教員著作紹介コメント(金野秀敏先生)

金野秀敏先生(システム情報工学研究科リスク工学専攻)より、ご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『確率論的リスク解析の数理と方法(リスク工学シリーズ:6)』金野秀敏著.コロナ社 , 2010.10【分類509.6-Ko75】

【コメント】
この本は確率論的リスク解析の概論を学んだ読者がさらにすすんで、定量的なリスク解析を実行するための数理的な方法を読者に提供するために書かれた。 

従来の確率論的リスク解析の標準的な教科書には、確率過程としてポアソン過程のみが紹介されていることが多い。しかし、現実のデータを眺めると、ポアソン過程で記述される典型例はむしろ少ないことがわかる。「大きな地震の発生後に余震の発生率が時間とともに低くなってゆくこと」、「株や為替の取引数や価格変動が休日明けと週末では異なること」などを考えてもわかるように事象の発生率が時間変化する非定常ポアソン過程となっている場合が多いのである。また、「インフルエンザの患者数の発生頻度が罹患者の個体数と発生からの時間の両方に依存すること」や、「混雑しているインターネットサイトではアクセスしている人の数や時間帯によってアクセス頻度が変化すること」から一般化ポリア過程などで記述すべき状況が数多く存在することにも気がつく。

本書では、積極的にこのような非定常性や記憶効果のある場合の解析法を紹介して現代的なリスク解析と今後の方向性を示す試みをしている。また、数理科学的なアプローチを用いて統計科学の解析に物理的な中身を入れるべく、非線形確率過程も盛り込んでいる。日本の人口の超長期的記述や超長期予測を考えてみても、定数係数のモデルではなく、変数係数のモデルを使って環境変動の経年(時)変化を取り入れることが必要不可欠である。

リスク評価を損失余命や絶滅確率を使って定量評価することが日常的に行われるようになってきたが、これらの定量評価の基礎となるのは生成・死滅過程である。今後の展開を予想して、これらの数学的な基礎も記載してある。 さらに、従来、確率変数の独立性を前提とした議論が数多くなされてきているが、変数間に従属性が存在することが多いので、従属解析の試みが数多く検討されるようになってきている。このような事象を数理的に明確に扱うために「多変量の非正規分布」や「裾の厚い非正規分布」をはじめ、「コピュラ」などの裾従属性を明瞭に取り扱える数学的な道具が必要になる。

この本がリスク解析を志す若い方の理解を助け、リスク解析の今後の発展に少しでも寄与することを期待する。

掲載ページ:筑波大学教員著作の紹介(2010年度)


Comments are closed.