1.5 大学図書館サービスの在り方
図書館情報大学 永田治樹
現代はサービス化社会である。「もの」をつくる第1次、第2次産業から、第3次産業への移行はなお進展している。またものをつくる産業でも、商品開発やデザインなどのいわばサービス部門が拡大している。このように増殖し続けるサービスとはどのような活動か、そして、「情報」に関わる図書館サービスとはどのようなものなのかを考察し、またサービスに関する経営上の諸問題を踏まえて、大学図書館におけるサービスの在り方について述べる。
1.図書館サービスと
1.1サービスのエコノミー
・財(「もの」)とサービス
「サービスとは、ある特定の人たちが、他の人に対して提供できうるあらゆる活動や利益のことで、それらは本来無形のものであり、したがって何かの所有権をもたらすというものではない。サービスにより生み出されるものは、物的製品に結びつく場合もあるし、結びつかない場合もある。」(P. コトラー)
サービスの性質 @無形性 「もの」ではない→流通も在庫もない (cf.消滅性) 顧客に提示できない→顧客はリスクを負う A生産と消費の同時性(対象が人の場合) サービス生産の時間と場所の重要性 B顧客との共同生産{cf.多様性} 顧客の役割拡大 |
・サービスの構成要素(近藤隆雄)
コアサービス + サブサービス + コンティンジントサービス (サービス項目)
具体的サービス項目の提供(態度変数、物システム) (サービス活動)
顧客 (サービス経験)
・サービスの分類(@人が基本になっているか、あるいは道具が基本になっているか、A顧客が
その場にいる必要があるかどうか、B顧客の購買動機はどこにあるか、Cサービス提供者の動
機はどこにあるか)
1.2 「もの」とサービス、それに情報
・「もの」とサービス
人々は「もの」とサービスを消費して生活する。
サービス消費では外から購入する場合と自給する場合がある(コストの差、サービスに対する
ニーズは多様(効率化が困難)、サービスの供給に必要な能力と設備)
消費のサービス化の原因(ライフスタイルの変化=余暇活動指向、質の高いサービスへの要請、
等々)
・情報とサービス
情報は「もの」ではない。「もの」と結びついている場合があるが、それは媒体に過ぎない。
また、情報はサービスでもない(情報は静的な概念であるが、サービスは機能であり、動的概念
である(井原哲夫))
情報は「もの」に体化する形でストックできるし、サービスもときに製造業製品として体化され
るが、情報はそれからとりだすことができるのに、サービスはそうすることはできない。
サービス供給に情報はものと同じように欠かせない要素である。
サービス生産 人 もの ← 価値生産活動 (サービス) 情報 |
・サービスの生産活動と情報技術
1)サービスの提供者と消費者とを結ぶ情報(コミュニケーション)→カスタマイゼーション等
の実現
2)デリバリーシステム→時間と場所の枠の撤廃
3)情報提供というサービス
1.3 図書館サービスとは
・図書館サービスのコア
図書館サービスは、第一義に情報を提供機能である。大学図書館では、とくに「資本財的な」情
報の提供に力点がある←学術情報の循環
情報の類型(野口悠紀雄) @事柄の不確実性を減らすような情報:手段的に利用できる資本財的な性格を持つ。体系的にまとまっているプログラム情報(理論、技術、ノウハウなど)や個別のデータ情報があり、文字、図形、映像などに記号化されることで「もの」的な特徴を持つ。 A不確実性の増減には関係ない情報:表現されること自体が人間にある価値的な効果を生むもので、消費財的情報で、情報発信活動そのものが人間に価値を生み出すので「サービス財的情報」である。文学、絵画、映画などは「もの」として表現されるが、パフォーマンスとして表現される場合はサービス活動と同様だが、CD,フィルムなどによって「もの」にも転換される。 |
用など)がセットとなっている。⇔食事サービスを行うレストランは、食料品を加工し(ここま
では「もの」)、かつそれを味わう環境やもてなしをサービスとして提供する。
図書館の情報サービスは、本源的には図書という「もの」に体化された情報を提供する業態であ
る。しかし現在、新しい情報媒体(情報ネットワークによってデリバリー方法に根本的な変更が
生起している)の出現によって、その在り方が変わりつつある←デリバリーシステムの技術革新
2 サービス・マネジメント
2.1 サービス市場と顧客価値
