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資料紹介38

手引書と著作権法

原 秀成

 図書館あるいは情報処理センターなどは,著作権法についてあまりに冷淡な姿勢をとってはいないだろうか.たとえば,図書館において複製をする場合,申請用紙に,「なお,著作権法上の一切の責任は,利用者が負う」などと注意書きがあることが多い.確かに,著作権法上の責任を負うのは,利用者個人個人である.特に,利用者が自分の創作行為の結果を,出版・公表する場合,他人の著作物の利用については,特に注意しなくてはならない.しかし,著作権法に違反する行為と,その場合の責任について,利用者が正確な知識を持っているとは限らない.そこで,図書館は利用者に対して著作権法に関する適切な情報提供を要求される.

 出版・公表することを前提とした創作行為において,他人の著作物の利用の際に注意すべきことは何か.こうした情報要求に対して,著作権法に関する解説書によって回答することも一つの方法である.しかし,必ずしも法律書を解読できない場合もあり,また実務的なことについて記載のない場合もある.そこで,「論文の書き方」などを参照した方が適切な場合もある.日本では,著作権法に触れたものは,木下是雄「レポートの組み立て方」(筑摩書房,1990)[816.5:Ki-46]などがある.しかし,あくまでも,個人の立場で書かれたものであり,学会や大学出版会などの執筆要領に,著作物の引用などに関わることを記載したものは多くはない.

 これに対して,米国では,いくつかの学会や大学出版会などが,手引書を出版している.そのなかで,最も総合的なのが「シカゴ・マニュアル」と略称される次の手引書である.

 University of Chicago Press. The Chicago Manual of Style. 14th ed. Chicago: The University of Chicago Press, 1933. [022.7:Ma-48]

 この手引書では,米国著作権法で許されている公正使用の範囲を越えて引用をする場合の手順などの記述がある.著作権者から著作物の利用の許諾を得るための手紙の文例も載せられており,参考にすることができる.また,こうした許諾を得たときの謝辞の記載方法の記述もある.

 この手引書には,各章末および巻末に,説明のついた文献目録がある.これによって,学会がまとめた代表的な手引書(style manuals)とその特徴を知ることができる.分野別の手引書により,さらに分野に即した示唆を得ることもできる.あるいは,学術雑誌に投稿しようとする場合には,最初から準拠すべき手引書が定められている場合が多い.

 日本においても,著作権法で認められた範囲を越えて,著作物を利用しようとする場合,その利用の許諾を書面で行うことは,著作権意識の育成のために,また紛争防止のために,重要である.発達した高度な複製技術を有効に利用するためにも,著作物の処理にかかる時間と手間を最小限にすることが要請される.著作権法や特許法・種苗法・半導体集積回路の回路配置に関する法律など,創作行為を規整する法において,権利者と利用者のバランスをうまく調節することが求められる.さらに,図書館法の目的規定には,著作物を適正な利用環境に置き,もって文化の発展に寄与することが求められている.今後の図書館や情報処理センターにおいて,権利処理の手助けが求められる所以である.


本学助手
Style Manuals for Copyright Protection, by Hideshige Hara