１．２大学図書館行政

１．２　大学図書館行政

文部省学術国際局学術情報課長　　林一夫

Ⅰ 大学図書館の在り方

１．大学の教育研究の一環として

(1) 大学全体の動き、大学を取り巻く環境の変化

例えば、大学改革の動き、行政改革の動き、１８歳人口の減少

２．大学図書館として

(1) 教育研究の支援、情報化の推進、地域への支援、国際化の対応

(2) 個性化、連携協力

Ⅱ 審議会答申等（基本方向）

１．学術審議会建議「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について」（平成８年７月２９日）【概要：別紙参照】

２．閣議決定「科学技術基本計画」（平成８年７月２日）

３．生涯学習審議会答申「地域における生涯学習機会の充実方策について」（平成８年４月２４日）

４．学術審議会学術情報資料分科会学術情報部会報告「大学図書館機能の強化・高度化の推進について」（平成５年１２月１６日）

５．学術審議会答申「２１世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」（平成４年７月２３日）

６．大学審議会答申「大学教育の改善について」（平成３年２月８日）

Ⅲ 予算概要

（当初予算）平成９年度予算額（対前年度）

一般歳出４３兆８,０６７億円（１.５％増）

文部省一般会計５兆８,１９８億円（１.１％増）

国立学校特別会計２兆６,８４８億円（１.７％増）

大学図書館関係予算６０億円（２.７％増）学術情報基盤関係予算３６２億円（９.５％増）

学術審議会建議「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について」（概要）

平成８年７月２９日

１大学図書館における電子図書館的機能の整備の必要性
大学図書館の機能強化が重要な課題となっている中で、学術情報ネットワークの高度化、学内ＬＡＮの整備及びインターネットの普及を背景として、大学図書館における電子図書館的機能の充実が緊要の課題となっている（その上で以下の観点から必要性が述べられている）。

○ 情報ニーズの増大と多様化 ○ 電子的情報資料の増大 ○ 資料保存機能の向上 ○ 資料の有効利用 ○ 情報検索機能の向上 ○ 情報発信活動の支援

２電子図書館的機能の整備の基本的考え方

電子図書館的機能の整備は、内容や程度に差こそあれ、すべての大学図書館に重要であり、その整備に当たっては、図書や雑誌の収集・保存・提供という現有機能を今後とも維持・向上させつつ、それとの調和を図りながら総体としての機能強化を推進すべきものである。

(1) 整備のためのビジョン策定

各大学の実情に応じて、適切なビジョンを策定し、段階的・継続的に整備することが適当である。

(2) 学内関連組織との連携協力の推進

全学的な見地に立って、大学図書館を中核とする柔軟な枠組みを形成することが重要である。

(3) 大学図書館間の連携・協力の強化及び相互運用性の確保

電子化資料を個々の利用者に提供するために、相互運用性の確保に留意しながら、大学図書館間の連携・協力を強化することが必要である。

(4) 教育活動への配慮

大学の教育活動に即した電子図書館的機能の整備が必要である。

(5) 著作権の保護、セキュリティの確保及びプライバシーの保護

電子図書館的サービスでは、著作権の保護に配慮し、セキュリティの確保及びプライバシーの保護に十分に留意する必要がある。

３電子図書館的機能の整備の具体的方策

(1) 資料の電子化の推進

① 目録情報の遡及入力の促進

目録所在情報は、所蔵資料の電子化の基礎であり、遡及入力をさらに促進すべきである。

② 資料電子化の段階的・継続的な取組

電子的情報資料の収集及び所蔵資料の電子化は、各大学の実情に応じて、段階的・継続的に進めることが適当である。

③ 資料電子化の効率的な実施

資料の電子化に当たっては、作業の重複を避けることが肝要である。また、その効率的な実施のため、各分野毎に拠点図書館を指定するなど、全国的な見地から検討を進める必要がある。

④ 電子化資料作成の支援

学内研究者による研究成果等の電子出版化の支援・促進機能も重要であり、電子化が情報作成者のメリットになるような仕組みを検討する必要がある。

(2) 施設・設備の整備

電子図書館的機能の充実には、閲覧関連施設や高機能な検索システム設備の充実が不可欠である。

(3) 研究開発の推進

資料の効率的な電子化や良好な利用者インタフェースを念頭に、将来的にも基本的な相互運用性が確保されるよう配慮しつつ、各大学において最適なシステムの構成を検討し、必要に応じて、研究開発を推進するべきである。

