2.4 学術情報ネットワークの現状
       学術情報センター事業部
       ネットワーク課国際情報専門員 志津田 嘉康 
  

1 学術情報ネットワークの経緯
 センター創設当初から,研究支援のための学術情報ネットワークの構築・運営が基本事業として位
置づけられた。通信方式として,当面の学術研究の応用に広く応えることができ,通信回線を効率的
に使用できるCCITT ( 現ITU-TS勧告のX.25(76 年版又は80年版))に基づくパケット交換方式を選択し
昭和62年1月から東京,名古屋,京都,大阪及び本センターを加えた5局構成でによる「学術情報
ネットワーク」の稼働を開始した。

2 学術情報ネットワークの整備
 ネットワークの整備は以下のように三期にわけてとらえることができる。
(1) 第一期(パケット交換網の整備)
 昭和61年度における学術情報ネットワーク第一期整備計画では全国の国,公,私立の大学,研究
機関が存在する地域に少なくとも一カ所はネットワーク機器を配置することを計画・立案し, 年次計
画で順次拡大することとした。その結果, 平成3年度をもってセンター他全国28カ所にパケット交
換機,時分割多重化装置等のネットワーク機器を配置した「学術情報ネットワーク・パケット交換網」
整備が完了した。
 また,パソコン等の端末から加入電話網を介して学術情報ネットワークを利用するためのアクセス
ポイントをセンター他6カ所(北海道大学,東北大学, 名古屋大学,大阪大学,広島大学,九州大学)
に配置した。

(2) 第二期(インターネット・バックボーン(SINET) の整備)
 1990年代初頭,国内外においてTCP/IPという通信手順を採用したインターネットの拡大とあいまっ
て,高性能パソコンやワークステーションの普及,大学等における情報通信環境(キャンパス情報ネ
ットワーク(以下「学内LAN」という。))の整備が急速に進展した。
 このような動向の中で,TCP/IPによる学内LAN 間通信のために,新たに専用の基幹通信網を構築・
運用することが必要と判断された。
 この新たな基幹通信網は「学術情報ネットワークインターネット・バックボーン」( 以下「SINET」
という。) と称し,SINET(サイネット) と略称することとした。平成3年12月には,既存のパケッ
ト交換網に加えて,センター他8大学(北海道大学,東北大学,筑波大学,東京大学,名古屋大学,
京都大学,大阪大学,九州大学) にSINET 用ルータを配置し,128Kbpsないし256Kbpsの高速デ
ジタル専用回線を使用したSINET の試行運用が行われ,平成4年4月からは本格的な運用が開始され
た。以降,順次回線速度の増強とともに設備の充実を図ってきた。
(3) 第三期(ATM交換網の整備) 
 インターネットの普及とともに大学等における情報通信環境がより一層整備されてきていることか
ら,学術情報ネットワークの需要の増大が加速されてきたため,緊急に学術情報ネットワークの高度
化・高速化を検討することとなった。
 その結果,従来の二つの通信網(パケット交換網,SINET )の統合を図りつつ,高速化を実現する
こととし,次世代通信の基盤技術として特に注目されているATM方式(Asynchronous Transfer Mode:
非同期転送モード)を採用したネットワークに移行することとなった。
 学術研究環境の基盤整備の一環として,平成5年度補正予算でセンター他28拠点にATM方式を
採用したマルチメディア多重化装置を導入することとなった。さらに,平成7年度の第一次補正予算
において,より高性能・高機能な ATM交換機をセンター他28拠点に導入する予算が認められるとと
もに回線速度についても主要9拠点に50Mbps,その他の全ての拠点に6Mbpsと大幅な増強が認めら
れ,平成7年9月から運用を開始した。
 平成8年度中には新ATM交換機と各大学等に導入された学内ATM-LAN との相互接続を図り,広域ATM 
網として運用を開始することにより,更に性能及び機能等が向上した学術情報ネットワークを提供す
る予定である。

