3.4 保存システムについて

                   筑波大学教授 冨江 伸治

  


はじめに
 *1 今、なぜ保存システムか
   ・資料の劣化対策
   ・保存スペースの狭隘化への対応と保存環境の整備
   ・メディアの多様化とメディアの転換・情報の保存
   ・オンライン情報流通と情報資源共有化
   ・利用のシステムとしての保存の在り方
 *2 「保存」の概念(IFLA/国際図書館連盟「資料保存の原則」)
   ・保存(Preservation):「図書館・文書館資料およびそれに含まれる情報を保存するた
      めの保管、設備の整備、職員の専門性、政策、技術、方法を含むすべての運営面、
      財政面の考慮
   ・保護(Conservation):図書館・文書館資料を劣化・損傷・消失から守るための個々の
      政策と実務で、技術系職員が考案した技術と方法を含む
   ・修復(Restoration) :経年・利用等により損傷した図書館・文書館資料を技術系職員
      が修補する際に用いる技術と判断
 *3 保存問題の最近の動向
   ・「大学図書館機能の強化・高度化の推進について(報告)」(学術審議会学術情報分科
    会学術情報部会、平成 5年12月)のなかで「図書館資料の効率的保存と利用」として扱
    われている。
   ・保存図書館に関する調査研究報告書(国立大学図書館協議会「保存図書館に関する調査
    研究班」平成 6年 3月)
   ・資料の保存に関する調査研究−「資料の保存に関する調査研究班」最終報告−
    (国立大学図書館協議会「資料の保存に関する調査研究班」、平成 6年 5月)
   ・「資料はいつまで利用できるか−資料保存ワークショップ−」(日本図書館協会、平成
     6年 6月)
   ・国立国会図書館の「資料保存シンポジュウム」。第1回は平成 2年、第5回・平成 6年
    11月「図書館資料の共同保存をめぐって−現状と展望−」、第6回・平成 7年11月「コ
    ンサベーションの現在−資料保存修復技術をいかに活用するか−」
   ・「資料の保存とスペースの問題を考える」(第16回図書館建築研修会、日本図書館協会、
    平成 6年12月)
   ・兵庫県南部地震(1997年1月)と資料のセキュリティーへの関心
1.大学図書館における保存の現状と課題
 (1) 資料の劣化対策
 (2) 増え続ける資料の量と保存スペースの狭隘化への対応
 (3) オンラインネットワークの進展と資料・情報の利用と保存のシステム化
   ・「使われなければ単なる倉庫、使えば知識の宝庫」(「知識の棺桶」 AERA'92.2.11)
   ・有効利用のための資料の配置・保存の在り方


図1 書架収容可能冊数と蔵書数の推移(国立大学の1事例)
    保存図書館ニ関スル調査研究報告書/平成6年3月・国立大学図書館協議会・保存図書館ニ関スル調査研究班)ヨリ

2.資料の劣化対策  (1) 劣化の原因    ・人為的要因(利用・業務による傷み/忘失・盗難・切取り・複写による傷み等)    ・化学的要因(化学的変化)    ・生物的要因(微生物・昆虫等)    ・災害による損傷(火災・水害等)    ・促進要因(温湿度・光・大気汚染・ゴミ・ほこり)  (2) 劣化資料の量  (3) 劣化対策    ・大量脱酸技術の開発    ・中性紙使用の促進    ・メディアの転換(マイクロ化、電子メディア化 etc)    ・保存環境の改善 図2 利用頻度からみた図書館資料の年齢     保存図書館ニ関スル調査研究報告書/平成6年3月・国立大学図書館協議会・保存図書館ニ関スル調査研究班)ヨリ     [出版年別貸出件数の累積割合(3大学、1991年度)]

