4.4 国立情報学研究所各事業の今後の施策
国立情報学研究所開発・事業部次長
高 野 茂
1 はじめに
国立情報学研究所は,我が国の情報分野の研究の飛躍的推進を図るとともに,先進的な学術情報基盤を構築提供することによって,あらゆる学問分野の発展と産業・文化・国民生活の向上に大きく貢献するために,学術情報センターを母体として情報分野における総合的な研究機関として,平成12年4月1日をもって創設されたものである。
新研究所創設に当たっては,「情報研究の中核的研究機関準備調査委員会」(平成10年4月文部大臣裁定)が,情報研究の中核的研究機関の基本的在り方について慎重審議を重ね,報告書(平成11年3月)としてとりまとめた中で,事業に関しては次のように報告し,これまで学術情報センターが行ってきた諸事業に関しては,新研究所が継続して行う必要があるとされた。
情報研究の中核的研究機関準備調査委員会報告(平成11年3月)(抄)
1 情報に関する学術研究の中核となる研究機関の必要性
(2) 新たな研究機関の必要性
・・・新たな研究機関においては,学術情報センターが学術情報の収集,整理,提供等に係る事
業並びにそれに関する研究開発及び人材養成において果たしてきた役割と成果を十分に認識し,そ
れらの機能を継承することが必要である。・・・
3 目 的
本研究機関は,情報に関する総合的な研究及び開発並びに学術情報基盤の開発・整備及び学術情報の活用に係る業務を行うことを目的とする。また,情報分野の専門家の育成にも貢献する。
8 学術情報基盤に関する開発・事業
新たな研究機関の母体となる学術情報センターは,学術情報ネットワークの構築・運用,学術情報データベースの形成・提供や大学図書館職員等に対する教育・研修の事業を通じて,我が国の学術情報システムを支える中心機関として機能している。この点を踏まえて,本研究機関においては,学術情報基盤整備に関するこれらの事業を情報に関する先端的な研究開発と一体のものとして捉え,大学図書館や学会等の関連機関と連携してその一層の充実と国際展開に努めることにより我が国の学術研究体制の強化に貢献することが不可欠である。
また,情報分野における研究開発の推進に当たっては,国際性を念頭に置いた実用システムや社会との相互作用によってこそ,その飛躍的な発展が期待できる。特に,学術情報基盤の整備にかかるシステム開発やその運用に関連する業務,すなわち開発・事業は,単に研究者に学術情報を提供するだけではなく,情報に関する研究成果の実践の場であるとともに研究開発の大きな動機付けを与えるものである。・・・
9 組 織
(1) 基本的な考え方
(2) 研究系
(3) 管理部(仮称)
管理部においては,本研究機関の庶務,会計,研究協力,国際交流等に関する事務を処理する。特に,本研究機関においてはプロジェクト型共同研究や国際的研究活動を積極的に推進することが期待されるため,充実した研究支援体制を整備する必要がある。
(4) 開発・事業部(仮称)
開発・事業部においては,前述の「8 学術情報基盤に関する開発・事業」に述べた考え方にづき活動を展開する。すなわちデータベース,ネットワーク等の学術情報基盤の構築・運用,研究成果等に関わる知的所有権の取得及び維持・管理,大学図書館及び学会等との連携・協力等,システム開発及びその運用に関連する業務を研究組織との連携の下に行う。したがって,同部には,相当数の研究支援者を必要とする。
(5) 附属施設
・・・さらに,教育研修センター(仮称)を設け,開発・事業部の実施する各種業務を効率的・効果的に推進するために,その利用者を対象として教育・研修を行うことも必要である。
(参考) 国立学校設置法施行令
○学術情報センター 学術情報の収集,整理及び提供並びに学術情報及び学術情報システムに関
(改正前) する総合的な研究及び開発
○国立情報学研究所 情報に関する総合的研究並びに学術情報流通のための先端的な基盤の開発
(改正後) 及び整備
以上のような検討,報告を踏まえて,学術情報ネットワークの構築・運営,目録所在情報データベースの形成・提供,各種学術情報データベースの形成・提供,教育研修など学術情報センターが担ってきたこれまでのサービス事業は,新研究所としても継続して行うこととなった。
2 国立情報学研究所の事務組織
【国立情報学研究所】 【学術情報センター】
