１．８大学図書館ボランティア

　１．８　　大学図書館ボランティア

　　　　　　筑波大学図書館部長　　　森　茜　

１　生涯学習と大学図書館の役割
　１　リカレント教育等として入学した社会人学生へのサービス
　　　　（≒　学生の学習機能、大学院生の研究支援）
　２　所属の学校や企業では充足できない高度で広範な学術情報を必要とする大学以外の研究者の研
　　究支援
　３　市井の民間研究者の研究支援

　●　学術情報資料分科会報告
　┌―────―────―────―────―────―────―────―────―─┐
　│○　大学図書館の地域社会・市民への公開　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　│　社会における生涯学習ニーズが高まる中で、大学の地域社会への協力や、生涯学習における│
　│大学の教育研究機能の活用が求められている。大学図書館についても、公共図書館では提供し│
　│得ない高度な学術情報を地域社会や市民へ積極的に公開し、生涯学習活動を支援することが期│
　│待されている。各大学図書館が大学及び地域の実状を勘案し、大学における教育研究機能に支│
　│障を来さないように配慮しつつ、こうした新たな課題に積極的に対応することが望まれる。　│
　│　このような観点から、地域の教育・研究・文化の中心としての大学図書館の機能を充実する│
　│ため、既存の施設・設備の充実とともに、例えば、入退館システムの導入など、社会人の円滑│
　│な受入れとサービス機能の充実につながる施設・設備の整備も進める必要がある。（学術審議│
　│会学術情報資料分科会学術情報部会『大学図書館機能の強化・高度化の推進について　　　　│
　│（報告）』１９９３，ｐ．８　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　└―────―────―────―────―────―────―────―────―─┘

２　ボランティア活動と生涯学習のかかわり
　１　ボランティア活動をする準備としての学習活動がある
　２　ボランティア活動そのものが重要な学習の場である
　３　他人の学習活動を支援するためのボランティア活動がある
　（岡部薫『行政関係者のための新版入門・生涯学習政策』東京、全日本社会教育連盟、1996,p.44)

　●　平成４年　生涯学習審議会答申
　┌―────―────―────―────―────―────―────―────―─┐
　│　生涯学習とボランティアとの関連は、次の三つの視点からとらえることができる。第１は、│
　│ボランティア活動そのものが、自己開発、自己実現につながる生涯学習となるという視点、第│
　│２は、ボランティア活動を行うために必要な知識・技術を習得するための学習として生涯学習│
　│があり、学習の成果を生かし、深める実践としてボランティア活動があるという視点、第３　│
　│は、人々の生涯学習を支援するボランティア活動によって、生涯学習の振興が一層図られると│
　│いう視点である。これら三つの視点は、実際の諸活動の上で相互に関連するものである。（生│
　│涯学習審議会『今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について（答申）』　　　　│
　│１９９２，ｐ．１７　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　└―────―────―────―────―────―────―────―────―─┘

３　大学図書館とボランティア活動のかかわり
　１　社会に開かれた高等教育機関の一員として
　　●　平成８年　生涯学習審議会答申
　┌―────―────―────―────―────―────―────―────―─┐
　│○　ボランティアの受入れ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　│　大学等の図書館、資料館あるいは付属病院などにおいて、ボランティアの人々による施設運│
　│営への協力・支援が見られるようになっている。こうしたボランティアの活動は、大学等にと│
　│って、施設の機能の充実、組織の運営の向上のために極めて重要である。また、地域の人々の│
　│学習成果や経験を生かす機会の確保、社会における有能な人材の公共の場での活用、大学等が│
　│地域社会に支えられているという好ましい雰囲気の醸成などの点においても有意義である。今│
　│後、充実したボランティア活動が多様な形態で進むよう、大学等においてもボランティアの育│
　│成を図るとともに、受入れの仕組みを明確にし、広く社会に積極的な受入れの姿勢を示すこと│
　│が大切である。その際、ボランティアを対象とする研修の充実も必要である。（生涯学習審議│
　│会『地域における生涯学習機会の充実方策について（答申）』　１９９６，ｐ．１１　　　　│
　└―────―────―────―────―────―────―────―────―─┘

　２　大学図書館がボランティア活動を受け入れることの意味
　　(1) 図書館サービスの学習機能の充実に資する
　　(2) 第三者としてのボランティアの意見を図書館運営に反映させ、図書館活動の活性化を図る
　　(3) ボランティア自身が図書館活動にかかわることにより、生きがい及び自己実現になる

　　●　平成８年　生涯学習審議会答申
　┌―────―────―────―────―────―────―────―────―─┐
　│　ボランティアを受け入れることは、施設の提供する学習機会をより充実するばかりでなく、│
　│地域住民の希望や意見を施設の運営に反映させ、その活性化に寄与する。また、ボランティア│
　│として協力する人々にとっても、その活動は自らの能力を生かす道でもあり、生きがいや自己│
　│実現に結び付くものである。その意味において、生涯学習の視点からボランティア活動を充実│
　│することが望まれる。（生涯学習審議会『地域における生涯学習機会の充実方策について（答│
　│申）』　１９９６，ｐ．３１　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　│
　└―────―────―────―────―────―────―────―────―─┘