3.資料保存のための手順  (1) すべての資料を保存することはできない → 保存すべき資料についてのポリシーの明確化     / 資料保存のためのプログラム文書の作成 / 「保存 」→「保護 」→「修復 」  (2) 資料を傷めない方策を講じる / 予防的手段  (3) 一時的な保存資料の判定    ・文献年齢 / 利用の実績 / 焼畑方式  (4) 保存・廃棄の基準の確立と移管の手続 / 保存すべき資料・廃棄すべき資料の具体的基準、    有効利用のための移管の手続き    ・基準設定の困難さ / 合意の得にくさ(利用に対する確率的な予想の問題)・規定類の     未整備・手続きの煩雑さ・人手不足・他機関に保存されている保障の確認の困難さ etc  (5) 保存の仕方の判定/内容の保存か、現物の保存か    ・資料・情報の内容の価値 ← 利用頻度、引用頻度    ・現物としての資料価値       歴史的価値(写本、初版本、1850年以前の本 etc)       現物としての価値(美術的・工芸的価値、希本・珍本)       著者の献辞・欄外書き込みなどの価値    ・優先順位(内容の価値、現物としての価値、劣化の状態、他機関での所蔵状況、     適切な保存方法の可能性 etc)  (6) 保存のための保護処理の判定 ・    ・利用の状況+資料の価値+破損の状況(劣化の診断)+ 修復の費用+各館の事情  (7) 原型保存か代替保存か ← コストの見積/費用対効果    ・原型保存/製本、修理・修復    ・置き換え・媒体変換/買い替え、複写・複製、マイクロ化、ニューメディア転換  (8) 保存のための配置    ・個々の図書館のニーズ / 大学全体の利用と保存のシステム/地域的・全国的な共同資     料保存プログラムとの関係    ・廃棄、再配置(保存部門への移転等)  (9) 利用のための措置 / 目録・レコードの再編成、資料・情報の流通システムの整備 (10) 保存環境の整備と維持    ・保存施設の環境整備    ・保存容器等の使用(中性紙の保存箱、カバー etc) 4.メディアの多様化と電子メディア情報の保存  (1) メディアの多様化と保存    ・電子メディア情報の保存    ・電子メディア機器の更新・変化への対応と保存  (2) 電子図書館化と資料の保存と利用 5.保存資料の利用のシステム  (1) オンラインネットワークの進展と資料・情報の利用と保存  (2) 学術情報システムと一次資料の保存  (3) 分担収集・分担保存・相互貸借(ILL)と保存資料  (4) 保存資料の情報検索・遡及入力  (5) 資料・情報の流通 / 物流と電送のシステム 図3 学術情報システムにおける資料保存システムの構成(提案)     保存図書館ニ関スル調査研究報告書/平成6年3月・国立大学図書館協議会・保存図書館ニ関スル調査研究班)ヨリ 6.大学における図書館システムと保存システム  (1) 総合/研究/学習/保存の各図書館機能の明確化  (2) 保存図書館機能の配置  (3) 学内の資料・情報の流通、学内LANの整備とデリバリーサービス 7.保存システムとスペース・環境の計画  (1) 保存スペースの考え方    ・保存と利用の考え方    ・保存スペースの成長への対応    ・保存スペース/保存書架・保存書庫・保存図書館・共同保存図書館    ・保存スペースの確保と開架書架スペースの適正規模の維持 図4 資料の利用頻度に対応した収蔵システム  (2) 収蔵スペースの確保と資料の保全    ・資料の量の合理的抑制(廃棄、交換・寄託)、資料サイズの縮小(マイクロ化、電子メ     ディア化)による保存スペースの確保    ・保存スペースの高密度化    ・現物の保存・保護のための環境    ・資料の保存とコスト  (3) 書架のタイプと収蔵効率    ・一般書架/積層書庫/集密書架    ・ 自動化(立体自動書庫)の導入 図5 自動書庫のイメージ     保存図書館ニ関スル調査研究報告書/平成6年3月・国立大学図書館協議会・保存図書館ニ関スル調査研究班)ヨリ  (4) 保存書庫の安全性    ・防火/防水/地震(倒壊・落下)/遮光/防虫/防塵/忘失    ・法規的な問題(建築基準法・消防法 etc、人の安全性/資料の保護)  (5) 保存書庫の環境    ・書庫内資料の利用方法と環境(本のための環境・人のための環境)    ・温・湿度条件等 8.共同保存図書館の可能性  (1) 劣化対策の共同化 / 劣化対策の技術開発・集中処理・電子媒体化  (2) 保存スペースの共有化 / 保存資料の集中収集と良好な環境での保存  (3) 利用のための共同化と有効利用 / 資料情報の書誌情報・所在情報の作成・提供、保存資    料の検索・参考業務、資料情報の提供、資料の交換・移管および仲介  (4) 運用・業務の効率化  (5) 共同保存図書館の設置 / 地域別・館種別・資料種類別・分類別  (6) 共同保存の段階 / 分担収集・保存 → 共同保存図書館