2.1  学術情報ネットワークの現状

学術情報センター事業部ネットワーク課国際情報専門員

大 山  貢

 

1.学術情報ネットワークの概要

 学術情報ネットワークは,学術情報センターが事業展開している目録所在情報事業,情報検索事業の情報通信基盤であるとともに,全国の大学等の研究者の研究活動を支援する情報流通基盤として,学術情報センターの創設当初から基本事業の一つとして構築・整備されてきている。
 この学術情報ネットワークには,インターネットの基幹網である「学術情報ネットワーク・インターネット・バックボーン(SINET:サイネットと呼ぶ)」, ATM方式による通信をサービスするための「ATM交換網」,そして汎用計算機やG4Fax等をパケット交換方式によって接続する「パケット交換網」の3つのサービスが存在する。
 これらの通信サービスは,学術情報センターと全国31か所(平成10年度に3機関増加)の通信拠点に設置された通信機器等を超高速な通信回線で接続することによって運用されている。

 

2.学術情報ネットワークの整備

(1)第一期(パケット交換網の整備)

 学術情報ネットワークの第一期整備計画は,昭和61年度から開始された。当時,通信回線を効率的に使用でき,且つ,当面の学術研究の応用に広く応えることができるものとしてパケット交換方式(ITU-T勧告のX.25(76年版または80年版)に基づく)を採用した。
 また,通信回線は,日本電信電話株式会社から提供が開始されていた高速ディジタル専用回線を利用することとし,これに学術情報センターが購入したパケット交換機等を接続する私設パケット交換網の構築・運用を実現することとなった。
 昭和61年度の,東京大学,名古屋大学,大阪大学,京都大学及び学術情報センターの5か所を皮切りに整備計画を進め,年次計画で順次拡大することとなった。平成3年度に学術情報センター他全国28カ所にパケット交換機及び時分割多重化装置等の通信機器を配置した「学術情報ネットワーク・パケット交換網」の整備が一応完了した。
 また,この間に,パソコン等の端末から加入電話網を介して学術情報ネットワークを利用するためのアクセスポイントを学術情報センター他6カ所(北海道大学,東北大学,名古屋大学,大阪大学,広島大学,九州大学)に配置し,現在も運用されている。

(2)第二期(インターネット・バックボーン(SINET)の整備)

 1990年代初頭,国内外においてTCP/IPという通信手順(プロトコル)を採用したインターネットが急速に進展してきた。これに,コンピュータ等のダウンサイジングが相まって,高速・高機能のパソコンやワークステーションの利用が一般化し,大学等の研究機関においてもキャンパス情報ネットワーク(学内LAN)等の情報通信環境の整備が急速に進展してきた。このような動向の中で,TCP/IPにより学内LANを接続するために,新たに専用の基幹通信網を構築・運用することが必要であると判断された。
 この新たな基幹通信網は「学術情報ネットワーク・インターネット・バックボーン」と呼び,SINET(サイネット)と略称することとした。平成3年12月には,既存のパケット交換網に加えて,学術情報センター他8大学(北海道,東北,筑波,東京,名古屋,京都,大阪,九州の各大学)にSINET用ルータを配置し,128Kb/sないし256Kb/sの高速ディジタル専用回線を使用したSINETの試行運用が行われた。平成4年4月からは本格的な運用が開始され,以降,SINETについては,学内LANの高速化,接続形態の多様化及び加入機関の増大に対処するため,回線容量の増強とともに通信設備の充実を順次図っており,現在では,基幹部分では150Mb/s相当の帯域による運用が行われている。 

(3)第三期(ATM交換網の整備)

 インターネットの普及とともに大学等における情報通信環境が一層整備され,学術情報ネットワークへの通信需要の増大が加速されてきた。それに対応するため,緊急に学術情報ネットワークの高度化・高速化を検討することとなり,その結果,従来の二つの通信網(パケット交換網,SINET)を独立に高速化することは経済的ではなく,通信網の統合化を図ることが有効と判断し,次世代通信の基盤技術として特に注目されているATM方式(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)を採用したネットワークに移行することとなった。
 平成5年度に,学術研究環境の基盤整備の一環として,学術情報センターと28拠点にATM方式を採用したマルチメディア多重化装置を導入した。さらに,平成7年度に,既存のマルチメディア多重化装置よりも高性能・高機能なATM交換機を学術情報センターと28全ての拠点に導入し,大幅な増強が行われた。
 また,同年度には,全国の大学等にもATMネットワークシステム(ATM-LAN)が導入され,学術情報センターのATM交換機は,それらの接続を図り,広域ATM交換網の構築を目指すためのものでもあり,平成10年度現在で42機関のATM-LAN接続が行われ継続して実施されている。

