教員著作紹介コメント(小川 美登里先生)

小川 美登里先生(人文社会系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2018/06/07)

【本の情報】
『落馬する人々』  パスカル・キニャール著 ; 小川美登里訳.水声社 , 2018.5【分類954.9-Q6】

【コメント】
著者のパスカル・キニャールは1948年生まれのフランス人作家。本書『落馬する人々』は、彼の晩年のライフワークである連作「最後の王国」の第7巻として2012年に上梓されたました。この奇妙なタイトルに興味を惹かれた人は、一度この書物を手に取ってください。小説やエッセイ、批評など様々なジャンルで活躍し続ける作家が到達した、「伝記とフィクションと哲学的思索があたかもたったひとつの身体であるかのような」表現様式の中で、あなた自身の先入観が溶解していくような体験が待っているはずですから。作家キニャールは古今東西の物語や人文学書の読書体験、つまり「今ここ」をいっとき離れて、別の時代に生きた人々の経験を通じて、「今ここ」に在る自分とは何かを再考し、それを作品という形で提示しています。本書で、作家は「落馬した人々」(現代においては人馬一体ではなくなってしまったのですが)の経験に思いを馳せています。作家モンテーニュやアグリッパ・ドービニエ、詩人ペトラルカ、哲学者アベラールやルソー、ニーチェ・・彼らは皆、落馬がきっかけで人生を新しく生き直すことを余儀なくされました。ですが、キニャールにとってそれは「つまづき」である以上に「チャンス」だったのです。人間にとって、誕生そのものがひとつの落馬体験であると説くキニャールと一緒に、新たな生を見出す可能性を探ってみてはいかがでしょうか。