1.9  大学図書館ボランティア

                        筑波大学図書館部長  森  茜


I 生涯学習と大学図書館の役割
 1 リカレント教育等として入学した社会人学生へのサービス
    (学生の学習機能,大学院生の研究支援)
 2 所属の学校や企業では充足できない高度で広範な学術情報を必要とする大学以外の研究者の研究支援
 3 市井の民間研究者の研究支援

 ● 学術情報資料分科会報告

 ○ 大学図書館の地域社会・市民への公開

社会における生涯学習ニーズが高まる中で,大学の地域社会への協力や,生涯学習における大学の 教育研究機能の活用が求められている。大学図書館についても,公共図書館では提供し得ない高度な 学術情報を地域社会や市民へ積極的に公開し,生涯学習活動を支援することが期待されている。各大 学図書館が大学及び地域の実情を勘案し,大学における教育研究機能に支障を来さないように配慮し つつ,こうした新たな課題に積極的に対応することが望まれる。  このような観点から,地域の教育・研究・文化の中心としての大学図書館の機能を充実するため, 既存の施設・設備の充実とともに,例えば,入退館システムの導入など,社会人の円滑な受入れとサ ービス機能の充実につながる施設・設備の整備も進める必要がある。(学術審議会学術情報資料分科 会学術情報部会『大学図書館機能の強化・高度化の推進について(報告)』1993,p.8)

II ボランティア活動と生涯学習のかかわり

 ● 平成4年 生涯学習審議会答申

 生涯学習とボランティア活動との関連は,次の三つの視点からとらえることができる。第1は,ボ ランティア活動そのものが,自己開発,自己実現につながる生涯学習となるという視点,第2は,ボ ランティア活動を行うために必要な知識・技術を習得するための学習として生涯学習があり,学習の 成果を生かし,深める実践としてボランティア活動があるという視点,第3は,人々の生涯学習を支 援するボランティア活動によって,生涯学習の振興が一層図られるという視点である。これら三つの 視点は,実際の諸活動の上で相互に関連するものである。(生涯学習審議会『今後の社会の動向に対 応した生涯学習の振興方策について(答申)』 1992, p.17

III 大学図書館とボランティア活動のかかわり
 1 社会に開かれた高等教育機関の一員として
  ● 平成8年 生涯学習審議会答申

○ ボランティアの受入れ

 大学等の図書館,資料館あるいは付属病院などにおいて,ボランティアの人々による施設運営へ  の協力・支援が見られるようになっている。こうしたボランティアの活動は,大学等にとって,施  設の機能の充実,組織の運営の向上のために極めて重要である。また,地域の人々の学習成果や経  験を生かす機会の確保,社会における有能な人材の公共の場での活用,大学等が地域社会に支えら  れているという好ましい雰囲気の醸成などの点においても有意義である。今後,充実したボランテ  ィア活動が多様な形態で進むよう,大学等においてもボランティアの育成を図るとともに,受入れ  の仕組みを明確にし,広く社会に積極的な受入れの姿勢を示すことが大切である。その際,ボラン  ティアを対象とする研修の充実も必要である。(生涯学習審議会『地域における生涯学習機会の充  実方策について(答申)』 1996, p.11 )

 

2 大学図書館がボランティア活動を受け入れることの意味
  (1) 図書館サービスの学習機能の充実に資する
  (2) 第三者としてのボランティアの意見を図書館運営に反映させ,図書館活動の活性化を図る
  (3) ボランティア自身が図書館活動にかかわることにより,生きがい及び自己実現になる

  ● 平成8年 生涯学習審議会答申

 ボランティアを受け入れることは,施設の提供する学習機会をより充実するばかりでなく,地域  住民の希望や意見を施設の運営に反映させ,その活性化に寄与する。また,ボランティアとして協  力する人々にとっても,その活動は自らの能力を生かす道でもあり,生きがいや自己実現に結び付  くものである。その意味において,生涯学習の視点からボランティア活動を充実することが望まれ  る。(生涯学習審議会『地域における生涯学習機会の充実方策について(答申)』 1996, p.31 )
 