3.ネットワークの運用

 学術情報ネットワークは,学術情報センターと全国の31拠点に通信機器を配置するとともに,その拠点間を通信事業者が提供する高速ディジタル専用回線で接続し,運用している。設置している通信機器は,パケット交換網用の「パケット交換機」と「パケット集線装置」,SINET用の「集合型IPルータ」,それらの通信をATMセル化し,通信するための「セル組立分解装置(CLAD)」と「マルチメディア多重化装置」,さらに,それら全てを統合して高速回線で通信すると共に,各大学の学内ATM交換機を接続し広域ATM交換網を構築するための「高性能ATM交換機」である。これらを,ネットワーク構成および拠点の規模に合わせ適切に配置し運用を行っている。
 また,これら多くの数と種類の通信機器によって複雑に構成されている学術情報ネットワークの機器構成全体を統合的に管理し,ネットワークの信頼性と迅速な障害対応を図り,運用の安定性の向上を図るため,学術情報センター千葉分館にネットワーク統合管理装置を導入し遠隔によって運用管理を行っている。 

4.学術情報ネットワークへの加入機関

学術情報ネットワークの加入機関については,「学術情報ネットワークの加入に関する規則」及び「学術情報ネットワークの加入に関する細則」により,下記の機関の加入を認めてきた。

  (1)国,公,私立等の大学,短期大学,高等専門学校,(2)大学共同利用機関,(3)文部省及
  び文化庁の施設等機関,(4)国公立試験研究機関,(5)特殊法人の研究所,(6)学術研究法人,
  (7)大学に相当する教育施設,(8)研究助成法人,(9)学会,(10)学術情報センターの目録所在
  情報サービスの加入が認められた機関,(11)その他前各号に準ずると認められる機関,
  (12)所長が特に認めた機関
 現在の加入機関数は,平成11年3月末日で,パケット交換網:179機関,SINET:697機関,全体で764機関が加入している。

5.ネットワークの国際展開

 ネットワークの国際展開は,昭和63年度に米国ワシントンに学術情報ネットワークの延長が認められ,同時に米国国立科学財団(NSF)との国際共同研究が開始されたのをはじめとしている。
 平成元年度には英国への延長のため,英国図書館(BL)にネットワーク機器を設置し,情報検索サービス(NACSIS-IR)の代行検索サービスを実現するとともに,平成2年度には,英国の代表的な研究ネットワークであるJANETとの接続を実現した。これを利用し,平成3年からは,英国図書館と5か所の大学図書館(ケンブリッジ,オックスフォード,シェフィールド,スターリング,ロンドンの各大学)の間で目録所在情報サービス(NACSIS-CAT)のパイロットプロジェクトが開始され,これらの機関は,平成7年から正式参加機関となっている。
 さらに,アジア地域との学術情報交流が重要との認識のもと「学術情報センター・タイプロジェクト3年計画」を開始した。このプロジェクの推進とアジア地域との学術情報の流通を促進するために,平成7年度にタイ王国との間に国際専用回線が新設された。
 平成8年度は,欧米への通信需要の増加に対応するため,英国への国際専用回線が増強されている。
 これまでに,学術情報センターには,米国,英国,タイ王国への国際専用回線が設置されており,整備増強を図ってきている。その中で,特に米国回線は通信需要が突出しており,平成7年度,9年度と増強が図られており,平成10年度には,150Mb/s相当の帯域による通信が可能となり大幅に増強されたが,今年度以降も更に増強していく必要がある。

6. 学術情報ネットワークの課題

(1) 通信回線の高速化とネットワークの信頼性の向上

 研究者間の情報流通のネットワーク利用の増加は勿論のこと,学術情報センターをはじめ全国規模で開始されようとしている,電子図書館サービスや既に実施されている各図書館でのWWWホームページの開設,OPACのインターネットでの公開サービス等の情報サービスのインターネット利用が一般的になった現在,学術情報ネットワークを流れる情報量は増加の一途を辿っている。これらの状況を踏まえ,今後一層の回線増強が必要となってくる。
 また,インターネットの一般化と研究活動への依存度の増加に伴い,十分な帯域による信頼性のある安定したネットワーク運用が求められてきている。これらに対応するため最新鋭で信頼性のある通信機器への対応,冗長度のある回線構成等による止まらないネットワークを構築する必要がある。また,運用面では障害対応等についても十分に検討する必要があり,現在は24時間の障害受付を実施し,故障時の迅速な回復作業を行うことにより,止まらないネットワーク構築への努力を行っている。
 さらに,昨今問題となっているメール爆弾(SPAMメール等)等を代表とするネットワークセキュリティー問題についても積極的に対策をとるとともに,SINET利用者への防御体制,教育等の啓蒙活動も行っていく必要がある。

(1) ネットワークの相互接続性の向上

 学術情報流通のグローバル化の進展に伴い,研究者の通信要求が学術情報ネットワークの中だけではなく,海外・国内と問わず広く他のネットワークへと進んでいる。これまでは,その需要に見合うだけの接続性を確保できていなかったが,平成10年度は,民間ネットワークとの相互接続点を新たに設けたのを始めとして,省際研究ネットワーク(IMnet)等との相互接続回線の増強も図り,対米国際回線の増強とともに国内の他のネットワークとの相互接続の大幅な増強を図った。今後も,国内・国外ともにシームレスな通信を確保するため,一層の増強を行っていく必要がある。