1.8 大学図書館における機構改革

立命館大学総合情報センタ−次長  

郷 端 清 人  

はじめに.

社会情勢が急激に変化しているなか、今日ほど大学の有り様が問われていることはないであろ

う。その中にあっても「独立行政法人化」の動きは国公私大を問わず重要なテーマとなっており、

21世紀間近にあって、今こそ我が国の大学を考える最も重要な時期にあるといえる。これまで

大学は社会の発展のために、脈々と活動を営んできたが、社会は地球規模で変革し、その動きは

あまりにも激しく、大学がその動きにいかに呼応していくか、またいかに変革していくかなどそ

の有り様が大きく問われてきている。さらに大学に押し迫ってくるもう一つの課題として直視し

なければならないことは、地球規模で発達するインタ−ネットや Information Technology (以下、

ITという。の高度化への対応であろう。  

個々の大学においてはこれらの課題を推進していくために、教育・研究活動の良質化・先端化

の追求、また社会との関わりや大学の管理・運営等の見直しが必要となってきている。そしてこ

れらの課題を個別の大学が戦略的に展開していくためには、大学の一体性、総合性の発揮が強く

求めらており、大学のあらゆる部門において変革を総合的に進めていく必要がある。その一つに

組織改革があるが、大学図書館に引きつけて言えば、組織改革を必要とする最も大きな要因とし

て考えられることは、急速に発展するインタ−ネットやITの高度化への対応であろう。学術情

報の質的多様化への対応や学内外情報へのアクセスの拡大、また情報入手の高度化などへの対応、

つまり電子図書館システムの構築をいかに展開していくかが問われている。しかし、このことを

真に進めていくには、もはや図書館が単独で推進していくことは極めて難しくなってきており、

それを解決する一つの方策として、図書館をめぐる機構改革や学内外の情報関連機関との関わり

を見直し、新たな時代に対応した事務機構を創造していくことが考えられる。21世紀にむけて

大学の学術情報サービスを支援していく組織および体制のあり方について考えてみたい。

1.ネットワ−ク時代における情報化の視点

今日の大学において、情報化の推進は誰もが認める重要な課題となってきている。しかし個々

の大学において、情報化を効果的に進めていくためには、それをいかなる視点から進めていくか

を明確にする必要がある。それは二つの側面から進めていくことが考えられる。

第一には、これからの大学においては、教育関連、研究関連、図書館および情報システム関連、

また、管理・運営部門を含めて総合的な視点から、情報化推進(情報の蓄積・収集・発信と情報

の活用)を考えていかなければならない。

第二にいえることは、大学の教育・研究の高度化を促進・支援していくには、大学のあらゆる

部門においてITを革新的に追求していかなければならない時代であるということを強く認識す

る必要がある。21世紀の企業は情報・ネットワ−クを征する者が生き残れるとまでいわれてお

り、まさに大学図書館にもこのことが問われている。今日の大学図書館には、学術資料のディジ

タル化や無形の資産にアクセスできる環境を有しているか、また情報の探索・入手が容易にでき

る情報支援システムが整備されているかなど、ネットワーク時代に対応したコンテンツの収集・

蓄積・発信・活用の支援、またITの高度化への対応が強く求められている。

これら二つの視点から「情報化」の事業を進めるにあたって、さらに以下に示す四つの視点

を踏まえることが重要であろう。

第一には、これまで述べたことを内実化していくためには大学全体の事業計画の中に「情報化

推進」の柱を明確に方針として立てる必要がある。第二には、「情報化推進」は、事業の規模に

応じて設計・開発や運用・管理体制を整備していかなければならないが、また多額の経費を必要

とすることから、事業を計画的に進める必要がある。第三は、キャンパス内にいわゆる「情報ネ

ットワ−ク文化」の創造をどのように展開していくかを考えなければならない。それには大学の

諸活動を可能な限りネットワ−ク型にしていく必要がある。それを進める具体的な方策として、

(1)構成員(学生、教官、職員)の情報リテラシ−能力向上の手だて、(2)キャンパスの諸活動を

支援するデ−タベ−ス(いわゆる学術情報デ−タベ−スに加えて、研究者情報、紀要・学会

等論文、シラバス、教職員録、学生名簿、学事日程、就職情報、施設情報、各種イベント情報、

学内の各種統計情報など)の整備、(3)大学の基幹情報システムである図書館システムおよび事

務情報システムをネットワ−ク型にし、全ての構成員が参加できるシステムの構築、(4)ネット

