5.2  学術情報センターにおけるデータベースの形成と利用

    学術情報センター事業部データベース課課長補佐  加徳 健三


I.データベースの形成  学術情報センターでは,特定の大学等の機関において作成することが難しい大型学術情報デー タベース等の形成について中心的な役割を果たすこととしている。
 (以下の説明では,目録所在情報データベース,Japan-MARC, LC-MARC 等の目録データベースは省略)

1.作成データベース
 創設当初から,我が国固有の学術情報データベースを形成することを目標の一つとして事業を 展開しており,文部省,大学,学協会等の協力及び独自の調査に基づいて,オリジナルなデータ ベースを作成している。
 現在17種類のデータベースを継続的に作成しており,データ作成件数の累計は約180万件。

 ・科学研究費研究成果概要データベース(文部省から原資料を入手)
・科学研究費補助金採択課題データベース( 〃     )
・学位論文索引データベース     (大学及び学位授与機構の協力)
 ・学会発表データベース       (参加学会からデータシート購入)
 ・データベースディレクトリ     (学術情報データベース実態調査)
 ・学術論文データベース第一系  
  (電子学術論文データベース)−− 
 ・学術論文データベース第二系  | (学会誌のCTS,SGMLデータ変換)
  (化学全文データベース)  −−
 ・学術論文データベース第五系  
 ・学会予稿集電子ファイル      (参加学会から予稿集を入手,許諾料支払)
 ・経済学文献索引データベース    (経済資料協議会と共同作成)
 ・臨床症例データベース       (参加学会から原文献を入手,許諾料支払)
 ・海外研究プロジェクトデータベース (先進7か国共同プロジェクトEXIRPTS )
 ・民間助成研究成果概要データベース (参加財団から原資料を入手)
 ・研究者ディレクトリ        (学術研究活動調査)
 ・学術関係会議等開催情報      (日本学術会議から冊子入手)
・学術雑誌目次速報データベース   (大学図書館等からのデータ提供)
  各大学等機関の刊行する学術雑誌の論文の目次情報を,当該機関の図書館でデータ作成
  ファイル転送,電子メール,フロッピーディスク等で学術情報センターが収集・データベース化
・引用文献索引データベース(理工学系)(平成7年度から作成開始)
2.データベースの導入  大学共同利用機関という本センターの性質から, 主に各大学が個々に導入することが困難な大 規模データベースを導入。
 昭和62年度のNACSIS-IRのサービス開始に先立ち, 本センターの前身である東京大学文献情報 センターにおいて, 特に海外のデータベースの中から導入すべきものの調査と選定を実施。

 (1) 海外で作成されているデータベース
 昭和62年度から運用
 ・Life Sciences Collection (米国 Cambridge Scientific Abstracts)
  ・MathSci         (米国 American Mathematical Society)
  ・ISTP & B         (米国 Institute for Scientific Information)
  ・Harvard Business Review   (米国 John Wiley & Sons)
  ・COMPENDEX PLUS   (米国 Engineering Information)
  昭和63年度から運用
 ・EMBASE        (オランダ Elsevier Science)
 ・SciSearch      
  ・Social SciSearch     (米国 Institute for Scientific Information)
 ・A & H Search    

  ○ 契約:ライセンス料(基本料金)+4半期毎の使用料

 (2) 国内で作成されているデータベース
 〔国立国会図書館〕(平成4年1月覚書 以降改訂し,相互協力協定締結)
  ・雑誌記事索引データベース
  ・国会図書館科学技術欧文会議録データベース
  ・国立国会図書館洋図書データベース
 〔総務庁〕(平成元年3月申し合わせ 磁気データの省庁間利用促進)
  ・現行法令データベース
 〔奈良国立文化財研究所〕(平成4年6月覚書)
  ・木簡データベース
 〔北海道大学附属図書館〕(平成8年5月覚書)
  ・北海道大学北方資料総合目録データベース
 〔東京大学史料編纂所〕(平成3年10月覚書 平成6年12月改訂)
  ・維新史料綱要データベース
  ・古文書目録データベース
 〔東京大学附属図書館〕(平成6年1月覚書)
  ・大型コレクションディレクトリ
 〔日本工学会〕(平成5年5月覚書)
  ・学協会集会スケジュール
 〔国際医学情報センター〕(平成7年11月覚書)
  ・日本の医学会会議録データベース
 〔助成財団資料センター〕(データ購入)
  ・民間助成決定課題データベース

