というまさに今日的な問題を、この作品のリアルでかつ超
越的な舞台背景をじっくり眺めながら、ぜひあなたも考えてみて下さい。同じ描き手
によるカミュもの『バンド・デシネ異邦人』と『バンド・デシネ最初の人間』もぜひ
どうぞ。