ワ−ク時代に呼応した大学の運用・管理を進めるために、各部門は徹底して規制緩和、情報の開

示を進めるなどの対策が必要である。第四は、図書館が単独でシステムを構築・維持していくこ

とはだんだんと難しい時代に入ってきたこと、また大学全体に情報化を浸透させていくことを考

え、これに関わる関連組織の有り様を見直す。

しかし組織のあり方を考える前に、次の2点を整理する必要がある。

第一には、大学の情報システム環境の課題を明確にすべきである。これまで大学では、教育、

研究、図書館、事務などの各部門が目的に応じて計算機システムを導入してきたが、情報システ

ム資源が大学の諸活動に十分に浸透し、多くの構成員にとって有益なものとなっているか、また

大学全体から見た場合、システムの運用・管理、資源の有効活用、資金・人材の有効活用などに

問題はないか、さらにはネットワーク時代をむかえ、使いやすい情報システムになっているかど

うかなどである。

第二には、大学図書館がこれから本格的に電子図書館システムを構築していくにあたっての課

題である。それには、(1)学術情報Logisticsの高度化、(2)学園の諸活動に対応した学術情報の収

集・蓄積および情報サ−ビス支援、(3)世界との学術情報交流への対応(Global Standard化)、

(4)マルチメディア・データベースへの対応、(5)キャンパス・イントラネットへの対応(とりわ

けセキュリティ、課金関係)、(6)教育・研究活動への学術情報支援などである。これらの課題

を整理することで、事務機構の有様も定まってくるものと考える。

2.体制のあり方

先にし召した課題を推進していくためには、体制の有り方も見直しが必要になってきている。

総じて言えることは、図書館のどの部門においてもITの活用能力の高い職員が必要となてきて

いることである。とりわけシステム部門で問題となっているのが人材の確保と体制の維持であろ

う。今の時代にあっては、計算機システムの構築方法がかなり難しくなってきたことにより専任

職員の確保・維持をより一層難しくしている。現実に、専任職員に求められるシステムよりの条

件を整理すると、第一には、ITの発達に伴い、多様なメデイアを扱うことになってきたことが

ある。ハ−ドウェア、ソフトウェアの標準化が一層進むなか、利用者は多様なメデイアを目的に

応じて選択していく必要がある。第二には、電子図書館システムでは、文字、数字、音声、画

像・映像など多様な情報を構築していくことが求められている。第三には、多様なデ−タの加工、

蓄積、出力においてユ−ザ−・インタ−フェイスに優れたソフトウェアが求められており、シス

テム構築にはかなり高度なノウハウが必要となってきている。第四には、ネットワ−クの発達に

より、多様な情報機器と接続し、マルチ・デ−タベ−スをサ−ビスすることが求められてきてお

り、マルチメデイアに対応したネットワ−クの構築が必要となってきている。第五には、インタ

−ネットを中心とした外部情報システムの高度化である。国内はもとより世界規模での情報支援

サ−ビスが可能になってきており、システムのグロ−バル・スタンダ−ド化が求められている。

第六には、セキュリテイおよび著作権問題である。システムがオ−プン化になればなるほど必然

的に起こってくる課題であり、ますます重要なテーマとなってきている。第七には、これからの

時代のシステムは複数のメ−カ−からハ−ドウェア、ソフトウェアを導入し、それを維持・管理

していくことになり、高度なマネ−ジメント能力を必要とするなどである。

これらのことを考え、「情報化事業」を推進していくためには、中心的に担っていく専門体制

の維持が不可欠である。また大学が主体性をもって個々の大学にふさわしい最適なシステムの構

築を行っていくためには、高度なマネ−ジメント能力とシステム・インテグレ−ション能力を備

えた専任職員の確保が極めて重要になっている。

そしてこれからのインフラ整備は、単にネットワ−クの整備やいわゆる計算機まわりの整備を

行うにとどまらない。そのなかにあって最も重要なことは、大学全体の情報化をいかに進展させ

るかという視点があるかどうかである。次に重要なことは、事業規模に応じて体制の整備がされ

ているかどうかである。大規模なインフラ整備を行っても、それを支える体制の整備を図ってい

かなければ、巨額の投資も生かされず、大学の「情報ネットワ−ク文化」がいつまでもたっても

育たないことになる。またこれからの時代、ITの発達に対応して新たな情報支援サ−ビスを推

進していくためには、最先端の技術やノウハウを必要とし、専任職員以外の多様な構成員による