・サービス市場の性質(価格・品質・時間・場所)
「もの」は価格と品質により、需給が判断されるが、サービスではそれに時間と空間の要素が絡
む。さらに、その価格や品質の働き方も異なった面がみられる。
サービスは地域性がある(空間で分断)
→過剰需要と過剰供給
需要と供給の調整戦略(W. E. Sasser) 需要の面 1.価格に差をつけることにより、ある需要をピーク時からピーク 時でない時間帯へ移行することができる。 2.暇なときの需要も開拓することができる。 3.ピーク時に待たせている顧客に対して、代わりの手段として提 供される補助的サービスが開発されるとよい。 4.予約システムは需要の度合を調整する一つの方法である。 供給の面 1.需要のピーク時をこなすためには、パートタイムの従業員を雇 うとよい。 2.ピーク時の能率的な所定業務を決めておくとよい。従業員はピ ークの間、必要業務でけを実施する。 3.消費者も業務に加わるような方向にもっていくこともできる。 4.サービスを共有することも考えるべきである。 5.将来の需要の拡大に備えて施設をととのえておくことも必要で ある。 |
サービスの価値 ・サービス価値=サービスの品質(結果と過程)/(価格 + 利 用コスト) ・サービスの品質=サービス実績 − 事前期待 |
@アクセス、A外観、B雰囲気、Cアベイラビリティ、D清潔、E快適、Fコミュニケーション、
G丁重さ、H信頼性、I友好性、J確実性、K安全性、L物的条件、M理解
2.2 サービス生産システム
・五つの構成要素(R. ノーマン)
@マーケット・セグメンテーション⇒大学コミュニティ
Aサービス・コンセプト(何が図書館サービスか)
1)特別な能力の提供(代行サービス)、2)資源の新しい結合(付加価値の創造)、
3)ノウハウの移転、4)経営の提供 基本的サービスの見直し!
Bサービス・デリバリーシステム
人材の役割、技術の役割、顧客の役割
C イメージ
メッセージであり、有効な影響を及ぼすもの
D組織文化
1)品質と卓越性、2)顧客志向、3)人的資源への投資
2.3 新しい業態(サービス)の展開
サービス・コンセプトの再確認・定義(何を図書館サービスとするか)
顧客との合意←大学図書館(組織と市場)
リーズ・メトロポリタン大学のサービス水準協定 8領域 (提供されるサービス、教員の要求点、モニタリング方法) ・顧客ニーズの把握 ・サービス時間 ・研究・学習環境 ・図書館資源 ・ILL ・情報に関するスキル ・情報サービス ・複写サービス |
大学図書館サービスとその展開様式の必然(要)性を理解する。
(←大学という組織、コミュニティの問題)
ルーティンを見直し、何が求められているかを理解し、品質・時間を考慮しサービスを提供する。
参考文献
井原哲夫.サービスエコノミー.第2版.東洋経済新報社,1999.
近藤隆雄.サービスマネジメント入門.生産性出版,1995.
永田治樹.「図書館のマーケティング」情報の科学と技術.Vol.49, No.2, 1999.2.
野口悠紀雄.情報の経済理論.東洋経済新報社,1969.
Hernon, Peter & Altman, Elle. Service Quality in Academic Libraries. Norwood, N.J., Ablex Pub., 1996.
Kotler, Philip. Marketing Essentials.『マーケティング・エッセンシャルズ』宮澤永光他訳 東海大学出版会,1986.
Norman, Richard A. Service Management : Strategy and Leadership in Service Business. 近藤隆雄訳『サービス・
マネジメント』NTT出版,1993.
Pinder, Chirs & Melling, Maxine, ed. Providing Customer-oriented Services in Academic Libraries. London, LA, 1996.
Zeithaml, Valarie A., Parasuraman, A. & Berry, Leonard L..Delivering Quality Service : Balancing Customer
Perceptions and Expectations. New York, Free Press, 1990.