４　大学図書館ボランティア活動としくみ（筑波大学附属図書館の例）
　１　経緯としくみ
　　(1) 経緯
　　　　筑波大学附属図書館では、開館以来、開かれた大学図書館として、筑波研究学園都市の研究
　　　機関や地域住民を始めとする学外者に対するサービスの充実を図ってきた。大学の内の施設と
　　　しての枠組みを踏まえたうえで、社会の生涯学習ニーズに応えるべく、さらに地域住民に図書
　　　館を公開し、生涯学習に対応する大学図書館サービスの実現を目指すため、ボランティアを受
　　　入れ、活動の場を提供することとした。
　　(2) しくみ
　　　1①筑波大学附属図書館ボランティア活動委員会の設置
　　　　ボランティア活動に関する事項を審議するため、附属図書館運営委員会委員３名及び図書
　　　　館部の８名からなる附属図書館ボランティア活動委員会を、附属図書館長の諮問委員会とし
　　　　て設置した。
　　　2②ボランティア担当係の新設
　　　　ボランティア活動を円滑に行うため、平成７年４月に行った事務機構改革により、図書館
　　　　部情報管理課に図書館公開係を新設した。
　　(3) その他
　　　・　本学の図書館利用証の発行

　２　活動内容
　　(1) 活動の形態
　　　　平成８年度は４７名の附属図書館ボランティアが登録している。対面朗読以外は、午前（10
　　　時～12時）と午後（１時～４時）の半日を活動時間の一単位としており、常時４名が活動して
　　　いる対面朗読では、凡そ同じ時間帯で利用者の希望に応じて活動している。
　　(2) 活動内容
　　　1　図書館の利用や蔵書検索の案内
　　②2　図書館見学の案内
　　③3　視覚障害者への対面朗読
　　④4　身体障害者の図書館利用支援
　　　5⑤日本語が不自由な外国人の図書館利用支援
　　　6⑥貴重書展示室常設展示の案内
　　(3) 研修
　　　1①事前研修
　　　2②フォローアップ研修
　　　3③その他：
　　　　ア．自主的な勉強会
　　　　イ．図書館員の自主的な勉強会への参加
　　(4) その他
　　　　ボランティア活動の広報

　３　ボランティア活動がもたらす大学図書館への効果
　　(1) 業務としての図書館サービスでは届かないケアーを利用者に行い、利用者への学習機能を一
　　　層高める。
　　(2) 図書館職員が気づかないような課題や利用者ニーズを図書館運営に反映できる。

５　今後の課題
　１　ボランティア間のコミュニケーション
　　　曜日毎に活動するメンバーが固定されているため、ボランティア間の意志疎通を図ることが困
　　難である。ボランティア内の自主的な組織「図ボラの会」の充実に期待している。
　２　ボランティアと図書館とのコミュニケーション
　　　附属図書館についての情報をスムーズに伝達する手段を確保する必要がある。また、ボランテ
　　ィア活動と図書館業務との範囲の整理・調整を図ることにより相互理解を深め、ボランティアと
　　図書館職員との交流の場を積極的に作り出している。ボランティアと図書館との相互理解のため
　　に、意見交換を行う場として、図書館とボランティアとの連絡会を設けている。
　３　学内との連係
　　　身体障害者や留学生を担当する学内の部署と連係し、図書館サービスとしての障害者サービス
　　や留学生サービスを効果的に行っていく必要がある。
　４　地域との連係
　　　市町村や都道府県による障害者へのサービスや外国人に対するサービスとの連係及び地域のボ
　　ランティア団体との連係や交流が必要である。
　　　なお、附属図書館ボランティアは、つくば市の社会福祉協議会にボランティアグループ登録を
　　行い、ボランティア保険掛金の助成を受けている。
　５　生涯学習と附属図書館ボランティアとの関係の整理
　　　地域住民の生涯学習への貢献という観点から大学附属図書館が図書館ボランティアを導入して
　　から１年が経過した現在も、ボランティアと図書館の双方に、生涯学習とボランティア活動、及
　　び大学図書館のかかわりについて共通理解が未だ十分形成されていないことが、今後のボランテ
　　ィア活動の充実を図るうえの最大の課題となっている。生涯学習と附属図書館ボランティアとの
　　関係を整理するヒントとして、次の指摘がある。
　┌―────―────―────―────―────―────―────―────―─┐
　│　いわゆる欧米の人々は、『学習とは charge （充電）であり、学習成果を用いた活動は　　　│
　│discharge （放電）である』と考えているので、『ボランティア活動を生涯学習振興の一貫と　│
　│して推進する』という発想は、奇異に思えるようです。（岡部薫『行政関係者のための新刊入│
　│門・生涯学習政策』東京、全日本社会教育連合会、１９９６，ｐ．４３　　　　　　　　　　│
　└―────―────―────―────―────―────―────―────―─┘

資料１

資料２

資料３