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Grand Cha11enges and Nationa1 Cha11enges

長谷川秀彦

 情報処理ではK(ki1o=103)、M(mega=106)、G(giga=109)、T(tera=1012)、P(peta=1015)といった補助単位が使われており、フロッピーディスク1枚の記憶容量は約1.44MB、パソコンの内蔵ディスク容量は数GBというように使う。同様に単体でいちばん高性能なコンピュータの演算速度はおよそ8GFLOPS(8×109 F1oating-point operations per second)で、これは1秒間に80億回の浮動小数演算が実行できることを意味する。1演算は1.25×10-10秒で実行され、この問に光や電子はたったの37mmしか進めない。したがって、これ以上の性能を達成するには回路の長さを37mm以下にしないといけない。
 このように現在のコンピュータの演算速度は光速の限界に近づいているが、このようなコンピュータをもってしても演算速度や記憶容量が不足する分野は少なくなく、その代表格がGrand Challengesである。GrandCha11engesは白然科学と工学における基本的な問題で、これが解かれることによって科学的にも経済的にも大きな影響を与える。問題はG1obal Change(気候)、Human Genome(遺伝子)、F1uid Turbulence(乱流)、Vehic1e Dynamics(乗物)、Ocean Circulation(海洋)、Viscous F1uid Dynamics(流体)、Superconductor Model1ing(超伝導)、Quantum Mode11ing(素粒子)、Vision(視覚)などがある。これらの多くはコンピュータ・シミュレーションが適用されているが、現時点ではこれらを許容できる精度と時間で解くことはできない。また、必要とされる主記憶容量は1TB、演算速度は1TFLOPSと推定されている。このあたりは図書館情報学の研究テーマとは縁遠いようだ。
 アメリカではGrandCha11engesのような研究を推進するため、数年前からHPCC(High Performance Computing and Communications)というプロジェクト(と機関)に膨大な予算が費やされている(詳しくはhttp://www.hpcc.gov/を参照)。はじめHPCCプロジェクトでは、コンピュータを飛躍的に高性能化するため複数のコンピュータを1台にまとめあげた並列コンピュータと、それらを結合する高速ネットワークなどの研究に重点がおかれ、これと関連して並列処理ソフトウェアや並列処理アルゴリズムの研究・開発も盛んになった。また、広い国土に分散した研究者の共同研究に必要な大容量のデータを高速に転送する技術として現在のインターネットに関連した技術の研究と実現も推進された。
 しかし、並列コンピュータメーカはお得意様だった軍関係の機関が冷戦の終結による予算削減を受けたことによって業績が悪化し、最悪の場合は淘汰されるという憂き目を見た。くわえてGrand Cha1lengesのような基礎科学分野における研究がいくら重要であっても、そのような研究に納税者が寛容であってくれるハズもなく、HPCCプロジェクトもだんだんとその方向を変える必要が生じてきた。
 そして1994会計年度には、新たに国と国との(経済)競争に勝ち市民生活を豊かにするというより現実的な目標がNational Challengesとして設定された。ここにはDigita1 Libraries(電子図書館)、Public Access to Govemment Information(政府情報の公開)、E1ectronica1 Commerce(電子商取引)、Civi1 Infrastructure(社会基盤)、Educationand Life1ong Leaming(教育と生涯学習)、Energymanagement(エネルギー管理)、Environmenta1Monitoring(環境管理)、Hea1th Care(健康管理)、Manufacturing Processes and Products(製造過程と製品)などのテーマが含まれている。これでだいぶ図書館情報学の研究テーマに近づいてきただろう。


本学助教授
Grand Cha11enges and National Cha11enges. Hidehiko Hasegawa