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図書館オタクとパソコン小僧

藤田岳久

 私の出身校は本学、図書館情報大学である。 学生時代は、現在本学にいらっしゃる先生方の 授業を受けた。その中でも、忘れられない授業 風景がある。

 ある授業中に質問をする学生がいた。彼は、 リファレンスツールの使い方や分類記号の付与 方法など図書館における「技術」はよく知って いるけれど、人との接し方がつっけんどんだっ たり冷たいものの言い方をしたり、人の身にな ってものを考えることのできない人であった。 質問の時も、まるで先生を追い込むような、先 生の話の挙げ足をとるような質問のしかたをす るのだった。それに対し、担当のM先生は決し て怒ることなく、やさしい口調でわかりやすく 答えていた。私は「彼よりもM先生の方が図書 館員に向いているみたいだなあ」と思った。

 もう一つ。計算機プログラミングの授業では、 2週に1回程度のレポート提出が課せられた。プ ログラミングが得意な連中の間では「いかにプ ログラムを短くするか」という競争が自然と行 われるようになった。(私もその競争に加わっ ていた。)「ほら、こうやったら短くできたぞ。 わかるか。」友人に見せられたプログラムは、 解説をしてもらわないと理解できなかった。担 当のS先生は「プログラムの見た目は短くても、 実行してみるとループの数が多かったりたくさ んの計算が必要だったりで、普通に書いたプロ グラムより実行時間が長くなってしまうことが あります。また、他人が読みにくいプログラム になってしまうことはよくあります。そのよう なプログラムが『よいプログラム』と言えるで しょうか。」とコメントした。私は「変にプロ グラミングテクニックばかりに偏るんじゃなく、 プログラムを利用する人や保守する人のことを 考えなくてはいけないな」と反省した。

 図書館のことを一所懸命勉強している人の中 には、将来図書館員になることを希望している 人が多いだろう。また、コンピュータのことを 一所懸命勉強している人の中には、コンピュー タ関係の仕事に就きシステムエンジニアやプロ グラム開発者になりたいと思っている人が多い だろう。図書館員には「図書館の資料と利用者 とを結ぶ」役割がある。そして、システムエン ジニアの仕事は「お客さんの注文や要望を理解 し、システムをどう作ったらいいか考え、実現 する」というものだ。どちらも、人と物をうま く結びつける役割を持っている。図書館資料や コンピュータなどの「もの」との接点を保つた めの「技術」ばかりに目を向け、人との接点を なおざりにするのは、片手落ちとは言えないだ ろうか。人とコミュニケーションできない「図 書館オタク」や「パソコン小僧」になって欲し くはない。

 「そんなの、図書館や企業で研修をうけてし ばらく仕事をしていれば慣れてできるようにな るよ」と思う人もいるだろう。ところがどっこ い、利用者の言っていることを理解しようとし ない図書館員や、お客さんの注文を曲解して頓 珍漢なソフトを作ったり「バグではありません、 仕様です」のひとことで誠意のない対応をする システムエンジニアは、少なからず存在する。 そのような人達とは、図書館やコンピュータを 離れた話をしても、話がかみ合わない、話が 「乗らない」ことが多い。「人の話を聞き、理 解する」能力は、習って身につけるのではなく、 普段の生活の中で培われていくものであること を痛感する。

 かくいう私も、最近は「ディジタル図書館」 なる、いわゆる「図書館をコンピュータする」 研究分野に首を突っ込んでいる。ややもすると、 コンピュータをどのように応用するかという話 ばかりに夢中になって、利用者の存在を忘れが ちになる。現場の図書館員である友人にディジ タル図書館のことを話すと「だからなんなの? 全く技術屋さんはこれだから」という反応を返 されたことがあった。その時ほど「利用者あっ てのディジタル図書館」と思ったことはなかっ た。この原稿は、自戒の念をこめて書いている。 S先生のコメントに反省したという「前科」を 忘れずにいたいと思う。


本学・助手
Library otakus and computer hackers. by Takehisa Fujita