IV 大学図書館ボランティアの活動としくみ(筑波大学附属図書館の例)
 1 経緯としくみ
  (1) 経緯
    筑波大学附属図書館では,開館以来,「開かれた大学図書館」を目指し,筑波研究学園都市
   の各研究機関の研究者等の地域住民に,本学附属図書館の蔵書の利用を勧奨するなど,サービ
   スの充実に努めてきた。さらに平成7年度から,地域におけるボランティア活動の希望者に,
   活動の機会を提供するため,国立大学の附属図書館としては初めて,「大学図書館ボランティ
   ア」を導入した。このボランティア活動は,本学附属図書館の利用者に対する援助のため,自
   らの自由意志に基づき,自身の生涯学習の一環として,その知識・技能を無償で提供するもの
   である。
  (2) しくみ
   1) 筑波大学附属図書館ボランティア委員会の設置
     ボランティア活動に関する事項を審議するため,本学教官で構成される附属図書館運営委
    員会からの3名の教官及び図書館部からの3名の図書館職員で構成される「附属図書館ボラ
    ンティア委員会」を,附属図書館長の諮問委員会として設置している。
   2) ボランティア担当係
     図書館部情報管理課図書館公開係が,ボランティア活動を円滑に行うための,総括的連絡
    調整を担当している。
  (3) 図書館とボランティアとのコミュニケーションのための会合
   1) 懇談会 (附属図書館長主催,年2回程度)
     ボランティア活動の円滑な推進をはかるため,図書館とボランティアが相互の意志疎通を
    図り,ボランティア活動の企画・連絡等について基本的な合意を得る。
   2) 連絡会 (図書館部長主催,隔月程度)
     図書館側及びボランティア側の双方から状況説明を行うとともに,活動内容やその進め方
    等について具体的な意見交換を行う。
   3) 打合せ会 (ボランティア受入担当係対応,毎月)
     図書館部のボランティア受入担当係と「図ボラの会」世話人が,ボランティア活動の具体
    的な内容について,事務的な打合せを行う。
   4) 交流会 (「図ボラの会」との共催,年に1回〜2回)
     附属図書館のボランティア関係者とボランティアとが昼食会等を行い,親睦を図る。
  (4) 特典 
    ボランティア全員に,本学学生と同等の利用条件による本学附属図書館利用証を発行してい
   る。
 (5) ボランティア活動保険
    ボランティア全員がボランティア活動保険に加入することを原則としている。掛け金はつく
   ば市の社会福祉協議会から助成を受けている。ボランティア活動保険は,ボランティア活動中
   (移動中を含む)のボランティア自身のケガや,他人にケガをさせてしまった場合,他人の物
   を壊してしまった場合等の事故を広く補償する。
 2 活動状況
  (1) 活動の形態
    平成9年度は55名の附属図書館ボランティアが登録している。対面朗読以外は,午前(10
   時〜12時)と午後(1時〜4時)の半日を活動時間の一単位としており,常時4名ないし5名
   が活動している。対面朗読も同じ時間帯で,一回2時間程度,利用者の希望に応じて活動して
   いる。
  (2) 活動内容 
   1) 図書館総合案内 
      館内窓口案内,資料配置案内,資料探索案内,端末操作案内,その他
   2) 身体障害者の図書館利用支援 
      対面朗読,資料探索代行,車椅子介助・ガイドヘルプ等の館内移動援助,その他
   3) 外国人の図書館利用支援
      外国語による図書館利用支援,日本語による日本民話等のリーディングサービス,その他
   4) 図書館公開事業への協力 
      展示会,講演会,その他 
   5) 図書館見学案内
   6) ボランティア活動の広報 
   7) その他附属図書館長が適当と認めるもの
  (3) 研修
   1) 事前研修 
   2) フォローアップ研修
   3) その他: 自主的な勉強会
  (4) ボランティア自身による連絡組織の運営
   1) 筑波大学附属図書館ボランティアの会・図ボラの会(以下「図ボラの会」)の運営
   2) 「図ボラの会」世話人会の運営
   3) 「図ボラの会」会報の発行
   4) その他
 3 ボランティア活動がもたらす大学図書館への効果
  (1) 業務としての図書館サービスでは届かないケアーを利用者に行い,利用者への学習機能を一
   層高める。
  (2) 図書館職員が気づかないような課題や利用者ニーズを図書館運営に反映できる。

V 今後の課題  1 ボランティア活動の内容・サービスの定着と発展  2 ボランティア活動の新しい内容・サービスの開発  3 ボランティア間のコミュニケーション    曜日毎に活動するメンバーが固定されているため,ボランティア間の意思疎通を図ることが困   難である。ボランティア内の自主的な組織「図ボラの会」の充実に期待している。  4 学内との連係    身体障害学生や留学生を担当する学内の部署と連係し,図書館サービスとしての障害者サービ   スや留学生サービスを効果的に行っていく必要がある。  5 地域との連係    市町村や都道府県による障害者へのサービスや外国人に対するサービスとの連係及び地域のボ   ランティア団体との連係や交流が必要である。