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カナダにみるIT革命と図書館

植松 貞夫

 昨年の6月にカナダの図書館を見学する機会を得た.80,000市と北米最大の床面積を誇るトロント大学中央図書館,39,000nrのトロント市立中央図書館の巨大さに圧倒されたり,バベルの塔を思わせるバンクーバー市立中央図書館に驚かされたりと刺激に富んだツアーであった.
 これら巨大図書館の他に,印象深かったのは館の種類と規模を問わずインターネットを積極的に利用者に提供していることであった.例えば,蔵書45,000点,床面積わずか1,000市余りのりツチモンド市の分館にあっても,まずOPAC端末が入口近くに5台,開架書架の側面に2台など計8台,インターネット接続パソコンは,入口の近くOPAC群に隣接して8台,館内最奥の静かな読書スペースに8台,そして児童スペースにも専用で5台(しかも大きなマウスで子どもにも操作しやすい),暖炉のあるラウンジに10台,そして極め付きは‘‘ComputerTraining Cen‐tr〆と名付けられた部屋で,ここではしばしばパソコン教室が開催され,それ以外の時は自由な利用に供されるのだが,ここに20台と,全館で59台も提供されているのである.しかもそれらがすべて利用者を誘い込むべくメインの通路に沿って配置されているのである.さらに壁で仕切られた読書室の28の座席にはすべて情報コンセントが装備され,利用者が持ち込んだノート型パソコンを接続することができる.
 インターネットの利用料金はどの館でも無料である.多くの場合1時間以内など時間制限が表示されているが,待っている人がいなければ続けて使用できる.メールは受発信できる館もあったが(tNO Chaで'と大きく表示されている館が多く,インターネットは基本的に情報取得のための手段として位置づけられている.利用にとまどう人に個人的に指導している職員はいるが,どのようなサイトにアクセスしているかを監視してはいない.
 このように,インターネットへの傾斜を急ぐ様は大げさに言えば,強迫観念に駆られているように思えるほどである.傾斜を急ぐ理由の第一には,インターネットに積極的に取り組むことで,米国に負けない量の情報を発信し,カナダの社会と文化のアイデンティティを保持しようとする政策,またIT立国として21世紀におけるカナダの生き残りをかけた国家の政策がある.第二に,カナダは面積が日本の27倍,人口は4分の1の3千万人しかも米国との国境沿いの南部に集中しているため,きわめて居住密度の低い地域が一般的である.こうした地域の人々は教育や医療という生活の基本的な部分から雇用機会や娯楽に至る情報取得によって,疎外感や不平等感を抱いていると指摘されている.そのため,インターネットで全国民をつなげ「機会均等原則」を保証することが連邦政府の方針として掲げられている.第三に,同様の背景から,インターネットを介してメールやチャットでいつでも他人と話ができる環境を確保することが,居住密度の低い国民の孤立感や不安感を解消する上で有効と考えられているといえる。自宅にパソコンを持てない人にとって,図書館内でインターネットが使えメールを受発信できることは,重要なコミュニケーション手段が確保されることであり,精神的な癒しの効用をもつと考えられる.
 つまり,広大な地域に散在している住民の孤立感を癒し,しかも連邦や州の政府が過大なコストをかけずに生活の基本的サービスの情報を均等に提供する上で,インターネットが極めて有効な手段と認識されていることが,かくも通信技術への投資に熱心な理由といえよう.
附属図書館長
Inforamtion Technology and Public Libraries in Canada, by Sadao UEMATSU