5.3  目録所在情報サービスの現状と今後

            学術情報センター事業部目録情報課課長補佐  酒井 清彦


1.はじめに
目録所在情報サービスは,参加する図書館が所蔵する資料の書誌情報と所在情報をオンライン でデータベース化する仕組み(目録システム:NACSIS−CAT)と,この仕組みを通して 作成された所在情報データベースを利用して,それぞれの図書館が自館で所蔵していない資料を 相互に提供する「図書館間相互協力」を迅速に実施するための仕組み(ILLシステム:NAC SIS−ILL)とから成り立っている。
さらに,学術雑誌についてはNACSIS−CATに参加していない研究所図書館・図書室, 専門図書館,公共図書館等の所蔵資料に関する所在情報を,全国一斉調査を実施して収集し(学 術雑誌総合目録編集事業),目録所在情報サービスのデータベースに反映させ,かつ冊子体「学 術雑誌総合目録」を作成している。
ここでは,上記の目録所在情報サービスにおけるデータベース(以下「総合目録データベース 」という)作成に関わる現状と今後の動きについて紹介する。

2.目録所在情報サービスの目的
増大する学術情報の中から研究者が必要な情報を迅速的確に入手することができるように,情 報の蓄積と提供の仕組みを早急に確立する必要があり,そのために学術情報システムを整備すべ きである,とした昭和55年の学術審議会答申「今後における学術情報システムの在り方につい て」を受けて目録所在情報サービスが構築された。
目録所在情報サービスは学術情報(特に図書館が所蔵する図書・雑誌)が円滑に流通するため の支援をすることを目的として設置され,どんな資料(図書・雑誌の書誌情報)がどこにあるか (図書・雑誌の所在情報)を蓄積する機能と,こんな資料がほしい(図書・雑誌論文等の資料の 入手要求)に迅速に対応する機能を持つことになった。前者の機能に対応するものとしてNAC SIS−CATが昭和59年度から,後者に対応するものとしてNACSIS−ILLが平成4 年度から提供されている。
NACSIS−CAT及びNACSIS−ILLが一体となって運用される目録所在情報サー ビスは学術情報資源の共有と相互利用を促進する基盤となっている。

3.総合目録データベースの作成
3.1 NACSIS−CAT
3.1.1 特徴
(1)共同分担目録方式の採用
従来のように各図書館毎に目録を作成するのではなく,総合目録データベースという大 きな一つの世界の中で目録を作成することになる。参加図書館の目録担当者がオンライン で目録情報を作成・修正する。共同分担で作成された目録情報は各参加図書館の共有資源 として位置付けられる。
(2)レコードの作成単位
目録情報を共有するために「1書誌1レコード」「1典拠1レコード」の原則を前提と している。さらにこのレコード同士がお互いに関係づけ(リンクという)されている。
(3)「固有の標題」
資料の目録作業をするにあたって,書誌レコードを作成することができるかどうかを判 断するための基準であり,「1書誌1レコード」の原則を実践するために各参加図書館に 共通に理解されている。
3.1.2 運用
(1)データベースの更新
総合目録データベースは,各参加図書館のオンライン目録作業が即時に反映される。 参照ファイルは,各MARC作成機関からのデータに基づき定期的に更新される。
(2)データベースの品質管理
「目録情報の共有」を確実にするために,重複レコードの統合やレコード作成に関わる 参加図書館との調整を行なっている。
(3)遡及入力
参加図書館の全蔵書データベース化(OPAC対応)を支援するため,入力上のコアと なる書誌をセンターであらかじめ作成する。
全学問分野にわたる標準的な蔵書あるいは特定の言語が集中している蔵書を対象として 実施している。
3.1.3 現状
(1)参加機関の状況 (設置者別,規模別,接続方法別)
(2)データベース登録状況
(3)同時接続端末台数の推移
(4)教育・研修活動

3.2 学術雑誌総合目録(以下「学総目」という)データベース
3.2.1 編集方法の推移
(1)手作業による編集(昭和20年代から40年代)
目録カードによってデータを収集,編集を行う。
(2)バッチ処理による編集(昭和50年代)
データシートを用いて全国一斉調査を実施し,コンピュータによってデータ編集する。
手書きOCRや磁気テープによる所蔵データの報告に対応したシステムの運用を行う。
(3)オンラインによる編集(昭和60年代から)
NACSIS−CATの雑誌データベースとしてセンター内のみならず各参加図書館か らもオンライン更新を行えるようになっている。
3.2.2 特徴
(1)参加図書館の広がり
学総目データベースにはオンライン接続館以外の図書館の情報も数多く存在している。
データ収集方法もオンライン,データシート,磁気テープの他にCD−ROMを利用し た方法も採用されている。
(2)レコードの作成単位
レコードは「個別誌名記入方式」によって,タイトルに変更があった場合そのタイトル 毎に書誌レコードが作成される。
(3)誌名変遷マップ
個別誌名記入によって作成された書誌レコード同士の相互関係をデータベース上で表現 している。
タイトルがどのように変遷したかが一目でわかる。