管理部 総務課 管理部 総務課
会計課 会計課
共同利用課
国際・研究協力部 研究協力課 教育研修部 研修課
広報調査課 (学術情報システム企画室)
成果普及課
(研究成果普及推進室)
開発・事業部 企画調整課 事業部 システム管理課
ネットワークシステム課 ネットワーク課
コンテンツ課 目録情報課
アプリケーション課 データベース課
※ 各課の係名称及び研究系にあっては国立情報学研究所のホームページを参照
www.nii.ac.jp
3 開発・事業の各事業の概要と計画
(1) 目録所在情報サービス
@ 目録システム(NACSIS-CAT)の運用
昭和59年度よりサービスを開始した目録システム(NACSIS-CAT)には,平成12年3月末現在で735機関が参加しており,平成11年度間においても65機関の増加となっている。目録所在情報データベースの登録状況は,図書書誌が526万件,図書所蔵が4,527万件で,最近の年間増加件数は所蔵レコード数で約660万件となっていることから,本年度中には5千万件の大台を突破する予定である。雑誌については,書誌が23万件,所蔵が342万件となっている。
オープン環境による新目録システムへの移行に合わせて,平成10年4月から,総合目録データベースをインターネット上のWWWにより検索できるWebcatのサービスを開始している。
さらに,これまで土曜,日曜,休日の運用を行っていないが,このうち土曜日について,各大学図書館の開館状況を考慮してサービスを開始するよう検討中である。
また,新CAT/ILLと並行して従来どおりの汎用計算機による目録データベースのサービスも行っているが,現汎用計算機の次の更新時期(平成17年1月)には,オープンシステムによるサービスに一本化したいと考えており,各大学においても,機種更新の
時期を捉えるなどして新CAT/ILLに移行されるようお願いしたい。
(現時点で,国立大学では,99大学中36大学が移行済みである。)
A 新CAT/ILLの多言語対応
新CAT/ILLのサービスを多言語資料に対応させるため,UCS(Universal multiple-octet coded Character Set:国際符号化文字集合)フォント作成等を含めたシステム的な整備を実施し,平成12年1月から新システム及び総合目録データベースにおいて,多言語資料を取扱うことができるように改善した。
まず始めに,大学図書館等で約730万冊所蔵があり,かつ,総合目録データベースでの取扱い規則の検討が終了している中国語資料を,総合目録データベースに登録できるようにしている。中国語資料に引き続き,韓国・朝鮮語資料の取扱いについての検討を平成11年度から開始し,原案作成を行っている。
また,平成12年1月には,新たに参照ファイルにCHINA-MARC(MARC:機械可読形式目録)を導入した。
B 図書館間相互貸借システム(NACSIS-ILL)の運用
平成4年度から運用を開始したNACSIS-ILLは,大学等の研究者に必要な文献を提供するために,図書館間での文献複写・資料貸借の依頼メッセージを電子的にやりとりするシステムである。
平成11年度の1日平均の依頼件数は約4,200件に達しており,雑誌価格の高騰の影響も反映して,年々増加の一途をたどっている。
平成6年度からは英国図書館原報提供センター(BLDSC)に,平成8年度からは国立国会図書館に依頼する機能を追加した。それぞれへの依頼件数の累計は,27,693件及び73,564件である(平成12年3月末日現在)。
さらに,海外ILLユーザへの対応として,英国及びタイからの文献複写及び資料貸借の依頼を国立情報学研究所が窓口として受け付けており,各大学図書館の協力により迅速な資料の提供が可能となっている。
C ILLシステムの海外連携
海外にある書誌ユーティリティ(共同による書誌情報の作成・提供,ILLシステムの運用等の図書館向けサービスを行う機関でOCLCなど)との相互協力を図るため,まずILLシステムにおいて,ISO-ILLプロトコル(International Standard Organization:国際標準機構で制定したILLのためのProtocol:データ交換のために準拠すべき取り決め)対応システムの開発を進めている。
D 学術雑誌総合目録
