第18回大学図書館研究集会. 第二分科会「情報リテラシーと相互協力」
授業を担当して資料を作る(口頭発表予稿)
東京外国語大学 高橋哲也
□東京外国語大学の新入生必修科目「情報リテラシー」
東京外国語大学では、
新入生(および3年次編入生)の必修科目として、「情報リテラシー」を平成13年度から新設しました。授業の目的は、
(1)コンピュータやインターネットの基礎を理解する
(2)学内の情報機器の利用方法を学び、有効な情報検索を行う
(3)専攻語をコンピュータで使う、の3点です。
授業は1学年約800名を3クラスに分け、7月までの半期13コマの講義および実習で、
複数の教官がリレー方式で分担しました。
講義は、大教室でスクリーン上にパソコン画面を投影しながらおこなわれました。
◇図書館の分担
「情報リテラシー」の授業のうち、第8回と第9回の2コマの講義(6月12日〜21日)については、附属図書館の事務職員が担当しました。
図書館に割り振られたテーマは、「情報検索法」でした。
第8回は、情報検索の基礎、またはその前提となるものとして、図書館の使い方を説明しました。
教員の担当した各回の内容は、主として狭義の「情報リテラシー」つまりコンピュータ・リテラシーが中心のようでしたが、そのコンテクストの中で図書館の分担する回に期待されているものは何かと考え、
第9回はインターネット上での情報検索(蔵書検索、文献検索、サーチエンジン等)のコツ(tips)と実例を、現場の体験に基づいて説明しました。
☆説明資料はホームページ上に公開
図書館の分担した回の説明資料は、「情報リテラシー」授業の受講者以外の一般利用者にも役立つよう、実際に使える跳び先もリンクした全文を、附属図書館のホームページ上に公開し、日常の検索案内のガイドとしても活用しています。
■図書館員自ら情報リテラシー能力を高める
今回の授業は、担当させていただいた図書館職員の側としても、
広義の情報リテラシー、すなわち、情報の検索・収集、資料文書の作成、口頭発表という一連の流れを実習する場となりました。
たとえば、検索例を作るために、このように入力するとこういう結果が出てくる、
というつもりでいろいろ試してみると、結果が予期したものと違う場合がしばしばあり、日頃、各種検索システムを常用する業務に携わっていながらも、使い方をあまりきちんと確認せずに使用していたことに改めて気付かされることがたびたびありました。
☆授業のための資料をどのように作成したか
個人的な事情ですが、私は現在の勤務先には今年の4月に異動したばかりだったので、
今回の授業のための資料は、前任校でガイダンスのために作成したテキストをもとにして再構成し、東京外国語大学の蔵書構成や専門分野に合わせてカスタマイズしました。
その前任校でのガイダンス資料はどのように作成したかというと、
さらにまた以前の勤務先のオリエンテーション用の資料や業務マニュアルその他を素材として使用しました。
諸先輩が原型を作り、代々更新されていたものもあれば、自分で最初から書いた部分もあります。
また、図書館の使い方や文献探索法に関する図書もいくつか参照し、足りないところを補いました。
◇他大学の図書館のホームページからの参照・流用
他大学の図書館のホームページに掲載されている文献の探し方ガイドもお手本にさせていただきました。
ところで、いくつかの大学の図書館では、文献の探し方ガイドを冊子のかたちで刊行していますが、せっかく手間暇かけて制作した内容が、学内で紙媒体を手にした人だけにしか伝わらないのは惜しい気がします。
けれどもたとえば、京都大学さんの『access.txt : 文献調査・利用ガイド』や、
実践女子大学さんの『インターネットで文献探索』のように、冊子の全文がホームページ上にも公開されていれば、他大学の図書館職員をはじめ、学外者にも知識・技能が共有化され、よりひろく役立つことになります。
※他大学のホームページ等にあまり書かれていないこと
これは網羅的に点検したわけでは全然ないので、単なる印象としてですが、他大学のホームページや、図書館の使い方を解説した市販の手引書にあまり書かれていないことで、
かねてから重要と思っている項目なので説明資料に書き加えたこととして、所蔵調査の際の注意事項があります。
たとえば、信頼に足る書誌・目録上の同定を経ないうちは所蔵の有無は確定しないこと、
シリーズ名を確認して再検索することの意義、
最新版あるいは刷のより新しいものを択んで読むことの勧め等です。
