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茶会

横山 幹子


 六月の末に,友人と「水無月茶会」を催しました.
 普通茶会と呼ばれるものには,少なくとも二種類あります.「茶事」と「おおよせの茶会」です.茶事は,季節や趣旨で順番は異なりますが,懐石・濃茶・薄茶を,数名のお客様に供するものです.いろいろな考えがあると思いますが,私個人としては,茶事の重要な目的は,自分が心入れをして取り合わせた道具を肴に,お客様においしい茶を飲んでいただき,主客ともに楽しい時間を過ごすことだと思っています.茶を媒介として楽しい時間を過ごすという点では同じですが,おおよせの茶会と呼ばれるものは,少し趣が違ってきます.大抵,どこか茶席を借り,茶券をつくって売り,一日で,濃茶であれ薄茶であれ,茶を十回ぐらい点てます.そして,それぞれの回は,総入れ替え制になります.いわば茶事の一部分を繰り返すわけです.
 私たちの水無月茶会は,おおよせの茶会でした.茶事が大変なのは言うまでもないことですが,おおよせの茶会の場合も様々な準備が必要となります.
 まず,日時と場所を決めなくてはなりません.日時を優先するか場所を優先するかはその時々で違ってきますが,いずれにせよ,どこか茶席を借りなければなりません.賃料が高いところもあれば,安いところもあります.また,格もさまざまです.もちろん,水屋の使い勝手の善し悪しもあります.そして,難しいのは,格が高いから賃料が高いとか,賃料が高いから使い勝手がいいとは言えないところです.茶会の趣旨や予算,当日の茶道具にふさわしい茶席を選ばなければなりません.また,人気のある茶席は,申し込みが殺到し,予約するのも簡単ではありません.今回はどこの茶席を使いたいということが決まっていましたので,いくつかの日時の候補をだして,茶席が予約できる日を茶会の日にしました.
 日時と場所が決まれば,次は茶券です.茶席の賃料・抹茶・菓子・消耗品等必要なものは,茶券の収入でまかなわなければなりません.それらを考慮して茶券の値段を決め,茶券をつくります.
 次にすべきことは,茶券を売ることです.私たちの場合,収入と支出がとんとんになるよう計画するのですが,茶券が売れないと赤字になってしまいます.茶券を売ることはとても大切になるわけです.
 茶券を売ることと平行して,当日の道具組を決めます.お金を払って来ていただくのですから,お客様には,茶券代を払った価値があると思ってもらわなければなりません.そう考えると,茶碗一つとってもなかなか決まらないものです.  さて,準備が整い当日となるわけですが,当日も大変です.まず,当日必要な道具を借りた茶席まで運ばなくてはなりません.万一足りないものがあっては大変ですから,リストをつくり,荷作りします.
 当日,茶席に着いたら,道具を開き,水屋と本席の準備をします.朝の短い時間にすべてするのですから大変です.私は,いつも,準備が整い茶会が始まったときはもう終わったような気分になります.
 そして,茶会が終わると後片づけです.道具を終い,現状をもとに戻して引き上げなければなりません.また,帰宅後も,道具の始末や収支の計算などが待っています.そして,その収支は,われわれの場合は,大抵赤字になってしまいます.  以上のように,おおよせの茶会一つ催すにも大変な準備がいります.そして,茶会が終わった後は,「ああ,疲れた.もうしない」と思います.けれども不思議なもので,またしばらくすると,茶会の予定を立てていたりします.誰かが,「結婚式と同じよね」と豪気なことを言っていました.


The Tea Ceremony, by Mikiko YOKOYAMA
本学助手