全国の大学図書館等で所蔵する学術雑誌を網羅し,ILLシステムを通して学術研究活動を支援することを目的として,学術雑誌総合目録(冊子体・CD-ROM)を編集している。
平成10年度の「学術雑誌総合目録欧文編1998年版」の刊行に引き続き,平成11年度から2年計画で和文編新版のためのデータ更新と編集を開始しており,第2年次に当たる今年度に新版の刊行を行う予定である。
E 日本学術図書総合目録データベースの整備
国立大学が所蔵する学術図書は,全国計で6,000万冊余りであるが,目録所在情報データベースに登録されているものは2,700万冊と半数に満たない状況である。このため学術情報資源の全国的な効果的利用の阻害要因となっており,また,国際的な学術情報流通の障壁として欧米から指摘されていることから,この解決が緊急の課題となっている。
国立大学図書館協議会とも連携を図りながら,概算要求を含めて対応を進めていく。
(2) 情報検索サービス
@ 情報検索サービス(NACSIS-IR)
平成12年4月現在,57種類,約9,800万レコードのデータベースをサービスしている。本年1月からはオープンシステム対応の新システムに移行しており,運用体制も安定したことから,本年5月1日からは24時間サービスを開始した。これにより,海外からの利用においても利用時間の制約を解消できた。
また,提供データベースの利用状況等を勘案し,以下のデータベースのサービスを終了し,又は終了を予定している。
(平成11年12月で終了)
○木簡データベース(提供元の奈良国立文化財研究所が直接WWW上でデータベースの提供を
開始したため)
○電気化学データベース(提供元作成の検索プログラムの受入が困難なため)
○学会予稿集電子ファイル(電子図書館サービスで提供するため)
(平成12年3月で終了予定)
○Life Sciences Collection Plus Marine Biology and BioEngineering(米国・Cambridge
Scientific Abstracts社がデータベースの提供を中止したため)
(平成13年3月で終了予定)
○EMBASE(同種のデータベースのMEDLINEがWWW上で無料公開されていることなどを受
けて利用が減少しているため)
(平成13年度中終了予定)
○現行法令データベース(総務庁がWWW上で無料公開を開始するため)
A 引用文献索引データベースの公開
国内の学協会が発行する理工学分野の学術論文誌を対象として作成した引用文献索引データベースのサービスを,平成12年1月から開始した。現在,380学協会,430誌を収録しており,平成12年度は農学,医学分野に収録対象を拡大する予定である。
B 学術雑誌目次速報データベースの進捗状況
平成12年4月1日現在,参加367機関(うち国立大学が86),収録雑誌2,804タイトル(内,国立大学1,248タイトル)となっている。収録データも253,338件となった。
我が国の大学刊行物の情報発信拠点の一つとして,今後も一層の拡充を図る予定である。
C 各種調査に基づくデータベース作成
「学術研究活動に関する調査」,「学術情報データベース実態調査」,「大学等の研究活動を総覧するデータベース構築のための調査」を毎年実施しており,これらの調査結果に基づき「研究者ディレクトリ」,「データベースディレクトリ」,「研究活動資源ディレクトリ」のデータベースを作成し提供している。
現在,平成10年度調査の結果が収録されており,
研究者ディレクトリには16万人
データベースディレクトリには2,953件
研究活動資源ディレクトリには,研究機関・課題DBに12,463件
研究資源DBに1,580件
研究者DBに103,566件
が収録されている。
なお,研究活動資源ディレクトリにあっては,WWW上で公開している。
D 研究者公募情報提供事業
大学等における教員等の公募制に関する大学審議会の答申等の提言を受けて,研究者の公募情報を網羅的に収集し,学術情報ネットワークを介して提供する研究者公募情報提供サービスを平成9年5月20日から実施している。
各機関から文書あるいは電子化した形態で公募情報を受け取り,速やかにデータベース化し,WWW上で提供している。応募期限を過ぎたデータは削除し,常に最新の情報を提供しており,平成12年4月1日現在,458機関から2,940件(3,344名分)の公募情報を提供しているが,現在(5月29日)でも191機関から,517件(578名分)の公募情報を提供している。