(4) 組織体制の整備

大学図書館は、業務の効率化を図り、電子図書館的機能に適応する新たな組織の確立等、体制的な整備を進めていく必要がある。また、電子図書館的機能の全国的な連携を支援するため、学術情報センターの体制の整備を図ることも重要である。

(5) 図書館職員の研修の充実

図書館職員が新たな電子図書館的機能に即した業務にも対応するために、学術情報センター等が行っている各種研修事業を一層充実すべきである。

(6) 情報リテラシー教育の支援

大学図書館は、近年重要性を増してきた電子的教材作成、情報リテラシー教育及び学生の自主学習等に対する支援において、その一翼を担うことが求められている。

(7) 著作権への対応

電子図書館的機能の整備における著作物の利用については、条件、料金などについて著作権者との間で予め協議を進める必要がある。

４電子図書館プロジェクトの推進等

学術情報センターにおける電子図書館システムの研究開発や、奈良先端科学技術大学院大学でのモデル的電子図書館構築の取組を継続して推進するとともに、文部省は、今後、大学図書館における電子図書館的機能の整備・充実の参考となるような、各大学の特色を活かした先導的プロジェクトを積極的に奨励・支援していく必要がある。

大学図書館における電子化の推進

１．意義・効果

近年におけるマルチメディア技術の進展やインターネットなどの普及を背景として、「大学図書館における電子図書館的機能の充実」に大きな期待。学術審議会建議でも指摘。

２．施策の現状

(1) 既存の大学図書館

① 各大学図書館の今後の参考となるような先導的プロジェクトを推進。

９年度は、筑波大学、京都大学の電子図書館化を支援。

② 電子化資料（ＣＤ－ＲＯＭ）の収集・提供サービスの充実

・ＣＤ－ＲＯＭサーバシステムの整備(７年度から６年計画で、すべての国立大学図書館にネットワーク対応型のシステムを整備）

・電子化資料の購入（医学系、人文社会系、理工系を措置）

(2) 奈良先端科学技術大学院大学

従来の大学図書館とは異なり、図書を紙資料としてではなく、電子資料として持ち、学内ＬＡＮで検索、閲覧サービスを行うモデル的な電子図書館を推進。７年度から整備を開始し、８年度から運用開始。

(3) 学術情報センター

学会の学術雑誌を対象として、その全文を電子入力し、ネットワーク上で各大学へ提供するための電子図書館システムの研究開発を推進。これまで、２９学会の学会誌を対象として試行サービスを実施。９年度から本格実施。

(4) 予算額

事項名	８年度	９年度	差増	備考
大学図書館先導的プロジェクトの支援 CD-ROMサーバシステムの整備電子化資料の収集奈良先端科学技術大学院大学電子図書館システム経費	百万円 0 153 102 170	百万円 59 153 102 202	百万円 59 0 0 32	２大学６ヵ年計画

学術情報センター電子図書館構築経費大学図書館マルチメディア化対応システム開発経費電子図書館システム開発経費	0 50 53	74 50 0	74 0 △53	事業化経費４ヵ年計画３ヵ年計画
合計	528	640	112

３．課題

電子図書館システムの研究開発を推進し、大学の図書館に電子図書館的機能の整備充実を進める。（科学技術基本計画より）

【参考】

１．各大学の取り組み

(1) 目録所在情報データベースの形成

図書資料の目録所在情報の電子化は、電子図書館機能の充実・強化のための基礎となるものであり、現在、学術情報センターを中心として、各大学の協力のもと目録所在情報データベースの形成に取り組んでおり、国公私立大学合わせて３８３大学が参加している。（国立９８大学、公立３５大学、私立２５０大学）

(2) 電子化資料の収集・提供

電子化資料であるＣＤ－ＲＯＭについては、国公私立大学合わせて１万５千タイトルを所有している。（国立大学４千タイトル、公立大学１千タイトル、私立大学１万タイトル）

(3) ホームページの開設

各大学図書館がホームページを開設し、蔵書目録や図書館利用案内等を公開するところが増えている。また、少数ではあるが研究紀要、古典籍の全文情報、授業計画（シラバス）を公開するなどの取り組みを行っているところもある。

現在、大学図書館でホームページを開設しているのは、国公私立大学合わせて１８８大学である。（国立８７大学、公立１４大学、私立８７大学）

(4) 公私立大学における先導的な取り組み

公私立大学の中には、図書館機能と情報処理機能を統合したセンターを設置して電子図書館的機能の充実を図ろうとしているところもある。（例：大阪市立大学学術情報総合センター）

２．外国の代表的な例

(1) 米国議会図書館（Library of Congress)

