合衆国有名の禽学者奥度棒(あうどをぼん)ある時
旅行しけるに多年思慮を殫(つく)して摸写(うつし)せる
粉本(たねほん)を箱に入親戚に托し置き数月にして
家に帰り箱を開き見れば鼠其内に巣
くひ画図は悉く囓れて砕片となれり
奥度棒(あうとをほん)は是を見て大に心を傷ましめ
数日の間恍惚(さとほくるる)として失念せる者の如し
既にして又旧の如く小銃を手にし記簿(てちやう)鉛筆(せきひつ)を
携へ林に入て禽鳥を捕へ其形状を摸写(ゑがき)せしが三年に
至らずして画又箱に満ち摸写(うつし)も前時より更に好きを覚えしとそ