教員著作紹介コメント(青柳 悦子 先生)

青柳悦子 先生(人文社会系 文芸・言語専攻)よりご著書の紹介コメントをいただきました。


【本の情報】

『見えない流れ』
  エムナ・ベルハージ・ヤヒヤ著 ; 青柳悦子訳
  東京 : 彩流社, 2011.9 【分類953.9-B33】


【コメント】

チュニジアの現代女性作家による小説です。チュニジアは地中海の南岸、イタリアの
向かいにある国で、紀元前の時代には商業国家カルタゴ王国の中心地でもありまし
た。この小説では、勤務医の兄ヤーシーンと「ばつイチ」で気の強い妹アーイダの二
人を主人公に据え、周囲のさまざまな人々のあり方をとりこみながら、モザイクのよ
うに、チュニジア現代社会をその歴史的な背景とともに浮かび上がらせていきます。
多元文化社会ってこういうことなのか、と教えてくれる作品です。作者ベルハージ・
ヤヒヤの筆致は柔軟でかつ哲学的。繊細な感性にあふれた表現がとびきり素敵です
し、斬新な視点による斬り込みに驚かされることも多いでしょう。住民のほとんどが
イスラーム教徒の北アフリカの国など、みなさんにとっては遠い遠い世界だと思われ
がちでしょうが、小説を通して人々の日常に触れてみれば、同時代の世界市民として
一緒に考えていくべき問題や共感する事柄がたくさん見つかるはずです。同じ作家の
『青の魔法』もどうぞ。