・ National Digital Library Program ：ＬＣをはじめとする主要な図書館の資料を電子化して、ネットワークで提供する構想。２０００年までに５００万点の資料を電子化予定｡

1995年５月に、このための連合体（National Digital Library Federation）が設立され、ＬＣのほか、ハーバード大学等１４の図書館が参加。

(2) ＮＳＦ（National Science Foundation）（米国）

・ 1994年から４年計画で、電子図書館関連技術の研究開発を助成。カーネギー･メロン大学（バークレー、サンタ･バーバラ）、カリフォルニア大学、ミシガン大学、イリノイ大学、スタンフォート大学の６校の計画が採択され実施中。

動画、音声等を含むマルチメディア資料をインターネット上で公開することを目指す。

(3) デモントフォート大学（イギリス）

・レスター及びミルトンケインズなど分散キャンパス（８つ）のため、ネットワークを利用しての情報提供が目標。

・ ELINOR ：教育支援システム。ＩＢＭ、英国図書館との共同プロジェクト。図書、講義ノート等授業関連資料のフルテキストデータベース化。

・ ELISE ：ＥＣのプロジェクト。画像データベースをＩＳＤＮで連結。ビクトリア･アルバート美術館、ポンピドゥー･センターとの共同プロジェクト。

(4) ティルブルグ大学（オランダ）

・ EASE ： Elsevier社が出版する１０４誌の書誌論文（1994年1月以降）のフルテキストデータベースを提供。・ PICA ：オランダの１０大学図書館による共同電子化プロジェクト。約12,000誌の論文、約２５万件の書誌事項と所在情報のデータベースを構築。現在、ドキュメントデリバリーへ展開するためのソフトウェアを開発中。

３．その他

(1) 各方面からの指摘・提言等

・学術審議会建議「大学図書館における電子図書館的機能の充実強化について」（平成8年 7月）

・閣議決定「科学技術基本計画」（平成8年7月）

・高度情報通信社会推進本部決定「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」（平成7年2月）

・学術審議会学術情報資料分科会学術情報部会報告「大学図書館機能の強化・高度化の推進について」（平成5年12月）

・学術審議会答申「２１世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」（平成4年7月）

(2) 国際的要請

・Ｇ７共同プロジェクトの一つとして、電子図書館プロジェクトが取り上げられている。

電子図書館システムの概念図

ネットワーク

１. 意義

○ 学術研究の高度化に伴い、コンピュータ・ネットワークを使った「学術情報」のインプットとアウトプットが飛躍的に増大・多様化。 ○ 学術研究を更に発展させるためには、学術情報を迅速・的確に収集し、国内外に発信できる基盤の充実が必要。

○ そのもっとも基本となるのがネットワークの整備である。

２. 現状

○ 学術研究を支えるネットワークは下図のように構成されている。

○ 学術情報ネットワーク（SINET) （概念構成図別添）

学術情報センター（NACSIS)が構築・運営する全国的基幹情報通信網。全国２９大学等に接続点を設け、全国の大学等を中心とする研究機関（約６００）が接続されている。

回線速度は最大 150Mbpsとなっている。

インターネットバックボーンとして国内の他のネットワークをはじめ、170 カ国以上の海外とも通信を可能としている。

【予算額の推移】

（学術情報ネットワークの高度化・高速化、国際接続に要する経費）

平成５年度	平成６年度	平成７年度	平成８年度	平成９年度
441 百万円	1,733 百万円	3,134 百万円	4,251 百万円	5,610 百万円

○ 大学等のキャンパス情報ネットワーク（学内LAN)

大学等の学内LANは近年急ピッチで整備が進んでおり、国立大学では、全ての大学で整備。（公立大学４９％、私立大学５７％で全学的な整備が図られている）さらに、その高度化についても推進中であり国立の５８大学等にＡＴＭ交換機が導入されている。

○ 国内の他のネットワーク

SINETはインターネットバックボーンとして、国内のインターネットとも接続されており、現在、科学技術振興事業団が運営している省際研究情報ネットワーク（IMnet)との接続を通じて他省庁の運営する研究ネットワークや国立試験研究機関等と接続されている。また、自主的に運営される研究ネットワーク（WIDE等）や商用のネットワークとも接続されている。

○ 海外のネットワーク

SINETは、米国、英国、タイとそれぞれ6Mbps、2Mbps、2Mbpsで直接接続されており、米国、欧州、アジアとも国際接続の拡充を推進中である。特に、米国との回線は混雑のため、支障をきたしており、９年度予算によって45Mbpsに高速化することとしている。欧米諸国においても、研究ネットワークの整備について積極的に取り組んでおり、これらネットワークとの円滑な情報流通を確保することが重要である。

