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ターミノロジー

ディジタル図書館(Digital Library)

杉本重雄

 従来、電子図書館(Electronic Library)という語が広く用いられてきた。最近は、 これに加えてディジタル図書館(Digital Library)や仮想図書館(Virtual Library)という 語 を目にすることが多い。米国では、高速計算機を高速・広域ネットワークで結ぶ全米 情報基盤計画(NII: National Information Infrastructure)、いわゆる情報スーパーハイ ウェイが大きな話題となっている。この応用分野として、教育と医療とともに図書 館が 重視されている。NII上に様々な図書館機能を実現し、情報の蓄積と流通をより一層進め ようというものである。ここで使われていることばがディジタル図書館 (Digital Library)である。

 図書館の電子化を目指した従来の「電子図書館」と比べて、ディジタル図書館の研究 が目指すものは、多様なデータをディジタル化して蓄積し、高度な情報基盤の上に図書 館の持つ様々な機能を実現しようとするものである。したがって、ディジタル図書館に は「館」の概念は必ずしも含まれず、「壁のない図書館」と言われる こともある。

 国際会議での報告[1]によると、ディジタル図書館を以下のように定義している。
「ディジタル図書館は、従来の図書館が紙やその他の媒体を使って提供してきた、収集 、目録作成、情報の発見と流通というサービスを、再現、模擬、拡張するため に必要な 内容およびソフトウェアを、計算、データ蓄積、通信のための機械装置とともに適切に 組み上げたものである。完全なサービスを提供するディジタル図書館 は、従来の図書館 が提供してきた必須のサービスを実現しなければならず、また、ディジタル化された情 報蓄積、検索、並びに通信のよく知られた長所を生かさなければならない。」

 構成的には、Digital Libraryはデータをディジタル化して収集・蓄積し、ネットワー クを介して利用可能にした機構(collection or repository of digital materials)と言 われる。したがって、多様な情報をディジタル化するためのマルチメディア技術と、大 容量データを蓄積し、通信するための計算機ネットワーク技術が基盤であることはまち がいない。しかしながら、ネットワークを介してマルチメディア情報の検索ができれば 良いというだけではなく、学習や研究の支援、すなわち利用者の知的作 業の支援を行い 得ることも要求される。

 現在既に、学術情報センターの電子図書館プロジェクト、Elsevier社のTULIPやカリフ ォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のRedSageなど、ネットワークを介した学術文献 の提供サービス(document delivery)の実用化が進められている。また、World-Wide Web やGopherなどの情報提供のためのソフトウェアと、これらを統合的に利用できるMosaic の出現によって「情報はネットワークから取り出す」とでも言えるほど、情報へのアク セス方法が変わりつつある[2]。しかしながら、ディジタル図書館は、ビデオ画像を含む 多様な情報を、老人や子供、障害者を含む多様な利用 者に提供するという多様な役割を 担うものであり、乗り越えなければならない技術的課題はまだまだ多くある。また、知 的財産権をはじめとする社会的問題の解決もこれからの課題である。

[1] Gladney, H. M., et al., Digital Library: Gross Structure and Requirements,
    Proc. of Digital Libraries 94, 1994.6
[2] 根本彰, Digital Libraryは図書館か - ある図書館研究者のインターネット体験,
    デ ィジタル図書館(ISSN 1340-7287), No.2, 1994.11

本学‘助教授
digital Library