青柳悦子　先生（人文社会系　文芸・言語専攻）よりご著書の紹介コメントをいただきました。

 『バンド・デシネ最初の人間』
　　ジャック・フェランデズ作・絵 ; アルベール・カミュ原作 ; 青柳悦子訳
　　東京 : 彩流社, 2019.6 【分類726.1-C14】

【コメント】

フランスの漫画家ジャック・フェランデズによる、アルベール・カミュ文学の翻案の
第3弾。このバンド・デシネ版には、ほかの文学作品翻案とは異なる格別の価値があ
ります。というのも原作は、カミュが交通事故で急死したために残された未完の小説
で、書きかけだった原稿は未整理の部分も多く、実に読みにくいものだったからです
（日本語訳ではなおさらでした！）。カミュの構想からすると全体の4分の１にも満
たないと思われるこの遺作小説を、フェランデスは関連資料も駆使しながら見事に再
構成し、1つの完結した作品として仕上げました。そのおかげで、アルジェでの貧困
と太陽のなかでの子供時代、若くして戦死した父の足跡の探索、言葉が不自由な母と
の屈折した愛情関係、植民者側に生まれ落ちた者としての葛藤、今まさに葬られよう
としている植民者の歴史、名もなく記憶もなく生きて死んでいくことへの人間として
の自負など、カミュが最後に提示しようとした諸テーマが、実に生き生きと読者のも
とに差し出されたのです。カミュ文学を考える際の必須参照文献でもあれば、美しい
水彩画を通じて時空間の旅が楽しめる愛すべき美麗本でもあります。