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図書館情報大学学生の一側面について

和光信也

 図書館情報大学は昭和54年10月に開学したので,今年の10月で15周年になり,催しものが計画されているようである.我々は昭和55年4月に第1期生を迎えたのであるが,早いもので本年4月の入学生は第15期生である.1年生の入学定員は開学当初120人であったが,臨時増募により昭和61年に140人,昭和62年に150人となった.その後,知識情報論講座の新設にともない,平成3年に170人,平成4年に180人となり,少しずつ拡充してきている.

 どこの大学でも行われていることであるが,入学者選抜方法研究調査というものがあり,本学でもすでに第10報までが発表されている.もちろん,「取扱注意」の印のついた書類であるから,おおやけにできることは限られているが,本学の学生の一側面を覗くことができるので,少し述べてみる.また,日頃本学に関心を抱いて見守られている方々に,このような地味な研究調査も行われていることを知って頂ければ幸いである.

 入試方法の改善に役立てるために,いろいろの統計を取り,さまざまの角度から調べてきたが,多くのことはあまりはっきりせず,定量的にはっきりしたことのほとんどは,だいたい予測することのできることであった.それでも,入試方法の改善に少しは役だったと思われることもないわけではない.本学には推薦入試もあり,推薦入試で不合格となった生徒が,2次試験で合格するケースがかなりあることがわかったので,推薦合格の枠を広げたこともある.

 200人に満たない人数では,母集団として小さすぎるのではないかという心配がある.第1図は,ある年度の共通1次試験の物理と数学の相関図である.これを見ると,「物理のできる者はかならず数学もよくできるが,数学ができるものがかならずしも物理ができるとはかぎらない.」ということが歴然としている.当然のことであるが,数学は物理の基礎であることがわかった.同じような図が国語と外国語の場合にも得られ,国語は外国語の基礎であることもわかった.このくらいのデータ数があれば,ほかの統計データについても,大数法則がほぼ成り立つと思えるのではないだろうか.入学後の学業成績の統計によると,平均としては推薦を受けた者の集団のほうが,2次試験のみで入学してきた者の集団よりほんの少し良いという結果がでている.このことは,毎年ほとんど同じ結論になっているので,統計としては信頼にたることである.しかし,そうだからといって入試を推薦のみにしてしまうわけにはいかない.なぜなら,個人差が余りにも大きく,両集団の差異が標準偏差にくらべると非常に小さいからである.

 本学の志願者について最も特徴的なことは,世によくいわれる「輪切り現象」が起こっておらず,非常に高得点の者も多いということである.そこで,合格のボーダーラインは予備校の発表とあまり相違しないが,合格者の平均点となると全国平均をかなり上回っている.しかも,その傾向は年々上昇し,平成3年度に定員を20名増やした際に少し下降したのみである.

 入学者についての特徴は,出身地別では茨城が15名〜20程度で少し多く,大学の多い東京と近畿地方が人口のわりには少なく,あとは北海道から沖縄までほぼ均一に分布している.このことは,本学が地方大学ではなく,独自の専門性をもった大学であることをあらわしている.男女別では,女子が60%から70%位をしめている.また,現役が80%以上で非常に多いことも特徴の一つである.

 入学後の学業については,情報学的な科目では男子のほうが女子にくらべよりよく履修し,図書館学的な科目では逆になっている.全体の傾向として,開学当初にくらべ,情報学的な科目の履修が増加している.

 入学時における希望する就職先としては図書館系が2/3以上であるが,学年が進むにしたがって1/3位に減少し,実際の就職先は,情報系が1/3以上,図書館系が1/3程度,残りは一般企業ということになる.就職が楽であった頃は,特別な事情があった者をのぞいて,ほぼ毎年100%の卒業生が就職できた.就職難となった昨年度でも,情報系はほぼ100%であったが,求人が激減した図書館系はかなりの就職浪人がでてしまった.この人たちは,今年度の公務員試験にむけて猛勉強をしているようであり,大いに期待している.その他の普通のサラリーマン,普通のOL志望の学生は世間並の厳しさであった.過去10年間の主要な就職先は,情報系では日立(44人),富士通(43),NEC(30),東芝(27),IBM(23)であり,図書館では東大(16),筑波大(10),帝京大(10)などである.

 卒業後の状況についてのきちんとしたデータなはいが,男子はもちろん,女子も善戦してくれているようである.しかし,1期生から3期生位までについては,先輩のいない実社会に学生を送り出すことは,本当に心配であった.*)

 最近,卒業生が次第に社会で評価され始めていることを実際に感じた例が幾つかある.ある経済研究所から大学に「司書・情報処理業務の経験を有し,大学卒業以上の学歴を……」という中途採用の求人がきた.また,ある電力会社に勤めた卒業生は,2〜3年経ったこの春,地方の支店から本店の情報システム部に転勤になり活躍している.

 新一年生からは,新しいカリキュラムでの授業が始まった.我々教師一同,また,新しい気持ちで教育に取り組んでいる.この拙稿を目にされた諸賢の暖かい叱咤激励を期待しつつ,指を休めることにする.

*)昔,次のようなことが何回かありました.ある土曜日の朝,突然,「今日,休暇をとりました.これからつくばへ行きますから,愚痴をきいて下さい.」という電話が掛かってきました.その日の午後,近くの喫茶店で2〜3時間ほど話をしました.最後に,「これで,2〜3ヵ月は頑張れます.有難うございました.」といって,元気に帰っていきました.ある時は,たまたま東京にでる機会があったので,銀座の喫茶店で会いました.その時は女子で,喫茶店の中で泣かれてしまい,閉口したことを愉しく思いだします.というのは,それほど深刻な話ではなく,その後レストランで夕食をしたら,すっかり元気になり,ワインボトルを「記念に」といって持ち帰ったくらいでしたから.最近では,それぞれ身近に良い先輩がいるのでしょう.あまり,相手にされなくなりました.しかし,我々教師や先輩にも相談ができないほど,本当に困っている卒業生のことが,一番気になるのですが.

図1 ある年度の受験者の共通1次試験での物理と数学の相関図.上と右がそれぞれ高得点である.


本学教授
A Profile of ULIS Student, by Shin-ya Wakou