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エッセイ

システム三分の計

宇陀則彦

 「この混乱の世を治めるには,天下を三つに分ける以外にありません.」諸官亮孔明は,劉備玄徳にささやいた.いわゆる「天下三分の計」である.

 各地で反乱や戦がおき人々の生活はめちやくちやである.少し静かになったかと思うと,また別のところから火の手があがり,予想もつかない問題が次々に起こる.大規模な範囲にわたるこのような戦乱に対しては,たとえどんなに力のある武将でも一つの力でもって天下を統一することはできない.ここは比較的強大な力をもった三人の武将で天下を分割しバランスをとる以外にない.すでに北と南の2つの地域は曹操,孫権という力で平定されつつある.残るこの西の地域を平定し,天下をこの三つの力で治めるのだ.

 大規模な計算機システムは,戦乱の世に似ている.企業,大学などの施設は一つの国であり,施設内の部屋は各地方である.そして,ワークステーション,パーソナルコンピュータ,プリンタなどは,武将達の城であり砦であり,ネットワークケーブルは,城を結ぶ街道である.この街道をデータと呼ばれる軍勢が頻繁に行き来し,互いの城を占拠し,あるいは破壊する.

 各地でワークステーションやネットワークがダウンし,人々の生活はめちゃくちゃである.少し静かになったかと思うと,また別のところがダウンし,予想のつかない問題が次々に起こる.このようなトラブルに対しては,たとえどんなに力のある管理者でも一つの力でもって大規模システムを管理することはできない.

 そこで,孔明に倣って「システム三分の計」で大規模システムを管理するのはどうだろう.ファイルサーバ,X端末サーバ,ウェブサーバなどが一つでは,負荷が集中し,これらの一部がダウンすればシステム全体がダウンする.一元管理は楽ではあるが,システムの規模が大きくなれば逆に災いとなりうる.

 ここで仮に,ある大学の大規模システムを“魏”,“呉”,“蜀”という三つのサブシステムに分割することを考える.魏には“曹操”,呉には“孫権”,蜀には“劉備”というファイルサーバを置き,それぞれ教官用,学生用,事務官用とする.X端末サーバ,プリンタサーバなども,“関羽”,“張飛”などと適当に名前をつけ,魏,呉,蜀にそれぞれ設置する.街道も整備し,魏のデータが大量に流れてどこかのブリッジが落ちても,呉や蜀のデータには影響がないようにする.魏のデータも遠回りでいいから最低限流れるようにはしておく.さらに,これが最も重要であるが,各サーバには必ず影武者をおく.

 このように,同じ構成をしたサブシステムを3セット作り,かつそれぞれのセットの各サーバには影武者をおくという二段構えの構成にすれば全体としてかなり安定したシステムが構成できるだろう.曹操がダウンすれば魏はダメージを負うが,呉と蜀には何の影響もない.魏も曹操の影武者がすばやく曹操の代理を務めれば魏もすぐに復活するだろう.同様に,魏のプリントサーバがダウンしても呉や蜀のプリントサーバにデータを送ってプリントアウトしてもらえる.普段は魏のウェブサーバを三国の代表にしておき,魏が危ういときは,呉のウェブサーバを三国の代表にする. 以上が「システム三分の計」である.現実のシステムを,このようにきれいに分けることはなかなかできないが,かなりの部分は実現可能である.


Division of Large Scale System into Three Parts,by Norihiko UDA
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