【外国の主な学術情報ネットワークの状況】

ネットワーク名	設立年度	最大回線速度	利用機関
vBNS(米国）	1995年	155Mbps	大学及び国立研究機関等
SuperJANET(英)	1989年	155Mbps	〃
EuropaNet（EC)	1989年	34Mbps	学術用ネットワーク（ノード17カ国、接続27カ国)

３. 課題

○ 学術情報ネットワークについても、出来るだけ早期に米国並みの高速化（当面 150Mbps クラス）を図るとともに、ギガビットレベルの回線速度を目指す。 ○ 各種の研究情報ネットワークの等の連携、相互接続を一層推進しつつ、米国、欧州、アジア諸国等との間の接続を拡充。 ○ 全ての国立大学等の学内ＬＡＮのＡＴＭ（非同期転送方式）化を引き続き進める。 (科学技術基本計画より）

学術情報ネットワークの構成概念図

データベース

１．意義

膨大な量の学術情報が集積される中で、それらを効率的・効果的に活用し、必要な時に必要な情報が入手できるよう、「体系化」され「検索が容易な」データベースの整備は、学術研究発展の基盤として極めて重要。欧米では主な分野において、大型のデータベースが作成され、全世界的なサービスが行われており、我が国においても世界的に貢献しうるデータベースの整備が望まれる。

２．現状

データベースの作成・サービス形態は様々であり、全体像を概観することは困難。

また、インターネット（特にＷＷＷ）の普及等によりその動向も流動的。

(1) 大学等で作成されているデータベースの現状

(平成8年	作成者別	件数	割合(%)	作成費の出所別	件数	割合(%)
	個人グループ･研究会等機関・組織その他(無回答含む)	４００３７６１,１３４１０６	19.8 18.7 56.3 5.3	大学等の予算科研費補助金等外部資金その他(無回答含む)	１,４８０４３５１８８４１７	73.4 21.6 9.3 20.7
	合計	２,０１６	100	延べ回答数	２,５２０	125
	実件数	２,０１６	100

この総件数２,０１６件のうち公開されているものは、９８９件（４９％）となっている。

(2) データベース作成に対する支援の現状

① 国立学校特別会計によるデータベース作成支援(購入も含む)

平成９年度６９７百万円

② 科学研究費補助金によるデータベース作成支援

平成９年度１，０９５百万円

【データベース関連予算の推移】

千円

(3) 情報検索サービス

ネットワーク上で公開されているデータベースは、個人、グループ、機関でそれぞれ行われているが、以下に主なものを挙げる。

① 学術情報センター

総合的なデータベースを提供(ＮＡＣＳＩＳ－ＩＲ）。

(例）科研費成果概要データベース、研究者ディレクトリ、学会発表データベース

② 大学図書館

各大学図書館で所蔵する図書等の目録や全文データベースを提供。

(例) 所蔵目録データベース、学位論文データベース

③ 大型計算機センター

各大学で作成した特色あるデータベースを提供。

(例) ＫＩＮＤ（材料文献情報のデータ）、ＣＨＩＮＡ３（書誌・文献情報）

(4) その他の情報検索サービス

① ＪＯＩＳ

科学技術振興事業団が提供する、科学技術に関する文献情報等の検索サービス（ＮＡＣＳＩＳ－ＩＲから利用可能）。

② ＪＡＰＩＯ（日本特許情報機構）

我が国及び海外の特許情報に関する情報検索サービス。

③ その他

民間の情報検索サービスとして、新聞雑誌記事の検索が可能な日経テレコン（日本経済新聞社）、洋書新刊情報の検索が可能なDIALOG（DIALOG Information Services）等がある。

(5) 外国の代表的データベースの例

データベース名	分野	収録範囲	収録件数
CA(米)	化学分野	化学分野の抄録データベース	約1620万
MEDLINE（米）	医学分野	医学分野の書誌データベース	約850万
INSPEC（英）	工学分野	物理学、電子工学分野等の抄録データベース	約510万
UnCOVER（米）	全分野	学術雑誌の目次速報データベース	約700万

３．課題

○ 科学技術活動の基盤となる論文等の文献データ、各種実験・観測データを含むファクトデータ等及びそれらのデータベースの着実な整備を進める。 ○ 大学等の研究者に対するデータベース化支援・維持経費の拡充及び文部省学術情報センターを中心とする支援の充実を図る。

（科学技術基本計画より）