運用体制を考えていかなければならないであろう。その一つの方策が業務委託の推進であるが、

このことが進めば進むほど、専任職員のあり方が問われることになる。

3.組織のあり方

組織のあり方を考える場合の最大の問題は、大学全体でシステム関連の部門をどのように形成

していくかである。個々の大学では、教育、研究、図書館、管理・運営(事務)、視聴覚などで

システム部門を必要とするが、組織を形成していく場合、これらを統合的に組織化するか、ある

いは分散的に形成していくことかが考えられる。

統合型と分散型にはそれぞれに短所、長所があり、統合型の組織を構築していく場合、大きく

は二つの問題がある。第一には、一般的に大規模になればなるほど組織の目標と役割をクリアに

することが難しくなってくる問題である。そのため、組織の役割と機能を明確にし、また機能の

継承をいかに持続するかの仕組みを考える必要がある。第二は、統合化によりシステム部門が各

部門の役割・機能を日常的に把握できにくいことから発生してくる問題である。統合化が比較的

小規模の場合、各部門の役割・機能は日常的に把握しやすいと思われるが、大規模になればなる

ほどそれを日常的に把握することが難しくなってくる。  

例えば、図書館、計算機センターといった組織を大規模に統合していく方法が考えられる。し

かし、この方法は個々の大学の多様性を考えた場合、全ての大学が同じ方向で組織化を進めてい

くことは難しいと判断する。また統合型のもう一つのあり方として、各部門の情報システム機能

だけを抽出し、統合する方法が考えられる。この方式での課題は、情報システム部門と各部門の

活動、役割等を日常的に把握し、あわせて学内コンセンサスを取りまとめていく会議体等を整備

していかなければ個々の機能が活性化しなくなる危険性がある。

一方、分散型の場合、組織間の連携・調整を日常的に図っていくことが難しく、各部門のシ

ステムはとかく別個のものとなりがちである。結果としてシステムの総合性を追求していくこと

が困難となり、利用者にとっては徐々に使い難いシステムとなってくる。また各部門が重複した

システムの構築やデータ構築を行っていくことにより経費の無駄や人材不足の問題が起こり、さ

らにはネットワークを通しての一元的な情報の管理・把握ができなくなるなどの問題が起こって

くる。分散型の場合は、これらのことを踏まえ、全体のコンセンサスを図っていくための会議体

をいかに形成していくかが重要になってくる。

 

4.最後に

社会情勢が急激に変化しているなか、また「独立行政法人化」をはじめとする高等教育機関

のかつてない変革が予想されるなか、そして21世紀にむけてますます大学間競争が激しくなっ

てくることを考えた場合、個々の大学においては時代に即した組織改革をこれまで以上に積極的

に展開していかなければならないであろう。そこで重要なポイントは情勢の急激な変化に柔軟に

対応できる組織を構築していく必要があり、それには大学の戦略を速やかに企画・立案・実行で

きる機能を有していなければならないと考える。つまりどんな組織においても、今後最も重要に

なってくる点は企画・立案の機能を高度化していくことであり、その機能を有しているか否かで

組織の発展も大きく異なってくることになるからである。

大学図書館においても先に述べたように変革が様々に問われており、社会情勢や大学の変革

を敏感にキャッチし、時代に即した組織改革を継続的に展開していく必要があるが、もう一つの

変化として、アウトソーシングの課題がある。業務委託化が進展していくにつれて、これまでの

専任職員の任務が大きく変化してくることになる。日常業務のアウトソーシングが進めば、専任

の役割は、業務管理、進捗管理、人事管理などのマネージメントが主要な任務となる。しかしそ

れのみを主とするだけでは組織は停滞していくため、先に述べたように重要な任務として主体的

に企画・立案を行っていく必要がある。アウトソーシングが進んでいく過程で、このことを大学

図書館として戦略的に高度化を図っていくためには、従来の図書館内の組織も大胆に見直す必要

が出てくるであろう。

                                        

<参考文献>

1)原田勝、田屋裕之編『電子図書館』東京、勁草書房、1999

2)郷端清人“図書館システムとセキュリティ”『情報の科学と技術』50(2)2000.2

3)郷端清人“大学の情報化が職員をどう変えるか”『大学職員ジャーナル』1999年度版

4)Christel MAHNKE“図書館における情報サービスとドイツのインターネット”文部省科学研究

 費補助金基盤研究(A2):課題番号10044018

以上