3.大学等の研究者等提供データベース受入事業(平成2年4月〜)
 大学等の研究者が文部省科学研究費補助金(研究成果公開促進費)等で作成するデータベース は,高度な専門性が特徴。
 「学術情報流通の拡大方策について(報告)」において,大学等の機関及び研究者作成データ ベースで利用範囲の広いものについては学術情報センターで受け入れ,全国提供を図るよう指摘。

 ・学術情報センターにおける大学等の研究者等提供データベースの受入要項
  ・学術情報センターにおける大学等の研究者等提供データベースの受入に関する技術仕様

 〔日本家政学会〕
  ・家政学文献索引データベース
 〔RAMBIOS刊行会〕
  ・RAMBIOS
 〔横浜国立大学化学データベース委員会〕
  ・化学センサーデータベース
  ・電気化学データベース
 〔日本独文学会〕
  ・日本独文学会文献情報データベース
 〔北海道大学スラブ学文献研究会〕
  ・スラブ地域研究文献データベース
 〔日本文化財科学会文献目録委員会〕
  ・文化財科学文献データベース
 〔日本化学会化学と教育誌データベース推進小委員会〕
  ・化学と教育誌データベース
 〔日本音楽国際交流会〕
  ・現代邦楽作品データベース
 〔日本建築学会〕
  ・日本建築学会文献索引データベース
 〔東洋文庫附置ユネスコ東アジア文化研究センター〕
  ・中央アジア研究文献索引データベース
  ・中東・イスラーム研究文献データベース
  ・アジア歴史研究者ディレクトリ
  ・印度学・仏教学研究者ディレクトリ

4.調  査
 ・学術情報データベース基本調査        (昭和61,62年度)
 ・データベース利用動向調査          (昭和61年度)
 ・全文データベースのシステムに関する現状調査 (昭和61年度)
 ・情報検索サービス実態調査          (昭和62年度)
 ・地名関連データベースに関する調査      (昭和63年度)
 ・学術情報データベース開発に関する需要調査  (昭和63年度)
 ・学術情報データベース実態調査        (昭和63年度〜)
 ・NACSIS-IR利用端末調査           (平成3年度)
 ・学術研究活動に関する調査          (平成4・5年度,平成7年度〜)
 ・統計データに関する利用動向及び需要調査   (平成6年度)
 ・海外学術データベース調査委員会       (平成8年度)

5.システム開発及びデータロード等
 (1) データベース形成システム
  ○データを検索に最適な形式に変換するためのソフトウェア(インプットプロセッサ)の開発。
  ○日本語データ処理(分かち書き,キーワード抽出,フリガナ付け)のためHappiness 採用。
  ○大学等の研究者等提供データベースの受入事業の開始に当たって,様々な機種上の多様なフォーマットで作成されているデータベースをNACSIS-IR で提供するためのフォーマット変換,索引作成等を簡易的に処理できる「標準システム」を開発。
 (2) データロード
  ○データ収集
  ○前処理(数式,化学式の変換,姓名等の表記の確認)
  ○データ入力(パンチ)・校正
  ○データロード(チェック,正規化,索引作成,インプットプロセッサ等)
(3) 検索システム
  ○NACSIS-IR検索システム
   日立製作所の「ORION」を検索エンジンとし,東京大学大型計算機センターで運用されている情報検索システムであるTOOL-IRに準拠して開発。
  ○検索機能の改善(モニタリング等の結果を反映)
   ・オンラインヘルプ機能の追加 平成2年4月
   ・「CHARGE」コマンドの追加 平成3年8月
   ・「REQUEST」コマンドの追加 平成5年4月
   ・「KANA」コマンドの追加 平成6年6月
   ・ ORIONからMR90への移行による検索速度の向上 平成6年6月
   ・「MENU」コマンド等の追加 平成6年10月
   ・ 統合検索機能の追加 平成7年9月

