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雉も鳴かずば

歳森 敦

 「突然お手紙を差し上げる無礼をお許しください云々」というのは大抵の文例集に載っているが,突然手紙を送りつける無礼を商売のタネにしている人たちは多い。娘が産まれて翌年の雛祭りには雛人形のカタログが何通も舞い込んだ。番地まで明記したやけに詳しい住所で届いたから,たぶん住民票を閲覧して名簿屋に売った人がいたのだろう。この手の広告のうち名簿の出所を明らかにしていないものは無条件にゴミ箱に直行させることにしている。
 いわゆる「投げ込み」のちらしも多い。地域密着型の商売なら郵便よりコストがかからないのかもしれない。ポルノビデオ販売のちらしが何度か郵便受けに投げ込まれ,自治会が「迷惑ちらしお断り」というステッカーを各戸に配ったことがある。その後,ビデオのちらしは減ったような気がするが,これがステッカーの効果か,東京で逮捕者が出たからかはわからない。もちろん逮捕といっても,ちらしを投げ込むことが犯罪だったのではなく,不法にマンションの玄関内に立ち入ったことが容疑だったはずだ。
 電子メールでも「ダイレクトメール」を受け取ることが増えてきた。電子メールで受け取る「ダイレクトメール」の特徴は,非営利自己主張型と名付ければ良いのだろうか,何か訴えたいメッセージを無差別に送りつけるというパターンがあることだろう。送り主の範囲が広がったわけだが,受け取る側としては迷惑なことに変わりはない。郵便などと違って,電子メールを送信するために送信する人が払うコストは送信先の数に比例しないので,やろうと思えば膨大な数の相手にメールを送ることができるという話を聞いたことがある。良く言えば,コスト面での電子メールの特性が,利用の可能性を広げたということになるのだろうか。エンドユーザの立場で考えれば,そうしたメールが増えてくれば,ごみメールの中に必要なメールが埋もれてしまうことになりかねず,素朴な自己防衛の手段としては,自分のメールアドレスを「困った人たち」に知られないよう努力するしかない。
 ところが,自分で登録した覚えがなくてもhttp://people.yahoo.com/なんかでToshimoriを(lastnameでなく)first nameに入力して検索すると,しっかり自分の名前とメールアドレスがでてくる。ソースは数年前に投稿したネットニュースだろう(もう手遅れってことかい?)。どのニュースグループに投稿したかで関心の範囲がわかるから良い情報源になるだろうな,などと考えるとちょっと怖い。ネットニュースにしてもW府内柳こしても,不特定多数の人が読むことを前提とするメディアなので,こうした場で「情報発信」することと,「再利用」は不可分のものと覚悟するしかないのだろう。
 おまけに,自分でいくら努力しても内部情報の流用は防ぎようがない。総合情報処理センターの利用登録をした人なら,センターの利用者一覧を容易に獲得できる。今年の一年生が電子メールの使い方を教わって最初にメールを受信したら,全員にサークルの勧誘などの「ダイレクトメール」が数通届いていたらしい。これなどは「困った人たち」が身内にいたという笑えない話。そのうち,利用者一覧をWWWで公開したり,名簿屋に売り飛ばしたりする人が出てくるかもしれない。雑も鳴かずば撃たれまいとは言うが,鳴かずに隠れているのは至難である。


本学助手
The pheasant would not caught but forits cries,by Atsushi TOSHIMORI