教員著作紹介コメント(青柳 悦子 先生)

青柳悦子 先生(人文社会系 文芸・言語専攻)よりご著書の紹介コメントをいただきました。


【本の情報】

『青の魔法』
  エムナ・ベルハージ・ヤヒヤ著 ; 青柳悦子訳

  東京 : 彩流社, 2015.11  【分類953.7-B33】


【コメント】

チュニジア在住の女性作家による、二人の若者を主人公にした、ライトノベル風の清
新な小説です。大学の薬学部を卒業したものの精神的に行き詰ってモラトリアムをし
ている20代の女性(「私」)による語りの章と、田舎からようやく首都の大学に入っ
たものの落ちこぼれてしまう青年(ヤルフェル)を中心とする章とが、交替するかた
ちで展開されていきます。チュニジアは2010年12月からのいわゆる「ジャスミン革
命」で長期政権の大統領を追い出し、その後市民の対話によって国家の再建設を模索
してきた、「アラブの春」唯一の成功例とも言われる国です(2015年度のノーベル平
和賞が「チュニジア国民対話カルテット」に贈られました)。この作品が描くのはそ
れよりも前の時期ですが、一人一人は無力な若い人たちが自分たちで未来を切り拓い
ていこうとする姿が、まるでその後の社会変革を予告しているかのようです。日本人
の私たちが読んでも日々の切ない「あるある」が詰まっていながら、最終的には希望
に満ちた愛らしい作品です。同じ作家の『見えない流れ』もどうぞ。