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ターミノロジー38

レビュー

武者小路 澄子

 Light とPillemerの著わした'Summing Up : The Science of Reviewing Research'(1984)という本に,レビューを書く時には困難な問題にぶつかるが,「対立する研究成果を統合し,調和させていくことは,試みるに値する」とある.この本には,レビューを書くことが科学に対して果たす,薔薇色の夢が描かれている.だが,現実のところ,多くの研究を統合したり,うまいまとまりをつけるということが(もし出来ているなら)どうやって可能となるのか.レビューは,科学という場での情報の流れや知識の形成に大いに関わっているはずである.

 レビューは,既に発表されている一次文献などの情報を濾過し,それらの情報を新たに組織化して,対象とする領域・主題の中に位置づけ,その領域の進展という点からまとめる機能を果たすと言われる.レビューが行うことは,情報の(1)統合(integration),(2)評価(evaluation),(3)簡約化(compaction)に大まかに分けられる.しかし,実際に大量の一次文献に向かって,どのような作業が行われているのかは,明らかになっていない.

 科学情報の流れの中でレビューの重要性が指摘されている反面,レビューというメディアに関する研究は少ない.一つには,一口にレビューと呼ばれるものの中にかなりの多様性があり,明確な定義を与え,厳密な範囲で研究することが難しいからであろう.一般的な分け方として,批判的(critical)レビューと現状を統括する(state-of-the-art)レビューという二分法がある.前者は,明確な立場に立って,特定の主題について発表された一次文献に評価を加えていく性格が強いもの,後者は最近の研究動向を総体的に解説する性格が強いものである.また,Woodwardは,出版形式の違いから,(a)'annual review'タイプ,(b)'advances'タイプ,(c)'popular'ジャーナル・タイプ,(f)'year book'タイプ,(f)'monograph'タイプ,(g)'essay'タイプ,(h)'comments'タイプ,の8種類に分けている.現実に,レビューを書く人の意見の強さや引用する文献数は相対的なものであり,私が調査した際には,このWoodwardの分類の方がずっと分かりやすかった.

 レビューを利用するのは,一般的には,大学に入って卒業論文かかなり大規模なレポートに着手する時が初めてではないだろうか.何かの研究を始める際には,少なくとも自分の属する領域,取り組む主題に関して,過去にどのようなことが明らかにされており,読んでおかなければならない代表的/主要な文献が何であり,現状にはどのような問題点が挙げられているのか,を知ることが重要である.

 レビューを書く際には――冒頭に書いたが――薔薇色を担えるのは,遠い道である.二年前私は初めてレビュー論文を書いたが,膨大な数の他者の論文を前にしてその領域を代表してものを言うなんてとんでもない,と後悔し,「自分の」研究発表に戻りたくなった.たった今,その薔薇色を十分担うほどの研究をなさってきた医学研究者にインタビューしているが,その方ですら「全体をもうずーっと絶えず把握しながら流れを見る」ことの大変さを指摘され,「自分の本当の得意なとこだけを書いてくれっていうのは,楽なんですよね.」とのことだった.


本学助手
Review, by Sumiko Mushakouji