教員著作紹介コメント(木越 英夫先生)

海洋天然物化学

木越英夫編著 ; 日本化学会編

東京 : 共立出版, 2023.8  【分類 439-Ki16】

【コメント】

 自然界における様々な生命現象には,天然有機化合物が関与している.そのため,有機化学が,生命現象を理解するための基礎科学として,重要な役割を担ってきた.そして今日,天然有機化合物の単離,構造決定と機能解析を行うとともに,それらの化学合成や高活性類縁体開発などを行う,有機化学を核とした生物有機化学,生物化学,ケミカルバイオロジーなどの幅広い学問分野として,「天然物化学」がある.  

 初期の天然物化学においては,植物、カビなど人間の活動範囲に近い陸上生物がおもな研究対象となっており,鎮痛剤モルヒネ(植物ケシ)、抗生物質ペニシリン(アオカビ、1945年ノーベル医学・生理学賞),抗生物質アベルメクチン(土壌菌、2015年ノーベル医学・生理学賞)など,人類の福祉に大いに貢献した天然有機化合物が発見されている.  

 陸上生物の天然物化学研究からは大きく遅れたが,今では海洋生物由来の天然有機化合物の研究が活発に行われている.海洋生物は,その生育環境が陸上生物のものと著しく異なっているためか,陸上生物が生産する天然有機化合物とは大きく異なった構造と生物活性を有する「海洋天然物」が多く発見されており,関連分野からも注目されている.例えば,オワンクラゲから発見された緑色蛍光タンパク質(GFP)は,生物学・医学研究を著しく発展させた例である(2008年ノーベル化学賞).本書では,海洋天然物の中から,化学構造,生物活性,食品化学,天然毒などの観点から特徴ある化合物を取り上げた.

 

(数理物質系 木越 英夫)