この事業をさらに発展させる観点から,求職者情報を収集・蓄積し,大学等機関が求職者情報を検索し,求職者に照会できるようなシステムを構築することを計画している。
E 海外へのサービス
平成5年8月から,海外の大学及び学術研究機関に対して,作成データベースや受け入れデータベースの中から,海外機関へ提供可能なものの有償サービスを行っている。
平成12年3月末現在で44種のデータベースを8カ国21機関が利用している。
(3) 電子図書館サービス
@ 平成9年4月から,学術雑誌を電子化し,全国の研究者に学術文献の原文を迅速かつ容易に提供することによって,学術研究活動を支援する電子図書館サービスを開始した。当面は,学術団体(学協会)から提供を受けた学会誌・論文誌をその対象としており,本文ページをイメージデータとして取り込んだ画像データ及び書誌データ(掲載記事の標題,著者名,掲載雑誌情報,抄録等の文字データ)収録している。インターネットを介して書誌事項からの検索とページ画像データの表示及び印刷出力が可能である。
A 平成12年4月現在で106学会,328誌を収録しており,今後も参加学会を拡大し,コンテンツの充実に努めていくこととしている。
B 電子図書館サービスの一環として実施している,英国物理学会(IOP)刊行の電子ジャーナル
の試験提供は,12年度も引き続き行っている。この電子ジャーナルの利用状況評価のためアンケ
ート調査を実施しており,13年度以降のIOPの継続を含めて,提供方法,提供内容について検討
していくこととしている。
(4) オンライン・ジャーナル編集・出版プロジェクト
@ 学協会等で刊行している学術論文雑誌の編集から出版までの電子化及びその結果をネットワーク
を通じて提供することを支援するものとして開発・構築を進めている。
A 平成12年度はシステムの本格運用と参加学会の拡大を予定しており,大学等で刊行している紀
要等についても,このシステムが利用できるよう検討している。
(5) 学術情報ネットワーク
@ 平成12年度には,36番目となるノードを東京農工大学に設置する予定,また加入機関数も本年
4月現在で752機関となっている。
A インターネットの急速な普及とともに,パケット交換網の利用が急速に減少していることから,
平成14年3月を目途にパケット交換網を廃止する予定である。
国立大学図書館にあっては,G4-FAXで利用している大学が10数大学見受けられるので,計画
的な撤去にご協力をお願いしたい。
B 12年度においても,国内ネットワーク及び国際ネットワークとも,回線速度の増強を図る予定で
ある。
C 平成10年7月より,民間ネットワークとの相互接続を開始しており,省際研究情報ネットワーク(IMnet)との相互接続回線も100Mbpsに増強を行った。平成12年度は新たに大阪大学ノードで接続を図る予定である。
D 学術情報ネットワークを運用・管理する上で,ネットワークのセキュリティ対策は極めて重要な課題になっており,プライバシー保護,クラッカー対策及び不正利用等の防止に努めていく。
(6) 教育研修事業等
@ 図書館職員等を対象とした研修は,配布済みの「平成12年度 教育研修事業要綱」(平成12年4
月,国立情報学研究所作成)のとおり,実施する予定である。
A 平成12年度からインターネットのWWWブラウザを利用したNACSIS-ILLの自学習得システム
を提供する予定である。現在調整中であり,モニターによるテスト行った上で,来年2月ころ提供
を開始する予定である。
B 事業の国際展開に伴い,国際交流基金や海外関連機関と協力して,国際研修を実施している。平
成12年度に予定している主な研修は以下のとおり。
・北京日本学研究センター図書資料館員研修
・日本研究司書研修
C 成果普及活動の一環として,研究所が進めている研究開発や事業活動等に関連した今日的課題を
テーマとして発表・討議するシンポジウムを毎年開催している。
また,軽井沢の国際高等セミナーハウスを利用した公開セミナー等を実施している。
4 開発・事業の今後の課題
○ 文部科学省設置に伴う関係機関との調整
○ 独立行政法人化への対応
○ 国際化への対応
○ 有償提供サービスの課金のあり方