7.1 文献学概説

 

聖徳大学教授 和泉 新

 

1. 文献学とはいかなる学問か。

 ことばとして、いま明治期に渡来した philologie の訳語としての「文献学」を思い浮かべる人は少ないであろう。僅かにその方法に注目しての「文献学的」ということばに痕跡を留めているだけだからである。

2. 文献の意味

 文献のことばは『論語』に「殷礼吾能言之、宋不足徴也。文献不足故也。」と見えるのが最初の用例であろう。朱子の注には「文、典籍也。献、賢也」とあり、「文献」と熟したのは元・明代で、現在とほぼ同じ意味で用いられた。例えば、元の馬端臨に『文献通考』があり、明初に編纂された『永楽大典』の原名が『文献大成』であったことからも窺い知れる。

3. 文献の定義

 狭義には「甲骨学、金石学、簡牘学、敦煌学などの古文献学、考古学」をいい(『中国図書館図書分類法』)、広義には「歴史的価値を有する諸々の資料(図書を含む)」をいう。 いずれにせよ、現代の文物、図書は対象にしていない。

4. 文献学の役割

 

5. 文献の類型

5.1  紙以前の文献(博物館資料)

5.11  粘土板

5.12  貝多羅葉

5.13  パピルス

5.14  羊皮紙

5.15  亀甲獣骨            甲骨文

5.16  金石 金文、石鼓文(石刻文)  金石文

5.17  簡牘 簡冊、版牘        大篆、小篆、隷書

5.18  帛書              大篆、小篆、隷書

5.19  石経(石刻図書)        隷書、楷書

5.2  紙の発明以後の文献(博物館資料・図書館資料)

5.21  ■本、拓本

5.22  写本

5.221  巻子(巻軸)

5.222  梵夾装

5.223  旋風装

5.224  綴葉装(列帖)

5.225  大和綴じ

5.23  印本

5.231  刻本、活字本

5.232  官刻本、家刻本、坊刻本

5.233  胡蝶装(粘葉)、包背装、線装

 

6. 類似諸学

6.1  校讐学

6.2  目録学

6.3  版本学

6.4  経学   孔子編纂の『六経』→『四書』『五経』の注釈学

6.41  訓詁学

6.42  注疏学

7.古代文献の記録と蔵書目録

7.1 『漢書』芸文志・『隋書』経籍志・『旧唐書』経籍志・『唐書』芸文志・『宋史』    

    芸文志などの正史の経籍・芸文志

7.2 『四庫全書総目』

7.3 『京都大学人文科学研究所漢籍分類目録』(1963)

7.31 『東京大学東洋文化研究所漢籍分類目録』(1973)

7.4 『静嘉堂文庫漢籍分類目録』(1930)

7.41 『内閣文庫漢籍分類目録』(1956)『改訂内閣漢籍分類目録』(1971)

7.5 『東洋文庫漢籍分類目録』

7.6 『京都大学人文科学研究所漢籍目録』(1979)

7.61 『国立国会図書館漢籍目録』(1986)

7.62 『東京大学総合図書館漢籍目録』(1995)

7.7 『上海図書館古籍善本書目』(1957)

7.71 『上海図書館善本書目』(1959)『北京図書館古籍善本書目』(1987)