3 ネットワークの運用
 学術情報ネットワークは,センター他全国の28拠点をノードとしてネットワーク機器を配置し,
その拠点間を通信事業者が提供する高速デジタル専用回線で接続している。このネットワークの機器
は更に近隣の大学等に共通に使用されるものであり,学外との通信回線の確保が容易であることや,
24時間運用のための保守・運用体制が整え易いことが求められる。障害発生時の対応や新たに加入
機関が接続を行う時の調整及び定期的な保守や機器の増強等の場合は,ノード校の担当部局の協力を
いただいて運用している現状である。

4 学術情報ネットワークへの加入機関の拡大
 学術情報ネットワークの加入機関については,「学術情報ネットワークの加入に関する規則」によ
り,以下の機関について加入を認めている。
 (1) 国,公,私立等の大学,短期大学,高等専門学校
 (2) 大学共同利用機関等
 (3) 文部省の施設等機関等
 (4) 文化庁の施設等機関等
 (5) 国公立試験研究機関
 (6) 特殊法人の研究所
 (7) 学術研究法人
 (8) 大学に相当する教育研究施設
 (9) 研究助成法人
 (10)学会
 (11)学術情報センターの目録所在情報サービスの加入が認められた機関
 (12)その他前各号に準ずると認められる機関
 (13)所長が特に認めた機関

   更に通産省が推進している100校プロジェクトをはじめ各地域で,大学と小・中・高等学校間
でのネットワーク共同研究が盛んに行われてきており,それらについても加入を認めることとした。

5 学術情報ネットワークの現状
(1) ネットワーク設備
 ネットワーク設備は,センター他28カ所の拠点にパケット交換網用のパケット交換機,セル組立
分解システム,ATM交換システム,ルータ等を設置している。

(2) 回線構成
 回線構成は,北日本ループ,中央ループ,及び西日本ループの3ループ構成とし,学術情報ネット
ワークの信頼性の向上と基幹通信網の有効利用を図っている(学術情報ネットワークの構成参照)。
回線速度は主要拠点は50Mbps,その他の拠点は6Mbpsの高速デジタル専用回線で構成されてい
る。平成8年度以降は,50Mbps以上に増強する予定である。

(3)加入機関数
  平成8年3月末現在,学術情報ネットワークへの加入機関は479機関(パケット交換網への加入機
関数は237機関。SINET の接続機関数は343機関,16研究ネットワーク)である。

6 海外への接続
 昭和63年度に米国にネットワークを延長する計画が認められ,専用回線にて接続を開始し,現在
はストックトンの国際関門局に6Mbpsで接続している。平成元年度には英国への延長が認められ
英国図書館(BL)と専用回線接続を行った。更に平成7年9月にはタイ王国と2Mbpsの専用回
線で接続を開始した。平成8年度中には英国との回線を2Mbpsに増強する予定である。

7 学術情報ネットワークの課題
(1) 国内及び国際回線の高速化
  大量のデータを持つ高エネルギー物理学,宇宙科学分野,医学分野等の研究グループからは,更に
高速化の要望があり,当センターの事業についても,電子図書館サービスなど,より高速な回線が必
要となる新規サービスを計画している。このことから,回線速度を156Mbpsや622Mbps
へ高速化し,将来的にはGbpsレベルの超高速通信網の整備を考える必要がある。

(2) 接続機関の拡大
  学術情報ネットワークは,学術情報の流通基盤として,その重要性がますます増大しており,加入
機関も年々増加の一途を辿っている。現在は国公私立大学,短大,高専,共同利用機関の半分程度が
接続されているが,将来的には全ての大学等が接続されるであろう。更に,上記の大学等と他省庁や
民間の研究所及び地域ネットワークをネットワークで接続し,相互の情報交換を可能にする必要があ
る。

(3) 運用体制の整備
 急速に進歩する通信技術を取り入れ,規模の拡大を続ける学術情報ネットワークを安定的に運用す
るためには,担当者の養成とともに運用体制の整備が不可欠である。