4.総合目録データベースの利用
4.1 NACSIS−ILL
4.1.1 特徴
(1)総合目録データベースの参照
NACSIS−CATで作成された最新所在情報に基づいて文献複写・貸借の依頼がで きる。
(2)自動転送
最初の依頼先で謝絶された場合に,自動的に次の依頼館に転送されるので,改めて依頼 データを作成する作業と時間を省くことができる。
(3)処理状況の確認
依頼したデータが現在どのような状況になっているかオンラインで参照することができ る。
(4)情報検索サービス(NACSIS−IR)との連動
IRデータベースを検索中に入手したい情報が表示された場合,ユーザはIRシステム から所属の図書館に文献複写等の依頼をすることができる。(REQUESTコマンド)
(5)外部機関への依頼
BLDSCや国立国会図書館へILLシステムを経由して文献複写等の依頼をすること ができる。
4.1.2 現状
(1)参加機関の状況
(2)ILLレコード件数
(3)REQUESTコマンド利用件数
(4)BLDSC利用状況
(5)国立国会図書館利用状況

4.2 個別版CD−ROMサービス
パソコンで総合目録データベースにデータを登録しているが,ローカルシステムではまだOPACを提供していない比較的小規模の図書館向けのサービス。
パソコンとCD−ROMドライブがあればOPACができる。
4.2.1 概要
・年1回もしくは年4回の更新
・収納可能件数:所蔵件数12万件まで
・2種類の検索方式が用意されている。
 ブラウジング・リスト方式,キーワード方式
4.2.2 現状

5.新CAT/ILLシステム
5.1 目的
(1)オープンシステムへの対応
ダウンサイジング,ネットワーキング等の技術に対応して柔軟なシステム構成がとれる ようにする。
(2)多言語資料のデータベース化への対応
文字コードの国際的標準化(JIS X0221の制定)を受けて,目録所在情報サー ビスにおいて世界各国の学術資料を統合的に取り扱うことを可能にする。
5.2 スケジュール
第1期 XUIPの開発と提供
   (開発:平成4年度〜平成6年度,提供:平成6年度〜)
  XUIPは新CAT/ILLシステム及び新UIPができるまでのシステム。
第2期 データベースのサーバ移行
   (開発:平成7年度〜平成8年度,実施:平成8年末)
  データベース及びデータベース管理システムを汎用機から分離させる。
  オープンシステム化への第一歩であり,同時に接続端末数の確保も考慮している
。   データベースの即時更新を実現させる。
第3期 新CAT/ILLシステム及び新UIP(第1次)の開発と提供
   (開発:平成7年度〜平成9年度,提供:平成9年度〜)
  クライアント・サーバ型のシステム。
   クライアント(新UIP)とサーバの間のやりとりには,CATPという新しい   プロトコルを採用している。このプロトコルでの通信単位はレコード群になってい   る。
   クライアント側には図書館及びシステムベンダーが自由に裁量できる部分を用意   する。そのためのガイドラインを提示する。
第4期 新CAT/ILLシステム及び新UIP(第2次)の開発と提供
   (開発:平成10年度〜)
  多言語資料への対応を行う。
  データベース管理システム及びアプリケーション・インターフェイスを世界標準文  字コード(JIS X0221)に対応させる。

6.今後の課題
6.1 国際展開
(1)アジア
(2)ヨーロッパ,アメリカ等
(3)国際的な書誌ユーティリティとの関係
6.2 ドキュメント・デリバリー
(1)国内でのデリバリー体制の整備
料金決済方法の改善,学内体制の整備
(2)国際間でのデリバリー体制の確立
ILLシステムとのリンク,受け入れ体制の整備,料金決済方法の改善
6.3 総合目録データベースの充実
(1)多言語資料
中国語,韓国・朝鮮語の取り扱い指針の策定
(2)品質管理
書誌調整への対応,目録担当者の教育・研修
(3)遡及入力
各図書館で作成済みのデータの取り扱い,MARCの充実
(4)学総目データベースの調査・更新
更新サイクルの短縮,調査方式・データ公開方法の多様化