II.データベースの利用
 形成された学術情報データベースをオンライン情報検索サービス(NACSIS−IR)によ り迅速かつ的確に研究者に提供する。

1.情報検索サービス(NACSIS−IR)
 (1) サービス対象
  ・大学・短期大学・高等専門学校・大学共同利用機関教員及び図書館職員,大学院学生等
  〔平成5年8月から拡大〕
  ・国公立試験研究機関・特殊法人の研究所及び学術研究法人の研究職員及び図書館職員
   研究助成法人の研究助成担当職員,学会の正会員,大学等と共同研究を行う企業の研究者
   海外の高等教育・研究機関の研究職員等(利用できるデータベースに制限)
(2) 利用時間
   月〜金曜日:9時〜翌日2時  土曜日:9時〜14時
 (3) 利用料金
   A 接続料50円/分+ヒット料13円/件(+ファクシミリ出力料22円/枚)
   B 接続料30円/回
 (4) 接続方法  NACSIS接続案内(まいとーく for WIN, ターミナル, 秀Term)
  ・公衆電話回線またはDDX−TP等による直接接続
  ・東京近隣地区からの接続
  ・アクセスポイント(全国7か所)からの接続
  ・情報処理センター等からの接続
  ・インターネット経由の接続
 (5) 利用者支援
  ・NACSIS−IR講習会(学術情報センター7回,地域講習会11回)
  ・ビデオ教材「NACSIS−IR入門」
  ・マニュアル,データベースシート等の検索補助資料
  ・NACSIS-IRオンライン・ニュース
  ・練習データベース

2.日本科学技術情報センターとのオンラインによるデータベースの相互利用
 学術情報,科学技術情報の公開・流通の一層の促進を図るとともに,大学等の研究者等に対し
て多様なデータベースを提供する観点から,平成5年11月からゲートウェイにより両センターの
情報検索システム(JOIS及びNACSIS-IR)を接続。

3.海外の学術研究機関に対する情報検索サービスの提供
 平成5年8月の利用者範囲の拡大に伴い,実施(利用できるデータベースに制限)。

III.今後の計画

1.新IRシステムへの移行
 ・メインシステムの機種更新及びコンピュータ環境の変化(オープンシステム化等)に対応す
  るため, 平成6年度から新しい検索システムの開発を開始
 ・平成7年度には,外部モニタリング等によりプロトタイプシステムの評価・検討を行い,そ
  の結果を基に新システムの仕様を決定
 ・新システムへのデータベース移行は平成7年度から進行中

○新しい情報検索システムの特徴
 ・Open Text社のOpen Text(全文検索システム)を検索エンジンに採用
 ・エンドユーザに親しみやすいISOに準拠したコマンド体系の採用
 ・フルテキスト検索機能の実現により,テキスト中の任意の語での検索が可能
 ・複数データベースの同時検索が可能
 ・近接演算や集合検索,語の出現頻度を指定した検索等の高度な検索が可能
 ・KWIC表示,ソート表示等の検索結果の出力機能の充実

2.研究者に関する情報の拡充
 学術審議会, 大学審議会等の答申において,内外の研究動向や学術政策等を定常的に調査・研 究する機能の強化が社会的要請となっており,これに対応するため,次のような取り組みを行っ ている。
 ・研究者公募情報データベース事業の開始(平成9年5月)
 ・「学術研究活動に関する調査」の調査対象範囲の拡大計画
   大学院博士課程在籍者,ポストドクター,国公立試験研究機関の研究者へ拡大を計画