教員著作紹介コメント(大類 久恵先生)

大類 久恵先生(非常勤講師)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2010/08/11)

【本の情報】
『アメリカの中のイスラーム』  大類久恵著.子どもの未来社 , 2006.3【分類316.853-O71】

【コメント】
アメリカにおけるイスラームは、その起源を植民地時代にまで遡りますが、「アメリカ的でない」宗教・文化と見なされてきたため、多くを語られてきませんでした。しかし、2001年9月11日にアメリカを襲った同時多発テロがひとつのきっかけになって、アメリカ人はもとより、アメリカ以外の地に住む私たち地球市民もまた、アメリカの中のイスラームと真剣に向き合う必要に迫られていると言えます。本書は、こうした状況を踏まえて、アメリカの、いわば「内なる他者」であるイスラームを、アメリカ史の中に位置づける試みです。

本書は以下の五章から構成されています。第一章では、9・11直後の2001年と2004年におこなわれた「アメリカのムスリム世論調査」をもとに、現代アメリカ社会におけけるムスリム像を浮き彫りにします。第二章では、イスラームがムスリム移民によってアメリカにもたらされた歴史を概観し、ムスリム移民のアメリカへの移住を、イスラームの最西方への伝播として位置づけます。第三章では、20世紀のアメリカにおいてイスラームへの改宗者(大多数が黒人)が多数現れたことに注目し、これをイスラームのアメリカでの定着ととらえます。イスラームのアメリカ的な展開とも言える「黒人イスラーム運動」のなかでも、最大規模の運動に成長した「ネイション・オブ・イスラーム(NOI)」の発展過程を第二次世界大戦後までたどります。第四章では、黒人指導者マルコムXとイスラームとの関係をとりあげます。最晩年のマルコムXが、黒人イスラームをスンナ派イスラームに統合しようとしていたことを指摘します。第五章では、NOIを継承したウォレス・モハンメドの指導下で、黒人イスラームがスンナ派イスラームに歩みよりつつある過程をたどり、21世紀現在におけるアメリカのイスラームという第一章のテーマへと立ち返ります。

9・11以降、突如として注目を集めるようになったアメリカのイスラームが、アメリカ史のなかでひそやかに息づいてきた足跡をたどることによって、大多数の日本人がいだいてきたアメリカ像に、あらたな奥行きが加えられることを願っています。