ホームページの他、研修出張その他で他大学を訪問した際に持ち帰らせていただいた、紙媒体の利用者向けガイド資料も参考にさせていただきました。
◇個人的に(これまでの経歴の中で)蓄積してきた文書からの流用・切り貼り
使い回しの効く自前の文書を日頃からストックしておくと、何かの資料を短期間に作成する必要が生じたとき、あわてなくて済みます。
日常業務上のマニュアルやメモの他、以前の職場で図書館報に書いた利用ガイド[たとえば、「ASK US としょかんミニガイド」『つくばね : 筑波大学図書館報』20(2), p.12(1994年9月)]や、雑誌に投稿した記事も、素材として再利用しました。
この研究集会の場には、管理職のかた、図書館報の編集委員のかたも少なからずご出席と思いますが、若手職員になるべく執筆の機会を与えていただければ、とても良い訓練の場になるはずです。
また、html文書の作成や、インターネット上の情報検索も、勤務先の機器を使って練習させていただいてきました。職場のコンピュータを業務に直接関係ない用途に使用するのは、あまり好ましくないことかもしれませんが、一定の節度は保ったうえで、趣味的な使用も寛大にお許しいただければ、システム担当者や参考業務関係者以外の職員にも「情報リテラシー」能力を普及し、人材の裾野を拡げることにつながると思います。
□今後の課題
◇図書館の使い方の基本的な知識・技能を全ての利用者に行き亘らせること
図書館の担当した回は、今年度は6月中旬でしたが、図書館の基本的な使い方は、もう少し早い時期に、新入生全員に講習したいところです。また、新学期早々の方が、より高い出席率が期待できます。
◆サービスメニューの拡大: レポート・論文の書き方
レポート・論文の内容面の指導は教員の領分ですが、
参照文献の書き方をはじめとして、形式面のガイド/サポートを提示したいと考えています。
不正確/不十分な引用によって,レファレンス/相互利用業務の現場でいかに多くの無駄な時間と労力が費やされているか(文献所蔵調査と書誌情報との関係)、
読者がより容易に当該文献に辿り着けるような配慮を、
新刊情報を確認して現時点での最新版や入手のより容易な版を指示する、
といったことについてです。
卒業論文の書き方や文献探索関係のガイドは、大学の教員の作成したものも、ホームページ上に多数公開されていますが、
しばしば書かれている(ので困る)こととして、本に書き込みしながら読むことの勧めが、
また、あまり書かれていないこととして、読書記録の管理法があります。
■相互協力(ILL)
常連利用者ですら、しばしば、学内所蔵を見落として学外依頼申込書を提出していることは、現場の担当者ならば皆様良くご存じのはずで、学外へ依頼を実際に発信する前に学内所蔵を再確認していることとは思います。それでもチェック漏れはありえます。
また、そのこととは別次元で、依頼書に書かれたとおりの文献そのものは確かに学内所蔵なしでも、代替文献というか、同じテーマ/目的にとって、より適切な文献が存在し、それが学外手配しなくとも入手可能な場合が、相当数あるのではないか、という気がします。
つまり、身近な入手先をじゅうぶん使いこなしていれば学外へ依頼する必要のなかったはずの文献が、かなりの件数、ILLで依頼されているのではないかという懸念があります。
利用者各自の情報リテラシー能力が向上すれば、より適切な文献をより適切な入手先に求めるようになり、図書館の相互利用業務のうちのある部分は要らなくなる、あるいは業務量を軽減できるのではないかと思います。
かねてから私は、博識な図書館員が不要となった世界が望ましいと考えています。利用者自身が自力であらゆる資料にアクセスでき、図書館員の助力を必要としないようになることが理想です。しかしながら、従来は、
- 利用者にとってじゅうぶん使い易い環境がなかなか整備できない
- 一般利用者は、情報リテラシーの習得機会を、通常の学校教育の中でほとんど与えられてこなかった
といった状況にあったため、やむをえず、補助者としての図書館員が必要だったのだと思います。
今後、情報リテラシーの普及により、誰もが図書館の使い方や文献の探し方・入手方法についての知識・技能を身に付け、レファレンス担当者が安心して失業できる世の中を期待します。
この表現には語弊があるかもしれませんが、犯罪者がいなくて警察の要らない世界とか、誰も病気にならなくて医者の要らない世界と同様に、
誰もレファレンス・ライブラリアンを必要としないユートピアという比喩で表せば、いくらかはご理解いただけるでしょうか?
Last updated: 2004/11/02[林哲也]